誰かの役に立てるのならそれでいい。
贅沢は言わない。
私はみんなを守りたいだけ。
家入先生に呼び出されて鱗を取ってもらう。
慣れたものだと感じているが少しだけ痛む。
「先生、すみません。」
「それはなんに対しての謝罪?」
その言葉の返答に詰まった。
私はいつもそうだ。
兄の様に物事を柔軟に考えられず他人の為と言い聞かせながら後ろ向きなことばかり。
「思い詰めるのはいいが、生きづらいだろそれ。」
「割り切れたらどんなにいいのでしょうね。
私は五条先生のいうイカれた呪術師にはなれそうにないです。」
鱗の摘出を終えた家入先生は窓際に立ってガラリと開ける。
「別に五条の言う、イカれ野郎にならんてもいいだろう。道はそれぞれだ。
お?珍しい患者だな、海谷手伝って。」
「はい!」
学校の門まで行くと幼い男の子、真希、乙骨君が倒れていた。
五条先生は呑気な様子で「後よろしくー。じゃ、僕はこれから任務だから。」とスタスタと去っていく。
まったくもって無責任と取れるが彼なりに後処理の為に奔走しているのだと理由つけて三人を運ぶ。
家入先生が治療を終えて、真希の手を握る。
乙骨君がいたとはいえ、私より強い真希がこれ程傷ついた事に憤りを感じた。
私が悶々と考えていると真希の瞼が薄っすらと開かれる。
「ん…。」
「真希、大丈夫?」
「…耳元で騒ぐな鬱陶しい。」
「だって、あんなにボロボロで…。」
ホロホロと涙をこぼす私にデコピンを見舞う彼女。
「った…痛いよ!」
「しけたツラ見せんじゃねぇよ。
私が負った傷で泣くな。」
真希なりのやせ我慢で私はこれ以上何も言うまいと口をつぐんだ。
*
後日、夏稲は乙骨と合同の任務に行く事に。
談話室に呼ばれてなんだと二人して顔を見合わせていたが後ろから現れた五条に掴まれて二人とも入室を余儀なくされる。
促されるまま座ると本題を話し出す五条。
なんでも隅田川に現れる呪霊が子供を引き込むらしい。
だから水の術式に詳しい夏稲と単純に強いからと言う理由で乙骨に白羽の矢が立った。
「あのー、それで僕は何をすれば?」
イマイチ状況が飲み込めない乙骨に対してヘラヘラと返答する五条。
「夏稲が囮になって優太が倒す。
単純な事でしょ。」
「いやいや、先生、海谷さんの意思とかどうなるんですか。」
女性を囮にする訳にはいかないと心配している模様。
「大丈夫、乙骨君。
私、こう見えても水があれば何とかなるから。」
どーんとこいと胸を張って言うと五条も話はついたねと術式で二人を飛ばした。
「って!先生!飛ばさないでっていつも言ってますよね?!」
夏稲の叫びも虚しく隅田川の土手に放り出された。
「いてて、海谷さん大丈夫?」
「うん、平気…。」
ズズっと乙骨の後ろから呪いの鱗片が覗かせる。
夏稲は帳を下ろしながら何か話題がないかと彼を見た。
彼は指輪をポケットから取り出してはめようとしている。
「ねぇ、その指輪大切な人から?」
「へ?ああ…うん。」
切なそうに答える乙骨に夏稲は素敵だと言う。
照れ臭そうに彼は頭をかいて語り出した。
将来を約束し合った思い出を。
夏稲は黙ってそれを聴きながらペットボトルの水に呪力を流して索敵のために蛇の形を模した式神を放つ。
「僕の話を聞いてくれてありがとう。」
「どういたしまして…危ない!」
夏稲の叫びを諸共せず、里香と呼ばれた呪霊が鯰のような呪霊を弾く。
ギシャアアア!と威嚇し、再び川へと飛びもうとする。
その隙を夏稲は見すごさなかった。
【水敷・網蛇】
静かにそう口ずさんで水で大蛇を形作り、相殺する。
だが、彼女は気がついていなかった。
何故、一級の呪霊を乙骨がいるとはいえ、二級の夏稲が任されたのか。
(考えても仕方がないことだけど被害も最小限に済んだしいいか。)
などとのんきなことを考え、帳を解除しようとした矢先。
「海谷さん!」
乙骨の叫びも虚しくナマズに足を取られ川へ引きずりこまれた夏稲。
一方、川岸の木の上で袈裟を着た男が一人、彼女らの様子を見ている。
「ふむ、やはり兄より優れた妹はいないか。
後は頼んだよ晃。
このまま、海谷の妹が死んだらそれもまた彼女が凡骨だったということで。」
木の下に控えていた女が笑う。
「はぁい、全ては傑様の御心のままに。」
一礼すると、傑と呼ばれた袈裟の男は術式で消える。
大健闘の二人と監視する者一人。
さて、どちらに転ぶか。
【続く】
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