リナ×エリッサ



 上下関係なんてものは結局どちらが強いかで決まるんだ。エリッサは故郷では次期族長といったような地位にあったらしいが、今はそんな言葉に何の意味もない。私が私でしかないのと同じくエリッサも拠る辺なきただのエリッサだ。
 彼女の後ろにあるものに、私が跪くことはない。
 私とエリッサ、一対一でどちらが強いかを分からせてやる。そのクーズランドとかいう姓を取っ払ってしまえば、いけ好かない偉そうな態度もなりをひそめるだろう。雌雄を決するっていうやつだ。そしてもちろん、雄となるのは私だ。
 私を見て、とくに警戒も興味も抱かず視線を流した彼女に飛びかかり、壁に押しつけた。
「リナ? 何を……」
 エリッサの目は驚きに見開かれた。こんなに間近で見たのは初めての、深い森の影のような緑眼。意外と綺麗だ。好ましいとさえ感じる。だがまずはこいつを降すのだ。
 彼女が私を振りほどこうと腕に力を入れるより早く、ぎゅっと目を瞑り、つま先立ちになって自分の唇を彼女のそれにぶつけた。文字通り、思いっきり、ぶつけた。唇の感触はよく分からなかった。
「うへっ」
「いった!!」
 ガツンと鈍い音がして同時に悶絶する。どうも勢いがよすぎたらしく、盛大に歯をぶつけてしまった。痛みに涙ぐみながらもどうして鼻じゃなく歯がぶつかったのかと考える。
 そうか、下からいったのがまずかったんだ。エリッサは背が高い。座らせるか寝かせるかすべきだった。
「くそ、失敗だ……」
「な、お前は、何がしたかったんだ!」
「無理やり押し倒してキスする予定だった」
「はあ!?」
 か弱い乙女のように悲鳴をあげ、焦って逃れようとするも叶わず、離してくれと私に許しを請う、とまではいかないにしろ彼女に敗北感を味わわせたかったのだ。結果は両者痛み分けという感じだが。
 私は下の歯をぶつけたようで衝撃が連なり顎までジンジンしている。身長差を修正しようと本能的に狙いが上方に向かったのだろうか、エリッサは上の歯と鼻の間を押さえていた。
 目が合った。あちらはもっと痛かったのか、相当怒っているようなのはとりあえず見ないふりしておこう。
「……リナ。ここは急所だから、誰かの顔を殴る時は覚えておくと役立つ」
「そうなのか」
「今すぐ身を以て教えてやってもいい」
「遠慮する。言葉だけでも理解した」
 エリッサへのキスは失敗に終わったが、少なくともひとつ勉強になった。よかった。キスは次の機会に成功させればいいんだ。彼女が恥ずかしさに歯噛みする姿を見るまで私の挑戦は続くのだから。



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