結果論として彼女は勝手に助かった。
否、コレでは語弊があると思われるが事実だ。
何故なら東京の呪術師と高専生数名による薙原家奇襲計画は棚ぼた式に終わりを迎えることとなる。
何故なら女中が呪霊に取り憑かれ、家内に火を放ち立派だったお屋敷は全焼。
電車の中で昼寝していた五条に呼びかけた志保の意思により目覚めた後に彼は移動術式ですぐ様彼女を保護。
燃え盛る屋敷
ついでにその呪霊も祓っておく。
大した呪霊じゃなかったのにもかかわらず何故彼は逃げ遅れたのだろうか?
焼け跡を呆然と見ながら焼死体に手を合わせる。
「五条、報告。」
夜蛾の怪訝な顔に五条はため息をつく。
「見ての通り、屋敷は全焼。助かったのはこの子のみだよ、先生。」
皮肉げに笑う彼を他所に現場を見渡す夜蛾。
「あっけないものだな。」
その日のうちに上層部にはでっち上げの報告書と志保が成人するまで夜蛾の養女とする協定を結んだ。
事なき事を得て彼女は正式に呪術師としての道を歩むこととなった。
それから早数年。
素直な性格に育った志保。
中学生の頃にはそれなりに男子の注目を集めた。
ある時、校舎裏に呼び出されて告白というものを受けたが志保は他者に興味を動かされることは稀で首を横に振った。
「えっ、な、なんで?僕を見てたんじゃ…。」
正確にはこの目の前の男の斜め前の伏黒恵を見ていたのだが。
どうやら勘違いさせてしまったらしい。
だが口下手で自分の気持ちも伝えることすら難しい。
返答に困っている時だった。
ゴミ袋を持った伏黒が通りかかり、それを皮切りに志保は踵を返し去っていく。
追いかけようとしたクラスメイトを伏黒は呼び止めた。
「…待て。」
「な、なんだよ!
お前には関係ない事だろう!」
ムキに言い返すクラスメイトに対して怪訝に伏黒は返す。
「嫌がってる女子を追いかけて何になる。」
「彼女は嫌がってない。」
志保は確実に眉間にしわを寄せて嫌がっていたのだが目の前の男はそれすら気がついてなかったらしい。
呆れて手を離すと彼女が逃げていった方向へと彼も足を進める。
「チッ。」
彼女に尽くしてやる義理はないのだがトラブルに巻き込まれても困ると玉犬を召喚して追わせる。
数分後、帰ってこない玉犬にしびれを切らして伏黒が行くと彼女と戯れている姿に目を見開く。
「お前、見えてるのか?」
何を言っているのかと志保は首を傾げる。
「その犬見えてるのかって。」
「…見えてる。」
そう言いながら志保は玉犬を撫でる手を止めない。
式神は術者以外にはそうそう懐かないのだが。
このクラスメイトの少女はどうやら違うらしい。
「お前、名前は?」
「…薙原、志保。
そっちも、名前。」
玉犬を引っ込めると機嫌悪く答えてくる。
名乗れと言うことなのか。
「伏黒恵。」
こうして奇妙な出会いは果たされた。
しばらく志保は伏黒に付きまといクラスの中ではカルガモのようだとからかわれたりしたのだがその話は割愛するとしよう。
*
所変わって
今度は海谷夏稲の話をしよう。
彼女は元々、神奈川の田舎の呪術師の家系の生まれだ。
兄は一級呪術師として前線で活躍しており、自身も人のため世のためと東京都立呪術高等専門学校に通っている。
「五条先生遅いねー。」
「どーせまた変なこと考えてんだろ馬鹿目隠しは。」
「…こんぶ。」
だる重い空気の中、ハイテンションな担任が入ってくる。
「転校生を紹介しやす!
テンションあげてみんな!」
白ける教室。
一言もみんな発しない。
「上げてよ。」
「ずいぶん尖ったやつらしいじゃん。
そんな奴のために空気作りなんてごめんだね。」
「しゃけ。」
「ま、真希、そんな言い方。」
3人とも冷めた雰囲気であしらう。
夏稲は少なからず歓迎しようと頑張っている。
「ま、いっか。
夏稲、ありがとね。
入っといでー。」
どんな子だろうとワクワクしていれば圧迫した霊障に4人は攻撃態勢をとる。
真希は薙刀を取り、夏稲もペットボトルに手をかける。
彼女の武器は水だ。
「乙骨優太です。
よろしくお願いします。
ひっ、これ、なんかの試験?」
自己紹介早々、災難に見舞われる乙骨。
「おい、お前、呪われてるぞ。
ここは呪いを学ぶ場だ。
呪われてるぞ奴が来るところじゃねーよ。」
「真希!」
呪われているという言葉に珍く夏稲が声を荒げた。
「わ、悪い。」
「はいはい、夏稲も怒らない怒らない。」
宥められつつ乙骨に対して説明が入るがふと悟浄は思い出したように言う。
「あっ、離れた方がいいよ。」
黒板から腕のようなものが二本、伸びてくる。
「みんな下がって!」
【蛟縄!】
キャップを外して水を振りまいて呪力を込めて、縄状に操り腕を拘束する。
そのうちに乙骨が呪霊を宥め、事なき事を得た。
だが夏稲はその場に力なくヘタリ込む。
「夏稲、無理すんなっていっつも言ってるだろ!」
「ごめん。やばいって思って。」
真希が夏稲を支えて椅子に座らせる。
「そ、その大丈夫?」
乙骨に話しかけられた夏稲はポカンと惚ける。
「うん、びっくりして術式使っちゃったけど大丈夫。ごめんね。」
「はいはい、いい感じになってるけど自己紹介するね。
呪具使い、禪院真希。
呪いを祓える特別な武具を扱うよ。
呪言師、狗巻棘。
おにぎりの具しか語彙がないから会話頑張って。」
「こんぶ。」
片手を上げて狗巻が挨拶する。
「パンダ。」
「パンダだ。
よろしく。」
簡潔すぎる紹介に夏稲は苦笑いをこぼす。
「そして最後に水神憑きの海谷夏稲。
水を操るけど無理をさせないであげてね。
夏稲、後ろ向いて。」
「え、ここでですか?
嫌ですよ。」
「知ってもらわないと辛いのは夏稲だよ。」
渋々、夏稲は後ろを向く。
五条は失礼するよーと言いながら彼女の制服をめくり上げる。
「ちょっ、先生!」
あわあわと真っ赤になる乙骨を他所に背中に広がる淡い水色の鱗が広がる。
「夏稲の家系は事情があってね。
術式を使うと鱗が侵食するんだよ。
鱗が完全になると瑠璃色でもっと綺麗なんだけどこれ以上侵食が進むと彼女も辛いから定期的にとってあげたり見てあげてね。」
「は、はい…。」
セクハラで訴えますよと背中をめくる手を顔を真っ赤にして振り払う夏稲。
「ごめんね乙骨君、変なもの見せて。」
「い、いや別に。」
実習は2人組でやるよーと呑気に五条が言うので私は?と聞くと。
「夏稲は大事をとって家入の所へ行って。
それが終わったら報告で。」
というのでため息を漏らして四人を見送った。
【続く】
じゅじゅ小話
夏稲「そういえば志保ちゃん元気ですか?」
五条「聞いてよ夏稲!
志保が最近男ができたみたいでさ!僕というのがありながら…。」
夏稲「(あ、これ面倒臭いやつだ。)勘違いじゃないんですか?」
五条「勘違いならどれほど良かったか!よりによって知り合いに志保を取られるとか!」
夏稲「志保ちゃんの事、女の子として好きなんですか?」
五条「違う、違う、なんかこう娘に彼氏ができた気分というかうん…。」
夏稲「(やっぱり面倒な!)じゃあいいじゃないですかお友達が増えることは。」
五条「複雑なんだよ。
今まで僕に見せてた笑顔が恵に向くのが複雑。」
夏稲「子供の様にだだこねないでください。志保ちゃん呼びますよ。」
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