邪悪な残穢が強まり、両面宿儺が目覚める。
『ああ、やはり。
光は生で感じるに限るな!!』
虎杖悠仁だった彼の体は宿儺に意識を乗っ取られ歪んだ欲望を高々に叫んだ。
『いい時代になったのだな。
女も子供も蛆のように湧いている。
素晴らしい鏖殺だ。』
そう言い切る前に薙原が術式を作動させ飛びかかる。
だが、その動きを予測したかのように宿儺は彼女の首を掴み投げ飛ばす。
「…くっ。」
「薙原大丈夫か!」
校庭に投げ出される彼女の体。
心配する反面、俺だけでも目の前の敵をなんとかしなくてはと呪力を廻す。
「人の体で何してるんだよ。返せ。」
『オマエ、なんで動ける。』
「いや俺の体だし。」
いきなり虎杖の意識が浮上し、会話を始める。
この好機を俺は見逃さない。
「動くな。
オマエはもう人間じゃない。」
「は?」
俺の言葉に虎杖は間抜けな顔で振り返る。
悪いが同級生に手を出した以上、これ以上容赦はしない。
「呪術規定に基づき、虎杖悠仁、オマエをー。
″呪い″として祓う。」
今の意識が虎杖か宿儺かはわからない。
「いや、なんともねーって。
それより俺も伏黒もボロボロじゃん。薙原さんいないし!
取り敢えず病院行こうぜ。」
覚悟を決めた矢先、口を開いて弁解を述べる。
状況を飲み込めず混乱していると薙原を抱えた五条先生がやってきた。
「今、どういう状況?」
「五条先生!どうしてここに?それより、薙原は…。」
「無事、恐らく宿儺の呪力の霊障だろうね。
しばらくすれば起きるよ。
来る気はなかったんだけど二人ともボロボロだね。」
宿儺絡みで上が煩いとぼやきながら彼は見つかったのかと聞いてくる。
「あのーごめん。
俺、食べちゃった。」
気まずそうに虎杖が答える。
沈黙が流れ、五条先生が驚いたようにいう。
「マジ?」
「マジ。」
俺が返事すると板取に顔を近づけて観察する先生。
「んー?
ははっ、本当だ混じってるよ。
体に異常は?」
「特に…。」
「宿儺と代われるかい?」
五条先生が説明をし、10秒で意識を戻せと虎杖を諭す。
「恵、志保とこれ持ってて。」
意識のない薙原を下ろして紙袋をこちらへ投げる。
一応、けが人なんだから丁重に扱えよ。
そう心の中で毒吐く。
紙袋の中を問えば喜久福と答えた。
土産もちゃっかり買ってる彼に頭を抱えている。
「薙原…すまん。」
意識のない彼女の顔を拭ってやり、虎杖たちを見る。
本当に宣言通り、10秒で事を終わらせて虎杖を気絶させる。
「さて、ここでクエスチョン。
彼をどうすべきかな?」
俺を試すように彼は問いかける。
真っ直ぐ前を見据えて言い返す。
きっと薙原も同じ事を言うはずだと。
「…仮に器だとしても呪術規定にのっとれば虎杖は処刑対象です。
でも死なせたくありません。」
「ふーん、私情?
で、志保はどうなの?」
意識のないはずと腕の中を覗き込めば彼女は起きたての顔で答える。
「ゆーじ、いいやつ。
だから、殺すのダメ。」
俺たちの主張に五条先生は任せなさいと胸を張る。
正直、賭けでしかなかった。
*
俺は寮の管理人をしている匂坂千春だ。
今日は新入生が来ると五条さんから聞いて玄関を気合いを入れて掃除していたが予定より数分遅れてきた。
「よっ、千春。励んでる?」
「アンタが言った事でしょ。
で、そちらさんが例の?」
「虎杖悠仁っす!よろしく!」
明るい髪色でいかにもやんちゃ坊主という少年が先輩の隣にいた。
「ここの寮の管理人をしている匂坂千春だ。
困ったことがあれば何でも言ってくれ。」
軽く握手を交わして部屋へと案内する。
「取り敢えず、ここの部屋は好きに使っていいよ。」
「ちょっ、五条先輩!
管理してるの俺っすからね!」
「おー!広い!広い!」
虎杖クンは俺らの言い合いも気に求めず中に入ってはしゃいている。
宿儺の器と聞いていたが年相応に元気な少年で面をくらう。
「ところで、先輩。」
「なーに千春。」
「虎杖クンは保護という形でよろしいんっすか?」
器といえども彼は素人で守られるべき年齢だ。
「ああそういうこと。
ねぇ、悠仁戦わなくていいよって僕達が宿儺の指を集めるって言ったらどうする?
衣食住は保証するしまあ、監視役として千春が付くけど不自由はさせないつもりだけど。」
また五条先輩の悪い癖が始まったと頭を抱える俺。
だがその心配は杞憂に終わる。
「いい、戦うって決めたから。つーか蒸し返すなよ。」
成る程、面白い子だと感心していると五条先輩が宿儺の指について話し始める。
「げっ、隣かよ。
空室なんて他にいくらでもあったでしょ。」
「なーに?」
話し込んでいると隣室から伏黒と薙原さんが出て来た。
ここ、男子寮なんだけどなぁ。
なんで二人一緒に居るのかは聞かないこととする。
「おっ、伏黒と薙原。
二人とも元気そうだな。」
彼らの声につられて虎杖クンも顔を出す。
「だって賑やかな方がいいでしょ。」
茶目っ気たっぷりに先輩が言えば嫌そうに眉を潜める伏黒。
「授業と任務で十分です。
それより薙原を男子寮から出禁にしてください、千春さん。」
苦笑いをして迷惑をかけちゃダメだよと諭せば薙原さんは顔を背けた。
やっぱり俺嫌われてるなぁ。
「本当は嫌じゃないくせに。それより、明日はお出かけだよ!
四人目の一年生を迎えに行きます。」
その日は五条先生の原宿に九時半集合という一言で解散となった。
*
「一年がたった四人って少なすぎねぇ?」
原宿の駅前にて五条先生を待つ。
ふと虎杖が純粋な疑問を口にした。
「じゃあお前、今まで呪いが見えるやつなんてあったことがあるか?」
「あるー。」
気の抜けた薙原の返事にお前じゃないと突っ込む。
「…ねぇな。」
「それだけマイノリティなんだよ、呪術師は。」
「だからみんな大変。」
「ってか俺が四人目って言ってなかった?」
薙原の言葉にはあえて突っ込まず話を進める。
「入学は随分前から決まってたらしいぞ。
こういう学校だしな何かしら事情があるんだろ。」
「知ってるー女の子だよー。」
何故こういう情報だけはこいつは早いのか。
考えるだけ無駄かとため息をつけば五条先生が遅れてやってきた。
道すがら制服の話やら買い食いで浮かれる薙原と虎杖。
呑気なものだ。
「悟ー、頼んだクレープ。」
「はいはい、ありがと。」
五条先生もちゃっかり…というか生徒を顎で使って良いのかこのダメ教師。
「恵もアイスティー。」
「俺はいい。」
「おやおや〜恵は素直じゃないなー。
じゃあ僕が飲むから志保、ガムシロもらって来て。
五個ね。」
「…やっぱり飲む。」
受け取りを拒否すると五条先生が煽ってくるし薙原は困ったように眉を潜めるので諦めてアイスティーを受け取った。
薙原を一人にするとろくな事ないし、何より五条先生がうざいからだ。
そう言い訳しながらアイスティーを飲む。
持ち帰り用に袋でクレープが数個入っている。
きっと二年生の先輩のお土産だろう。
珍道中はまだまだ続く。
【続く】
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