※残酷描写並びに暴力表現を含みます。
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 落花流水
[意]
落ちた花が水に従って流れる意で、ゆく春の景色。
また、男女の気持ちが互いに通じ合い、相思相愛の状態にあること。(広辞苑より) 

 それは桜が散り、汗ばむ陽気の季節の事。
闇に紛れ、人を喰らう鬼を退治する機関に属する上位階級柱の宵月紫。
そんな彼女が辺鄙な村に派遣された。
何でもその村には鬼を寄せる何かがあるというらしい。
現に隊士が何人も殺されているという報告を耳にする。
「しっかしまあ、お館様もお館様だぁ。
わっち一人を行かせるとは。」
カラカラと笑うが手は震えてる。
鬼を切ることは怖くない。
だが過去を忘れられない自分に嫌になる。
 自嘲し、山を下ると山村が見えてきた。
夕闇迫る空の下、家屋の灯りが一つもない。
夜目が段々と効いてくる。
しん、と静まり返った村が不気味で気持ちが悪い。
一軒一軒回って確かめたらいい。
「鬼が出るか蛇が出でるか…それとも死体が出るか。」
そう呟いて戸を強めに叩く叩く。
返事がない。
これはまずいと戸に手をかけると軽い感触。
空いている事が可笑しい。
何かあったのだなと判断して踏み込むとすえた臭いと廊下を汚す赤い液体。
「…間に合わなかったか。」
転がる肉塊を呆然と見つめ手を合わせてから奥の間へと足を進める。
ぐちゃ…ぴちゃ…ぐちゃ…。
水気を帯びた何かをこねくり回す音。
荒い息遣い、獣のような唸り声。
間違いない、鬼がいる。
刀の柄を触り嫌な汗が伝う。
もうすでにこの家が鬼の口であり、胃の中で有るのかという錯覚さえ感じる。
 奥へ、奥へと足を進めると鉄錆の臭いが鈍い頭に登っていく。
嗚呼、これはダメだ。
この得体の知れない肉塊は全く持って人間ではない。
そう思わなければ気が狂う。
そう言い聞かせながら彼女は懐から竹筒を出して酒を煽る。
彼女は正気を保つよりも鬼を切るのは正気ではない方がいい。
そう考える人間なのだ。
 
 血の染み込んだ襖を蹴破ると。
『グルル…グガ…ギガ…。』
なんてこったい、血に濡れた着物を抱いて肉塊を食べてる小僧、否もうこれは鬼だ。
「さてと、大人しく斬り殺されなせぇ!」
抜き身の真剣を振りかざし襲いかかる。
だが、鬼は肉塊を手放し、どこかへと去ろうとする。
「待て!行かせるかよぉ!」
奴の足取りを追う。
村の大通りを抜け、林を抜け、山を登る。
粗末なあばら家に鬼が逃げ込んだ。
「追い詰めたわけだがなぜお前がいる。」
あばら家付近に気配を感じ振り返ると同僚が佇んでいた。
黒髪の若き剣士に切っ先を向ける。
彼の名は冨岡義勇。
宵月の同僚であり、水柱の一角だ。
「…。」
「ハッ、澄まし顔でだんまりか。
まあ、いい。
わっちは行くからな。」
それだけをかわして彼女は家屋に入った。
中は埃っぽく微かに季節外れの梅の匂いが立ち込めていた。
「なんで梅の匂いが…。」
足早に進むと何かに飛びからんとする鬼。
その瞬間、刀身が青白く光り宵月は飛びかかった。

【光の呼吸、肆ノ型 青蜂】
 
 鬼を刺突の勢いのまま土壁に縫い付ける。
ぎゃっ、ぎゃっとうめき声を上げ鬼は暴れる。
「まだ鬼になりたてか。苦しかっただろう。
もう楽になれ。」
弔いの言葉を述べながら鬼が変化する一瞬の隙にとどめを刺す。

【捌ノ型、冠牡丹】

静かに線香花火のような儚い灯火が鬼を包む崩れゆく。
一仕事終えた夜月は後ろを振り返り鬼が飛びかからんとした者へと声をかける。
「大丈夫か?…ん?」
真っ白の髪、紅目を持つ少女がそこにいた。
頸動脈から流れる血は微かに梅の香りが漂う。
一瞬鬼かと警戒したがそれにしても大人しい。
「…こ、殺して、ください。」
少女は息も絶え絶えにいう。
「おい、小娘。
わっちは鬼を退治にしに来たんだ。
人斬りと一緒にすんな。」
「…殺して、どうか…私のせいで…。」 
少女は残りの力を振り絞り、る巫女服姿の女の死体に縋る。
「義姉さん、は…、私の…せいで…。」
その一連の流れを見て夜月は青筋を立て背を向けた。
「なら、野たれ死ね。
勝手にしろ。」
そう言って置いていこうとすると同僚が目の前に立っていた。
横を通り過ぎようとした瞬間、怖い顔で睨み夜月の手首を締め上げる。
「離せ。」
「…断る。」
にらみ合いが続いたのち、彼女は折れてため息をついて説明しだした。
「生きる力がないようだ。
どうやら鬼ではないが訳ありらしい。
季節外れの梅の匂いはこいつからだ。」
冨岡は少女の元に行き、脈を取り、匂いを嗅ぐ。
どうやらこいつの言っていることは本当らしい。
 もう一人の同僚である胡蝶しのぶからもらった止血軟膏を首元に塗ってやりながら彼は答えた。
「…お館様に報告すべきだ。」
「ハッ、お人好しさなぁ。
生きる気力のない人間を生かしておいて後から後悔するのはお前さね。」
「…なんとでも言え、行くぞ。」
少女を担ぎ上げて冨岡はすたすたとあばら家を後にする。
外で待っていた鴉に伝言を頼む。
それを見届けて二人はこの伽藍堂の村を出て行った。
山道は既に夜が明けて眩しいばかりの朝日が照らしている。
  
 最初は同情の念からだった。
冨岡はこの少女と己を重ね合わせ生きて欲しいと願ってしまった。
たったそれだけのことで少女の運命は大きく変わってしまったと誰が予想できただろうか。
落ちた花はどこへ流れる。
  
【続く】
 
余談解説
・本当にこの時の冨岡さんは同情の感情で動いた。
・義勇さんは紅梅のことをこの時俵担ぎしてます。

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