彼と出会ったのはおよそ3歳の頃。
ヒーロー業が忙しい母の代わりに父に連れられて公園へ出かけた時だ。

個性は4歳までに現れる。
その世界の常識通り、私も3歳で父親の泡の個性と母親の水流操作の複合個性を有していた。
周りにも個性を使って遊ぶ子はたくさんいる中、一人ポツンと花を見つめてる紅白頭の少年に声をかける。
それがきっかけだった。
「ねぇ、お花好きなの?」
「う、うわっあ。」
急に声をかけられて肩を揺らして驚く少年。
花壇に尻餅をついた彼の手を引いて起き上がらせる。
「ごめんなさい。大丈夫?」
「う、うん。」
左右違う目の色をした綺麗な少年に見とれる雫。
「…どうしたの?」
「あっ、綺麗なお目目だなって。
自己紹介がまだだったね、私、しずく!みなつきしずくっていうの。
あなたのお名前は?」
ズイっと顔を近づけると少年は目を見開き後ずさる。
「ぼ、僕、しょーと。とどろきしょうとっていうの。」
「よろしくね、しょーとくん。
一緒に遊ぼう。」
再び握手を交わす二人。
これが雫と轟少年の最初の出会いであった。

月日は流れ、小学生に二人は上がる頃、疎遠となってしまう。
原因は轟少年の父親の英才教育の激化。
毎日彼の家へ遊びに行くが門前払いをくらい泣くまいと雫は涙をこらえる日々。
それでも雫は個性を使い、シャボン玉を彼の家へ向けて飛ばした。
彼が寂しくないように。
その思いは密かに届いていたのだろうか?
やがて轟少年は雫と出会った頃のあどけなさはなくなり冷たい雰囲気を纏うようになった。

中学も同じ学校に通っていたがすれ違う日々が続いたが根気よく雫はコミュニケーションを取ろうと試みた。

「轟君、おはよう。」
挨拶をしても睨みかえされるだけで何も反応がない。
呼び止めても手を払われるだけ。
そんな態度が三年続いた。
そうしてある夏休み間近に彼と一緒に帰ろうと声をかけた矢先に一悶着。

「…何故、俺に構う?」
「そんなの、友達だからに決まってる。
君が苦しんでるのなら私はいくらでも手を差し伸べるよ。」
「偽善で俺のこと馬鹿にするな!
お前は恵まれてるくせに…何も俺のこと…。」
そう言いかけて言葉に詰まる轟。
目の前の少女は同情や偽善ではなく「轟焦凍」一個人を真っ直ぐ見つめていた。
この目が彼は苦手だ。
何もかも見透かした上で全て包み込むような優しさが煩わしく思える。

「確かに私の家は何処よりも恵まれてるって言われたら言い返せないよ。
それでも私は手の届く範囲で困ってる人を見つけたら放っておけないよ。
できることは限られてるけどお話聞いたりはできるから…また、お話聞かせてほしいなって。」
「…勝手にしろ。」
そう言って乱暴に教室の扉を開き出て行く轟。
この日を境に彼らは完全に決別した。



水無月雫の母親は災害救助をメインに活動するヒーローだ。
国際的なヒーロー事務所に所属し、忙しなく海外を飛び回っている。
その母親に憧れ、彼女も母の母校である雄英高校を受験する事に。

「筆記用具よし、ジャージよし受験票はーっと。」
「雫ー?そろそろ出ないと遅刻するよー。」
父親の呼び声に返事をし、制服に着替える。
荷物を持って自室から出て弟と妹に挨拶を交わす。
今日もいい日だと彼女は清々しい気持ちで家を出た。


「ここが…お母さんの母校…。」
目をキラキラ輝かせて彼女は簡単を漏らす。
小躍りしそうな気持ちを抑えて深呼吸をする。
「邪魔にゃ。」
そう肩を押されて振り返ると猫耳の生えた女の子。
「ご、ごめんなさい。
思わず感動しちゃって。」
謝ると猫の少女はフンと鼻を鳴らして中へと足を進める。
「精々、ぼーっとしてて寝首を狩られぬように、にゃ。」
ヒラヒラと手を振る姿にポカンと
見送る雫。
だがあの余裕に負けてられないと一人意気込んで雄英の門を潜るのであった。



筆記試験をまずまずの手応えで終え、雫はジャージに着替える。
ふと、隣のロッカーを使っている黒髪の少女と目があった。

「じ、実技、緊張するね。」
「そう?なる様にしかならないんじゃない?」
「そ、そうだよね。」
「だからそんなに緊張しなくてもいいと思う。
うち、耳郎響香、よろしく。」
差し出された手を雫はおずおずと握り自己紹介をする。
「水無月雫です、よろしくね。耳郎さん。」
「響香でいいよ。」
「じゃ、じゃあ、私のことも雫って呼んで!」

それじゃあ、またねと二人は試験会場を目指す。
(自由な学校と聞いてたけどまさかこれほどとは。)
いきなりの開始合図に皆慌てて駆け出した。
ロボとの戦闘を観察し、物理攻撃が苦手な雫は駆動部から水を入れてショートさせる戦法になった。
「…30っと、危ない!」
足をくじいたであろう受験生にロボが今にも襲いかからんとしている。
雫はとっさに手を擦り合わせて泡を出しドーム状に覆う。
そして泡に攻撃を阻まれたロボを指先から水の弾丸を発して撃退する。
「あ、ありがとう。」
「発砲!どういたしまして。」
泡を解除して颯爽と走りさる。
あと少なくても1Pでも多くと彼女はロボを探すがふと辺りが暗くなって空を見上げる。
0Pの巨大ロボが現れたことをアナウンスされ皆一斉に逃げ惑う。
だが瓦礫にけつまずき倒れる生徒や個性の反動か動けなくなっている生徒も多数いる。
(これはいけない、でもアレを倒すだけの力は私にはない。)

「何ぼさっとしてるの早く逃げるよ!」
肩を叩かれて振り返ると先程知り合った耳郎が声をかけてくれた。

「響香ちゃん、協力して。」
「は、はぁ?」
「私が泡で響香ちゃんを飛ばすから奴の中枢に攻撃できる?
このままじゃ、みんなが危ないの!」
辺りを見回して傷ついている受験生に耳郎も良心を打たれた。
「無茶だけど乗った。
あんたにかけるよ雫!」
泡でジャンプ台を作り、弾性を強化させ弾ませる。
ロボの頭上まで飛びイヤホンジャックを差し込み心音を大音量で流す!
するとロボは戦意を喪失したようにその場で停止した。
着地は勿論、雫が泡をクッションにし、事なきことを得る。
タイムアップというプレゼント・マイクの声が響き、皆は脱力した。

「一時はどうかなると思った。」
地面に倒れこむ耳郎が呟き同じく雫も隣に寝転ぶ。
「私も無茶だと思った。でも本当に協力してくれてありがとう。」
そう笑いあって彼女たちは互いを称えあった。



数日後、試験の結果が郵便で届いた。

「おねーちゃん!お手紙だよー!」
小学生の妹がパタパタと走って雫の事実を開ける。
「ありがとう、一緒に見ようか。」
はーい!と元気な妹を膝に乗せて手紙を開くと小型な投影機が出てきた。
逸る気持ちを抑えてスイッチを入れる。

『私が投影された!』
「わーおーるまいとー!」
妹がキャッキャと投影に手を入れて遊ぶ中、雫は息を飲む。
『筆記は素晴らしい!英語と国語は満点だ!理系科目は合格点ギリギリか…まあ、そこは頑張りたまえ水無月少女。
問題は実技、35Pという本来なら不合格の数値だ。』
俯き、唇を噛みしめる。
他の高校を受けてる暇はない。
滑り止めで受けた普通科が頼みかと諦めかけたその時。
『しかし、観てたのはヴィランポイントのみ非ず!
私たちはこの目で見ていたさ。
君が負傷した受験生を護り、そして勇敢に他の受験生と協力して0ポイントロボを足止めした勇姿を!
よって水無月雫にプラス35P!
合格おめでとう!』
「おめでとー!」
オールマイトと妹が祝福する中、胸いっぱいで泣き出す雫。
「うっ、うっ、本当に良かった。」
「お姉ちゃん、どこが痛いの?」
「違うよ、嬉しくて泣いてるの。」
涙を拭いてくれる妹を抱きしめる。
「嬉しい時は笑おうってお母さん言ってたよ。」
「…クス、そうだね。
じゃあ、お母さんにSNSで報告しないと。」
涙を拭いてその夜のうちに母親に連絡をし、水無月家はお祝いムードとなった。
数日後の入学式に向け、雫は父の仕事先であるクリーニング業を手伝い、個性強化を図る。
まだ見ぬ、出会いと試練に胸を馳せ、少女のアカデミアはここから始まる!

【To be continued】
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