グラウンドにて、皆、コスチュームについて銘々言い合っている。
今回はヴィランとヒーローに分かれてそれぞれの役割で戦闘訓練を行う。
チームは、くじ引きで決まり、雫は猫柳とペアになった。
「よろしく、猫柳さん。」
「精々、足を引っ張るにゃよ。」
「あはは。」
笑いながら誤魔化すと背を向けて猫柳は無視を決め込む。
 
* 
 
 第1組や第2組は怒涛の実力者の戦いぶりで皆、呆気にとられていた。
第3組は雫たちと上鳴、耳郎ペアだ。
友達が敵になるとは思っても見なかった雫は動揺している。
しかも自分はヴィラン、耳郎達はヒーローとして。
「やりづらいなぁ。」
「仲良しごっこなんてしてるからにゃ。」
呆れながらフロアを出る猫柳。
「あっ、猫柳さん段取りとかは…。」
「そんなの必要ないにゃ。
アタシが攻めてあんたが守る。
それだけにゃ。」
それだけを言い渡されて雫は仕方なしに泡でモニュメントを覆う。

 二階に降りた猫柳個性を発動させて耳を澄ませる。
人間の約3倍の聴覚で音を聞き分ける。
耳郎のイヤホンジャックで足音を誤魔化してるつもりだが聞き分けられる猫柳にとってそれは妨害にならないのだ。
「面倒だから2人まとめてやるにゃ。」
手から爪を伸ばし足を猫足にし、脚力を上げ急ぐ。
「居た!上鳴、任せたよ!」
耳郎の指示に半ば無理やり前へ突き出される上鳴。
「うぉ!お、俺どうすれば…。」
「個性で攻撃!ボサッとしない!」
耳郎が猫柳の攻撃をかわしてすり抜けた隙を狙って上鳴は放電する。
「にゃああああ!」
電撃が直撃し、その場に崩れ落ちる猫柳。
「や、やったか?」
だが、ここで膝をつく猫柳ではない。
フラフラと立ち上がり、爪を構える。
「うそぉ!まだ立ち上がるのか!」
「…当たり前にゃ。」
もう一度放電をしようとするが足元を掬われて押さえ込まれ確保テープを奪う。
ついでに首元に爪を突きつけられる。
「こ、降参!降参!ギブギブ!」
上鳴は押さえ込まれた腕が痛く頭もボーッとする中、戦意喪失という感じで鼻水を垂らしながら泣き叫ぶ。



「まさか、響香ちゃんがこっちに来るとはね。」
互いに息を飲む。
いつかはこうして戦う覚悟はしていた。
だが動揺を隠しきれない。
耳郎は正面突破のように駆け出す。
「手加減なしだから!」
イヤホンジャックがモニュメントを包んでいた泡に刺さろうとする。
「甘いよ!」
刺さる前に水の鞭が弾こうとしたが咄嗟に庇う姿勢に入った耳郎の目の前で鞭が霧散する。
「ハッタリのつもり?
そっちの方が甘いんじゃないの?」
そう言いつつも目標をモニュメントから雫に変える。
直接、心音を聞かせて怯ませられれば打開できると考えたのだ。
だが足元にある細かい泡に気がついていなかった耳郎。
「かかったね。」
スリップして尻餅をつく彼女。
ゆっくり雫は近寄って手を擦り広げる。
ドーム状に耳郎を泡で包む。
慌ててイヤホンジャックを指して抵抗するが弾力のある壁に阻まれる。
「ごめんね、それ、強度と弾性を最大にしてるから中々割れないよ。」
それでも耳郎は諦めず攻撃を続けるがタイムアップというオールマイトの声でハッとなる。
「ヴィランチームwin!」
「解除!」
手を叩き、泡を解除する。
雫は手を指し延ばすがその手は取られず勝手に立ち上がる。
「なんで、手加減したの?」
「ごめん…。」
してないとも言い切れない。
だが水の個性はデメリットや制御が難しく、万が一彼女を窒息させたり溺れさせてしまったらという懸念があるのだ。
「謝って欲しい訳じゃない。理由を聞いてるの。」
「あの、私、水の方の個性の制御がイマイチだから…もし、響香ちゃんが怪我したらどうしようって…。」
「馬鹿じゃないの?
怪我してもリカバリーガールがいるしヒーロー目指すくらいリスクも怪我も承知の上でしょ!」
その言葉にハッとする雫。
そうだ、ここにいる以上、皆リスクを背負うのは当然だ。
『耳郎少女、水無月少女いいかな?講評の時間だ。』
オールマイトの声に2人は返事をして演習場を後にする。
「ごめんね、ありがとう。
ちょっと考える。」
「別に…これからは負けないから。」
「うん、わかった。」
講評中ずっと上の空で考えていた。
本当に私はどんなヒーローになりたいのか。
人を傷つけたくない。
それでも超えるべき壁は幾多にもある。

 コスチュームから着替え終わってA組に行くと皆が口々に反省点を言い合っている。
轟は興味がないと足早に教室を出る。
雫は妹の塾の迎えがあるとの事で轟の後を追うように申し訳なさそうに会釈をして教室を出る。
「轟君、今日の授業、凄かったね。」
「…別に。」
「そっ、そっか。
私も水の方使えるようにならなきゃ…。勿論、轟君にも負けないからね!」
一方的な会話に雫は寂しさを覚えつつ、彼の方を見やる。
何か思いつめた表情で歩みを進めている。
「どうしたの?」
「否、それよりお前、何であの時水の鞭を霧散させた?」
ドキリと嫌な汗が背を伝う。
一番聞かれたくなかった事だ。
「い、いやーあの時は焦ってて偶々解除しちゃったと言うか…。」
誤魔化そうと必死に言葉を紡ぐが彼の表情は変わらない。
「嘘をつくな。
大方、人を傷つけることに戸惑ってるだけだろ。
選り好みして攻撃するならヒーロー目指すの辞めろ。」
見透かされてる。
だが彼の言うことは最もだ。
「…そう、だね。
でも、私は、お母さんみたいになるの!
それが夢だから。こんな事でつまずいてられない。」
「…口ではなんとでも言えるがな。」
それだけ言い残し、足早に彼は去って行く。
轟の言葉が重くのしかかる。
その日は妹を塾から迎えに行って手を繋いで帰る。
「おねーちゃん、なんか今日、元気ない?」
不安そうな妹に目線を合わせて大丈夫だと言う。
まるでそれは自身に暗示をかけるの様な言葉だった。
 


 次の日、いつものように登校しているとスーツ姿の女の人にマイクを差し出される。
「オールマイトの授業はどんな感じかな?」
「えっ、えっと…。」
私が戸惑っていると不意に手を掴まれて門をくぐる。
ちょっと!とか雫の母のヒーロー名を出して呼び止めようとする声も聞こえた。
「あ、ありがとう。」
人混みを抜けて昇降口まで来て、顔を上げると見知った紅白頭。
「…別に、お人好しにもほどがあるだろ。」
「でも、将来的には答えておいた方が良かったかなって。」
ヒーローにとってマスコミとは切り離せない関係になるものだと母から聞かされていた。
いざ、受け答えをと考えると何も思いつかなくなる。
「ああいうのは放っておけよ。
俺たちのことを聞いてるわけじゃねぇんだから。」
ため息を突かれて雫は反省し、お礼を言う。
「答えられないことは仕方がないよね。
本当にありがとう。」
轟はそんな雫を一瞥し、さっさと教室へ向かった。

 朝のホームルームで昨日の戦闘訓練について相澤先生は総評を述べていた。
「…猫柳、単独行動を自制するように。」
「ぶにゃ。」
返事の代わりに鳴き真似する猫柳。
「返事はハイだ。
さて、HRの本題だ…。
急で悪いが君らに…。」
ゴクリと生唾を飲み込む音が辺りから聞こえる。
そりゃそうだ、昨日の今日で皆警戒して居るのだ。
「学級委員長を決めてもらう。」
「学校っぽいの来たー!」
皆の心が一瞬で一つになった瞬間である。
(クラス委員か。私は皆んなをまとめる事苦手だし誰かにやってもらおう。)
飯田が場を制すが投票の結果は緑谷と八百万になった。
「じゃあ、委員長緑谷、副委員長、八百万だ。」
気だるそうに相澤先生が結果をいう。
「うーん悔しい。」
「ママママジで
マジでか…。」
悔しがる八百万と対照にビビってる緑谷に皆、口々に緑谷のいいところをいう。


 
 食堂にて、山盛りのポテトフライとハンバーガーを持って雫は移動する。
「響香ちゃんはお弁当だからなぁトホホ。」
一人でランチというのも味気ない。
せめて見知った顔があればと探すと蕎麦をすする轟が目に入った。
彼の向かいの席は空いており、向かいに立って雫は声をかける。
「ここ、いいかな?」
「…好きにしろ。」
向かいにトレーを置いていただきますと手を合わせる。
ハンバーガーにかぶりついて
ソースと肉汁を口の中で楽しむ。
ポテトフライは皮付きで絶妙な塩加減とホクホクとした歯ざわりが心地いい。
「んー美味し〜。」
雫がそう幸せそうに食べて居ると目を細めて轟はいう。
「美味そうに食べるな。」
「そりゃもう美味しいよ!
ハンバーガーの肉汁とソースも美味しいし、何より私の好物のポテトも皮付きなんだよ!
轟君もポテト食べる?」
そうっとポテトを差し出すとやや遠慮がちに轟はそのポテトを受け取る。
普段ならいらねぇと一掃するのに今日は機嫌がいいらしい。
「…うめぇな。」
ほのぼのとした昼下がりもつかの間。
大音響なサイレンの音に食堂は混乱の渦に包まれる。
食べかけの昼食をよそに雫は早く逃げなきゃと轟に呼びかける。
「落ち着け、窓の外をよく見てみろ。」
顎で差し向けられた方を見やるとマスコミが門を突破してきて居る。
成る程、この混乱はマスコミのせいかと落ち着きを取り戻す。
昼食を再開し、二人は気まずい空気の中食べ終わる。
二人仲良くとまではいかないが何となく彼の後ろをついて教室へ向かう雫であった。
 その後、飯田の勇姿により、混乱が解消された事を緑谷が主張し、緑谷が飯田を推薦した。


 
 午後からは、演習場へ行き災害救助訓練をするのだと相澤先生から支持を受けた。
バス移動という事で飯田が張り切るがバスは開けた座席で指定の意味はなかった。
雫は轟の隣に腰掛けて穏やかな寝顔に安堵する。
 バスの車内では派手な個性についての話題で轟と爆豪の名が上がる。
「そういえば、水無月さんのお母さんって海外拠点のヒーローだよね?」
緑谷が話題を振る。
恥ずかしそうに雫は口を開く。
「日本ではあんまりニュースに乗らないし、知名度も低いけどね。
でも、お母さん…リップルが出来るだけ多くの人を救いたいって考えは憧れてるの。」
「へぇ、素敵だね。」
緑谷が素直に褒めてくれることにして雫は赤面する。
「あ、ありがとう。
でも飯田君みたいに明確なヒーロー像とか無いんだけど、私もお母さんみたいなヒーローになりたいなって。」
「ケロッ、緑谷ちゃんも水無月ちゃんもいいヒーローになれると思うわ。」
蛙吹が笑顔で言うので雫と緑谷は照れて頬をかく。
「えへへ、ありがとう。蛙吹さん。」
「梅雨ちゃんと呼んで。」
「じゃあ、私も雫って呼んでよ梅雨ちゃん。」
「ええ、わかったわ。」
オイラも俺もと無粋に男子が名前呼びを希望するが目的地に丁度着いて相澤が叱咤する。
「お前ら、気を引きしめろ。
もう着くぞ、いい加減にしておけよ。」
バスを降りて眼前に広がる施設はさながらテーマパークのようだった。
まさか、ここで彼らに待ち受けている最初の試練があるだなんてこの時は誰も想像がつかなかっただろう。
 
【To be continued】
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