犬飼と訓練を積む。
露乃の強みは射出の判断能力だと彼は目をつけた。
「肩の力もっと抜いて、後、狙いを定めたら目をつぶらないでその勢いだけでこう、バーンと撃っちゃいな。」
「は、はぁ。」
大雑把な犬飼の説明についていけてない様子の露乃。
だが、言いたいことはわかる。
「まあ、手っ取り早いのはこうして戦う事だね。
生身の方も鍛えた方が動きやすいって聞くよ。」
「そうなんですか…。」
生身を鍛えるということに露乃は筋トレをしようかなと考え込むが犬飼がそれを止める。
「いきなり筋トレから入ろうとか思ってない?」
「まあ、鍛えるならそうなのかなと。」
「いやいや、無茶したら元も子もないからね。
すごいことしなくても、例えばほら、家の周りをジョギングするとか簡単な事から始めればいいから。」
「…でも。」
「そんなに早く強くなりたいの?」
犬飼の問いに露乃は目を伏せる。
邪な考えで強くなりたいという自分に彼は助力してくれるのだろうか。
嫌な考えが頭をよぎり体を硬ばらせる露乃。
もし、本当のことを言って彼が師事を降りると言い出したらどうしよう。
そう怯えていると彼はゆっくりと肩を叩く。
「言いたくないならいいよ。
俺も無理に聞こうと思ってないし、今日はこのくらいにしておこうか。」
「…ごめんなさい。」
「話したくなったらでいいよ。
友達としても露乃ちゃんのこと気になるし。なんならこれからカラオケでも行く?」
犬飼の誘いに丁重にお断りを入れる。
「ごめんなさい、人を待たせてるんでまた今度、私から誘ってもよろしいでしょうか?」
「勿論、可愛い弟子の誘いならいつでも乗るよ。じゃあまたね。」
「もう、からかわないでください!
はい、またお願いしますね。」
そう言って、二人は別れてブースを出た。
SNSの履歴を確認すると空閑から別のブースに集合するようにとの連絡が来ている。
(遊真っち達も終わったのかなぁ。)
そう呑気に考えて言われた場所に行く。
何故か三雲と風間が模擬戦をしていた。
「よっ、ツユノ、遅かったな。」
「遊真っち、何が何だか…状況がわからないんだけど?」
ポカンとしてる露乃に烏丸が代わりに説明する。
「風間さんが修に挑んで負けている。烏丸京介だよろしく。」
「これはどうもご丁寧に、もう姉から聞かされていると思いますが雛菱露乃です。」
頭を下げると不機嫌そうな木虎が割って入る。
「ちょっと、貴女までなんでくるのよ。」
「へっ、遊真っちに三雲君が大変なことになってるって呼ばれて来たんだけど迷惑かな?」
露乃の天然発言にため息をついて木虎は三雲たちの方に向き直る。
歯が立たないなりにも彼は前を向き、見えない相手をどうにかする手立てを考える。
「が、頑張れー!三雲っちー!」
声は聞こえずとも声援を送る露乃。
横目で鬱陶しそうに菊地原は露乃を睨む。
「応援しても結果は変わらないよ。風間さんが勝つ。」
「こら、菊地原。」
「わかりませんよ。私、三雲君が強いこと信じてますから。」
最後の一戦、低速の弾が部屋いっぱいに放たれる。
「風間さんは透明のままじゃ弾丸を防御できない。
考えたな修。」
「じゃ、じゃあ、三雲っちが!」
「そう慌てるな、カメレオン無しでも風間さんは強いぞ。」
烏丸の解説に肩を落とす露乃だが彼の実力を何よりも信じて前を向く。
決着は瞬間に着いた。
三雲がスラスターで風間を追い込み、シールドで動きを止める。
トドメにアステロイドを炸裂させるが同時に風間のカウンターが三雲の首を貫く。
【伝達系切断、三雲ダウン】
悔しがる三雲を他所に木虎は冷静につぶやく。
「…惜しかったわね。」
「そんな筈…。」
「…いや、そうでもないよ。よく見てツユノ。」
ガッカリする露乃の肩を遊真が叩く。
風間の腕が切断されそこからトリオンが露出している。
【トリオン漏出過多!
風間ダウン!!】
「えっ、それじゃあ…。」
「最後は相打ち…引き分けだ。」
風間が引き分けを認め、試合は終了した。
その事を露乃も自分のことのように喜ぶ。
「やった!やったよ!三雲っちが三雲っちが!」
「はいはい、落ち着けよ。」
「まさか、引き分けるなんて…。」
宥める遊真と呆気にとられる木虎。
「オサム、やったじゃん!」
「やった…のかな?」
実感がない三雲に二人は駆け寄りハイタッチをする。
「自信持って!三雲っちがもぎ取った引き分けだよ!」
「…イマイチ実感ないけど、為にはなったよ。」
その後、千佳とも合流し、アイビス壁穴事件に驚愕し、その日は終わった。
家路につく途中、呑気に露乃は口を開く。
「いやーすごかったね千佳ちゃんの開けた穴!」
「そ、そんな。悪いことしちゃったよ。」
落ち込む千佳に遊真は足を止める。
「チカが気にすることないって。あのおじさんも言ってた事だし。」
「そーだよ!千佳ちゃんの実力なんだから落ち込む事ないよ。これからゆっくり使い方覚えていけばいいんだよ!」
「そうだぞ千佳、焦らなくていいんだ。」
遊真と露乃と三雲の励ましにホッと胸を撫で下ろす千佳。
「みんな、ありがとう。」
千佳の笑顔が戻った事で三人は別れてそれぞれの家へと帰る。
「またねー。」
「嗚呼、またなツユノ。」
「またね、露乃ちゃん。」
「もう寝坊するなよー。」
「その時はよろしくねーえへへ。」
戯けた仕草で露乃は三人に背を向ける。
おそらく三人はこれから玉狛へ寄るのだろう。
少しだけ、寂しさを紛らわすように露乃は前を向いて歩く。
*
数日後、ラウンジにてヒソヒソと三雲の噂が聞こえる。
あの風間さんと引き分けたB級隊員がどうとかあまり良くない噂だ。
「三雲っち、頑張ってる?」
戯けた仕草で声をかける露乃。
「嗚呼、雛菱か。」
「気にすることないからね。三雲っちの実力は私も見てたみんなも知ってるから。」
「いや、僕の力不足だ。」
余計に自身を追い詰める三雲。
狼狽える露乃、そんな二人に茶髪の少年が声をかけてくる。
「ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ。」
「何?」
「そっちの彼に用があるから君じゃない。」
馴れ馴れしく聞いてきた少年に露乃が怪訝な顔で食い下がる。
「な、何かな?」
「その方のマーク、玉狛のやつだよね。
玉狛支部の人?」
そう唐突に聞く彼。
何か裏があると露乃は警戒するが三雲は平然と答える。
「え?嗚呼…そうだよ。
最初は本部で入隊したんだけど玉狛に転属したんだ。」
「転属?なんで、どうやってしたの?」
探りを入れるような質問に露乃が割って入る。
「さっきから何?そんなに三雲っちのことを聞いてどういうつもり?」
「どういうつもりも、ただ純粋に風間さんが引き分けた人ってどんな人かなって。」
どこまでもシラを切る彼に喧嘩腰になっている露乃を三雲が止める。
「よせ、悪口を言いにきたわけじゃないだろう。」
「でも、このタイミングで可笑しいよ。」
怪しむ露乃に彼はどこの吹く風で話を進める。
「今日、防衛任務は休み?」
「あ、うん、休みだけど…。」
そう言うや否や個人戦の申し込みをし、あれよあれよとギャラリーが集まり始まった。
スコーピオンとグラスホッパーを駆使する相手に対し翻弄される三雲。
ギャラリーは皆、期待外れだと口々に言う中、露乃は悔しくて下を向く。
「あれ、ツユノじゃん。」
「遊真っちと…あの時攻撃してきた人ですよね。」
警戒するように露乃は遊真の後ろに隠れる。
そんな彼女の反応に余裕の笑みを浮かべながら米屋は前へ出る。
「そんなに警戒されるとマジで傷つくんだけど。まあ、同じボーダー隊員として仲良くしようや。
俺、米屋陽介。」
差し出された手をおずおずと握る。
「雛菱露乃です。先ほどはすみませんでした。」
二人が和解して、自己紹介をしていると三雲がブースから出てきた。
「こら、おさむ!負けてしまうとはなにごとか!」
小さな男の子が三雲を叱咤する。
「なんか目立ってんなー。」
「三雲っちお疲れ様。」
三人が駆け寄ると驚いている様子。
「陽太郎…!?空閑…!」
ラウンジの上からさっきの緑川が三雲達を見下す。
「おつかれ、メガネくん。
実力は大体わかったからもういいや。
帰っていいよ。」
カチンと来る言い方に露乃は代わりに前へ出る。
「ちょっと、自分から勝負を申し込んでおいてその態度はないんじゃないの?」
「ひ、雛菱、やめろって。」
三雲が露乃の肩を持って止める。
雛菱という単語に少年は反応する。
「ふーん、龍樹先輩の妹さん?
じゃあ君が今度は相手になる?
」
挑発的な態度に遊真が代わりに答える。
「なあ、この見物人集めたのお前か?」
鬱陶しそうに緑川は答える。
「…ちがうよ。
風間さんと引き分けたっていうウワサに寄ってきたんだろ。
オレは何もしてないよ。」
「へぇ、おまえ、つまんないウソつくね。」
遊真の謎の威圧に呆気にとられる緑川。
今度は空閑から勝負を申し込み、負けたら三雲を先輩と呼ぶことを条件に二人はブースへと消えていく。
「…大丈夫かな遊真っち。」
「空閑が強いのは知ってるがあの緑川っていうやつも強かったからな…。」
固唾を呑む2人。
戦いの火蓋は切って落とされた!
【To be continued】
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