戦うことに戸惑いはない。
だが、人と関わることは非常に面倒臭い。
*
太刀川の旋空孤月で嵐山隊達は民家の屋根へと飛ぶ。
「…固まって戦闘したらこちらが不利ですね。」
冷静に龍樹が分析すると嵐山が口を開く。
「こちらを分断しに来るだろうな。
迅、何か手立ては?」
振り向き、彼が問うと余裕の笑みで迅が答える。
「別に問題ないよ。
何人か嵐山達に担当してもらうだけでもかなり楽になる。
龍樹一人では分が悪い人多いからな。
太刀川さんとか風間さんとか苦手だろ。」
龍樹の頭をポンポンと叩くと鬱陶しそうに龍樹は睨み返す。
「子供扱いしないでください。
あたしでも足止めくらいはできます。」
「まあ、俺ん所に来るだろうから龍樹は嵐山達のサポートに回れ。
こっちは大丈夫だから。」
「…了解。」
納得のいかないような返事をし時枝が分析を述べる。
「うちの隊と雛菱先輩を足止めするなら多分三輪隊ですね。
三輪先輩のレッドバレッドがある。」
「レッドバレッドはシールド貫通…。オールラウンダー同士単騎で私が処理しましょうか?」
「いやそれは無茶だ。」
龍樹の提案をバッサリと嵐山が取り下げる。
木虎は反論しようとする龍樹を諭すよう前へ出る。
「そうですよ龍樹さん。
どうせなら分断されたフリしてこっちに誘い込むとか良くないですか?」
「そっちの方がまだ楽ですね。
特に風間さんか他二人が引っかかればあたしで対処できるかも…。」
「賢との連携も視野に入れたらさらに動きやすくなるかもな。」
協調性がイマイチない龍樹に連携ができるか不安ではあったが文句も言ってる暇はない。
「お?来たな。
上手くやれよ嵐山、あとうちの後輩を頼んだ。」
「そっちもな。
雛菱さんは優秀だから大丈夫だ。」
そうニッと笑う嵐山に照れているのか視線を逸らして降下する龍樹。
三輪隊と鉢合わせし、言い合いの後、出水が戦闘態勢に入る。
「こっちを早く片付けて、太刀川さん達に加勢しなきゃなんないからな。」
それを佐鳥が狙撃するがフルガードで防がれる。
フォローに入る木虎を皮切りに米屋が狙いを定め分断する。
その隙に先攻でギムレットでシールドにヒビを入れる龍樹。
「ひゃー、こえーな雛菱先輩。」
間髪入れずに打ち合いが始まる。
アステロイドやハウンド、バイパーや目くらましにメテオラなど多彩な球が飛び合う。
そんな中、龍樹は出水に揺さぶりをかけていく。
「出水、こんな事して小湊さんに嫌われても知らないから。」
「えらく饒舌じゃないっすか先輩。
でも、千聖が任務くらいで嫌うわけないんで。」
余裕の笑みを浮かべる出水。
よほど幼馴染の事を信頼しているのだろう。
「挑発に乗るな出水。」
「わかってるって。」
三輪がレッドバレットを放射し、嵐山の足に当たり動きが鈍る。
「嵐山さん!」
「よしよし、足が止まったな。
シールドこと削り倒してやる。」
龍樹が出水のアステロイドの雨を相殺する内に嵐山がテレーポートで後ろへ飛ぶ。
そして三人で挟撃する。
「ぐっ…こりゃキツイな。」
塀の向こうに出水が逃げるが龍樹のバイパーが炸裂する。
間一髪のところで三輪シールドに阻まれかすり傷で済む。
「手応えはありませんでした。
削れてませんね。」
バイパーを外した事を悔やみ龍樹は追撃しようと動こうとした。
だがマンションから木虎と手負いの米屋が投げ出される。
空かさず、出水が米屋ごとアステロイドで仕留めようとするが時枝が飛び上がりシールドを貼る。
「時枝先輩!」
「マジか。」
だがしかし、間一髪のところで当真が時枝と貴虎の足を仕留めそのまま受け身を取り着地する。
龍樹は三輪と出水にギムレットを目くらましに撃つ。
「二人とも動けますか?」
「嗚呼、木虎は…。」
「まだイケます。」
後退しながら三人は路地裏を目指す。
「路地裏に入ってこないってことは…持久戦ですか?」
「それならありがたいけど違うだろうな。」
嵐山と木虎は渋い顔で相手の戦術を考える。
「少なくともお二人の足を止めて爪を誤る様な奴らではないですよね…。
三毛島さんに応援頼みますか?」
龍樹の提案に嵐山は首を横に降る。
「たとえ三毛島さんが加勢に来たとしてもここでは距離があるし、何より賢が居るならまだ勝機はある。」
勘の鋭い三輪と判断能力に優れる出水が居る為に龍樹も下手に動けない。
嵐山は佐鳥に連絡を取り、簡易に打ち合わせをすませる。
そして龍樹に向き直った。
「雛菱さん、無茶を承知で言う。
三輪君を止められるか?」
「任せてください。」
「じゃあ、手筈通りに。」
その言葉に二人は頷き、バラバラに行動する。
嵐山は二人を公園に誘導し、木虎は当真の居るマンションへ。
龍樹は公園の木の上へ。
その時に二つのベイルアウトの後を目撃する。
三輪達が嵐山に気づき出水がメテオラを集中砲火させる。
テレポートをした瞬間、狙撃しようとした当真を木虎が仕留め、佐鳥は出水と三輪を無力化する。
なおも抵抗を試みようとする三輪に対し龍樹は後ろから迫りスコーピオンを首元に近づける。
「どういうつもりだ!」
「どういうつもりも決着はさっき着いた。」
『三輪君、作戦終了よ。
太刀川くんと風間さんがベイルアウトしたわ。
奈良坂くんと章平くんも撤収中よ。』
負けを認められない三輪。
負けを認めて撤収を図ろうとする出水。
対照的な2人を見て龍樹はため息をつく。
「嵐山さん、ネイバーを庇ったことをいずれ後悔する時がくるぞ。
あんた達はわかってない。
家族や友人を殺された人間でなければネイバーの本当の危険さは理解できない。
ネイバーを甘く見てる迅もこいつもいつか痛い目を見る。
そしてその時にはもう手遅れだ。」
龍樹を一瞥した後、嵐山に吐き捨てる。
だが、迅や龍樹の過去を知るからこそ冷静に反論する。
「甘く見てるってことはないだろう。
迅だってネイバーに母親を殺されてるし、そこの雛菱さんは親友を亡くしてるぞ?」
遣る瀬無い気持ちを抱えた三輪叫びがこだまする。
去り際に龍樹は一言だけ三輪に言い残す。
「お姉さんのことはお気の毒様です。
でも、貴方のその感情や執念は無駄にはならないと思う。」
「待て。」
「何?」
「あんたは何故、迅に加勢する?ネイバーが憎くないのか?」
怒りと疑問のこもった声で三輪は問う。
「ネイバーよりも怖いものを知っているから。
迅先輩はもう一度信じることを教えてくれたそれだけよ。」
そう言い残し、龍樹は換装を解いてスマホを確認すると三毛島から旧隊室に忘れてきた資料を取りに行けとのこと。
龍樹はめんどくさそうに本部へと足を進める。
*
一方その頃、帰宅した出水を待ち構えていたのはパジャマ姿の千聖だった。
「…お帰り。」
泣きそうな声で迎える彼女。
抱きしめるべきか慰めるべきかと迷っていると不意に駆け寄り抱きしめられる。
「ボーダーのことだってわかってても寂しかった。
帰って来なかったらどうしようって思った。
ねぇ、こーちゃん、帰ってきたら私、伝えたいことがあるって言ったよね?」
そう上目遣いで聞いてくる千聖。
出水はそっと彼女の頬を撫で言う。
「嗚呼、ここじゃさみーから俺の部屋へ行こう。」
「…わかった。」
渋々といった態度の千聖の手を引き、自室へ足を進める出水。
その間、2人は妙な緊張で汗ばむ手を固く握った。
暖房を付けてベッドの端に腰掛ける。
しばらく見つめあった後、千聖が口を開く。
「こーちゃんに伝えたい事があるの。
落ち着いて聞いてね。」
「嗚呼…。」
ドキドキと心臓の音が伝わってしまうのではと思うくらい緊張する出水。
同じ気持ちなのか少し頬を赤らめている千聖。
「こーちゃんのことが男の人として好きなの。だから付き合って。」
言い切った彼女を優しく抱きとめた。
「俺も千聖のこと大切にしたいって思ってる。
だからこれからは彼氏としてよろしくな。」
「…うん!」
泣き笑いな彼女の頬を撫でて互いに幸福を分かち合う。
彼らの恋路はまだ始まったばかりである。
*
迅が城戸司令に報告を終え、太刀川達と和解を済ませた後。
龍樹は本部の地下道の入り口付近で待っていた。
「…風神、手放したんですね。」
普段無表情の彼女から想像もできないような悲しそうな顔に迅は首を横に降る。
「俺はこうすることでより良い未来に進むために手放したんだよ。
大丈夫、最上さんも悪く言わないさ。」
そう言って彼女の横を通り過ぎる。
「ほら、帰るよ。」
「…はい。」
しばらく上の空で龍樹はその背についていく。
玉狛に着いて迅は玉狛の後輩達に挨拶を交わして自室へと足へ進める。
「迅と何かあったの?」
こういう時に小南の鋭い勘が刺さる。
「何もない。
大丈夫、私も疲れたから休むわ。」
「待ちなさいよ!そんな顔してどこへ行こうっていうのよ!」
手を掴まれた瞬間、本心から心配している小南の手を振り払った。
「ご、ごめん。だけど放って置いて。」
バツの悪い顔をして龍樹は急いで自室を目指す。
彼女の自室は迅の隣だ。
龍樹はベッドに体を預けて目を閉じる。
薄い壁から迅のつぶやきが聞こえる。
まるでそれは自身に言い聞かせているようなつぶやきだった。
「大丈夫だ、未来はもう動き出している。」
その言葉に酷く安心したのか微睡みの中へと意識を手放した。
*
来たる、1月8日。
露乃達は訓練生として入隊式に出ている。
忍田本部長の挨拶と嵐山隊が訓練の説明をし、ポジションごとに解散となった。
「じゃあ、千佳ちゃんまたね。」
「うん、また。」
「あれ?ツユノはアタッカーを目指すのか?」
遊真の疑問に露乃は困った顔で返す。
「うーん、まだはっきりとは決めてないんだけどあんまり前線に出なくて尚且つ臨機応変に動けるポジションにしようかなって。」
「ふーん、ツユノのトリオン量だとそれが妥当かもな。」
雑談を交えつつ、露乃はトリガーを選ぶ。
仮想トリオン兵を倒す訓練では遊真が実力を見せつけて歓声が上がる。
一方露乃はというとアステロイドの銃手トリガーを構えて機敏に距離を取る。
そして、深呼吸をしつつ、狙いを定めて的確に打ち貫く。
【記録、1分3秒】
電光掲示板に記録が表示されまずまずの結果に肩を落とす。
訓練でもポイントを取れるが対人戦の方がポイントを稼げると聞いて露乃も渋々やってみることに。
結果は惨敗。
動きの鈍い、トリオン兵に関しては狙いが定まるも新人とはいえ相手は人間だ。
トリオン体で強化しているとはいえ、相手も同じ条件なのだから当然動きも速い。
ラウンジに移動すると姉の噂を耳にする。
玉狛に移籍した裏切り者だの、迅さんの弟子だの、おっかないサイドエフェクト持ちだのヒソヒソと露乃を見つついう人達。
そうか、姉はここでも実力者なのかと気落ちしていると肩を叩かれる。
「大丈夫?元気なさそうだね。」
一見軽薄そうなスーツの男の人が声をかけてくる。
この人も姉のことを言いに来たのかと身構える。
「だ、大丈夫です。ちょっと疲れただけです。」
トリオン体では疲れを感じないのだがバレバレの嘘に男はため息をつく。
「意地張っても意味ないよ。雛菱露乃ちゃんだっけ?」
「なんで私の名前を…。」
「君のお姉さんの同級生って言ったら信用してくれるかな?
俺の名前は犬飼澄晴っていうのよろしく。」
そう言ってさっき買ったばかりのココアを差し出してくる犬飼。
それを受け取りつつ半分彼の座れるスペースを作ってやる。
「はぁ、よろしくです。犬飼先輩。」
「しょーじき、ああいう噂する奴らはキリがないから気にしない方がいいよ。」
「…分かってます。」
「うんうん、それ飲んだら俺がよかったら時間のある限り、練習に付き合ってあげようか?」
犬飼の提案に露乃は勢いよく顔を上げて答える。
「本当ですか?!是非よろしくお願いします!」
「ははっ、そういうひたむきな態度いいね。」
「ええ、姉には負けてられませんから。」
隣に座った犬飼は彼女の姉にはない可能性を感じて声をかけたのだ。
この関係が吉と出るか凶出るかは誰も知らない。
【To be continued】
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