最終選別当日。
藤襲山へと登った紅梅。
周りを見渡せば自分と同じ年頃の男女。
皆、顔や腕に傷があり、表情も緊張しているようだ。
(私も気を抜いちゃダメですね。)
意気込んでいると入り口前に二人の童が現れる。
最終選別の説明を静かに聞く。
どうやら七日間生き残れば合格らしい。
皆一斉に、山奥へと足を踏み入れる。
踏み入れた矢先、足に重みを感じて振り返る。
「えっと、どちらさまですか?」
足元を見ると金髪の男の子がしがみついていた。
「ねぇ、ね、ねぇ、君も鬼殺隊を目指してるんだよね?
恥を承知でお願いします!
俺を鬼から…弱いから守って!
後結婚して!」
男の子は綺麗な土下座をし、ガタガタと震えている。
何時ぞやに紫から聞いたことがある。
金髪の男を見かけたら優しくするなと。
だが、紅梅の性格上、放っても置けず、彼の肩に手を置く。
「…私も紫師匠に鍛えられた身で強くはないです。
だから一緒に生き残りましょう!
私の名は鶴岡紅梅です。」
「あ、我妻善逸です…。
って今、ゆ、紫さんって言った?」
紫の名を出すと勢いよく肩を掴まれる。
紅梅は戸惑いながらも答えた。
「ええ、私の師匠は…っとお喋りはここまでのようですね。」
刀をスラリと抜き構える。
(こちらに向かってきてる鬼は三体。
我妻さんは怯えているし、どこまで庇いきれるかですね。)
持ち前の第六感で瞬時に判断する。
「我妻さん、そこから動かないでくださいね。
後、できれば目を閉じていてください。」
「う、うん…ひぃ!」
善逸の悲鳴とともに一体の鬼が紅梅に飛びかかる。
【光ノ呼吸 壱ノ型 菊咲】
瞬間、金色の閃光が迸る!
だが、首には当たらず四肢を切断しただけである。
「チィ!俺様の手足をよくも!」
「一つ、お聞きしたいことがあります。
鬼舞辻無惨、この名に覚えはありますか?」
紅梅が男の名を口にした瞬間、四肢を切断された鬼はガクガクと震え出して知らない知らないと怯え出す。
「…そうですか。当たりませんよ!」
四肢を切断した鬼の後ろから鎌が飛んできて咄嗟に刀で弾く。
「キヘヘヘ、生きのいい人間が二人。
こいつぁ良さそうだ。」
「おい!そいつらは俺の獲物だ!」
「うるせぇ!
動けもしねぇ木偶の坊は黙ってろ!」
鬼どものいがみ合いに紅梅は隙ができたと善逸に言う。
「我妻さん、立てますか?」
「無理無理無理、俺ちょー弱いし死ぬよ?!
戦えないって!」
「違います!一旦此処は引きましょう。
あの二人の鬼の後ろから大きな気配を感じます。
このまま消耗戦に持ち込めばこちらが不利です。」
「わ、わ、わかった。」
もたつきながらも立ち上がった善逸を横目に紅梅は全集中から技を繰り出す。
【全集中・光ノ呼吸 参ノ型 煙柳】
刀を一振りすると、あたり一帯に煙が広がり善逸の手を握りながら後ろを向いて全速力で走る。
力の限り、走り、やがて木の虚を見つけてそこで休息を取ることに。
「はぁ、はぁ…なんとか巻きましたね。」
「う、うん。
もう死ぬかと思ったよ。
ありがとぉ…もう結婚してお願い。」
ホッとしたのか善逸は紅梅にしがみついておいおいと泣く。
その背を撫でながら彼女は丁重にお断りする。
「ごめんなさい。
私、恩を返さなきゃいけない人がいるんです。
その人より先に幸せになることなんてできません。
それに、善逸さんはいい人ですからきっといい人が見つかりますよ!」
「そんなぁ…俺死んじゃうよ〜。」
情けない善逸に紅梅は同情する。
落ち着かせる術を彼女は知らなかったので彼女は昔話をすることにした。
冨岡との出会いの話と師匠である紫の話を。
彼はその話を聞いて素直に相槌を打ったり笑ってくれた。
「あはは、紫さんらしいや。
ふぅ、ちょっとは落ち着いたかなありがとう。」
「それは良かったです。
では私は先を急ぎますので。」
「ま、待って、夜明けまで此処で休んで行こうよ。
疲れてるでしょ?」
ねぇねぇ行かないでと彼が着物の裾を掴むので諦めて腰を下ろすことに。
「では、遠慮なく休んで行きます。
それでは不寝番をしましょう。
七日間も生き残らなければなりませんからね。
私が見張るので善逸さんは寝ててください。」
「…さっき戦ったのは紅梅ちゃんの方でしょ。
休んでてよ、俺、耳はいい方だから。」
善逸の少し頼りない申し出に戸惑いながらも紅梅は何かあったら叩き起こせといって眠りについた。
*
2日目、3日目となんとか力を合わせて鬼の猛攻などをかいくぐった二人。
残すところあと数時間で夜が明ける。
「ひぃ、はぁ、はぁ、もうだめ。
俺一歩も動けない…。
死んじゃいたい…いや死ぬのはだめだ。」
地面に大の字に倒れる善逸。
数日を共にした彼とは奇妙な友情が芽生えつつある紅梅。
「じゃあここで少し休憩しましょうか。
鬼の気配もありませんし。
我妻さんのお話も聞きたいです。」
「え?俺の事?」
「はい、我妻さんは何故、鬼殺隊士を目指されるんです?」
にこやかに聞くと途端に表情が暗くなる彼。
「鶴岡ちゃんみたいに大層な目標とかじゃないし…。」
「そんなことありません!
命がけで鬼殺隊を目指している人は立派だと思います!」
「へへ、そうかな。
じゃあ君には話そうかな。」
恥ずかしそうに話す善逸に興味津々で聞き入る紅梅。
だが、彼らは話に夢中で気付いては居なかった。
鬼が真上にいたことを。
飛びかかる瞬間に紅梅が気がつき、手を引いた。
だが勢い余って善逸は顔面を地面に強打してしまう。
「感のいいガキだ。
そのままお友達と話していれば仲良くあの世に聞けたのによぉ!」
汚らしくよだれを垂らす鬼に刀を構える。
「我妻さん!大丈夫ですか?」
返事がない事を心配するが今は目の前の鬼に集中せねば。
その紅梅の心配は杞憂に変わる。
善逸の気配が変わり、ゆらりと立ち上がる。
「あ、我妻さんご無事で…。」
問いかける前に善逸は刀を構えて雷の呼吸を発動させる。
【雷ノ呼吸 壱ノ型 霹靂一閃】
轟音より早く閃光と切っ先が鬼の首を薙いだ。
「お見事です!我妻さん!」
「んが…あ、あれ?
ぎゃー鬼!鬼!首がないー!…って事は君がやってくれたの?!
ありがとぉ〜もう死ぬかと思ったー!」
「えっ、えっと、我妻さんご自身が倒したのですよ?」
両手を握られ顔を詰め寄る彼に対し、引き気味に答える。
「嘘!絶対に無理だから!ありがとう!ありがとう!」
「えーっと、ほら夜明けですよ!
出口まで歩けますか?」
朝日が差し掛かってる空を見ながら答えると素直に彼は従う。
一件落着かと息を吐き、出口を目指す。
*
「おかえりなさいませ。」
「おめでとうございます。
ご無事で何よりです。」
童達が鬼殺隊の階級や必要な品物について説明を挟む。
空から霞鴉が降りてきて紅梅達の肩に泊まる。
「ふふっ、よろしくお願いします。」
カァっと一鳴きし、霞鴉は紅梅の周りをくるくると飛ぶ。
だが、彼女の目の前で童と他の入隊希望者が揉めていた。
「どうでもいいんだよ鴉なんて!
刀だよ刀!!
今すぐ刀をよこせ!!
鬼殺隊の刀!!
色変わりの刀!!」
童の頭を掴み詰め寄る彼に対しもう一人の希望者が腕を掴み制止する。
「この子から手を離せ!!
話さないなら折る!!」
「ああ?なんだテメェはやってみろよ!!」
無言で掴んでいる男の子が力を込めてミシッと嫌な音がなる。
「お話は済みましたか?
ではあちらから刀を作る鋼を選んでくださいませ。」
ずらりと大小様々な鋼が揃っている。
紅梅が手に持つとじんわりと暖かく重い。
「…では、私はこれで。」
各々、鋼を手に取り、下山の支度をする。
「ねぇねぇ鶴岡ちゃん。」
下山時に善逸に呼び止められ足を止める。
「はい?どうしました?」
「…一緒に超えてくれてありがとう。
これからよろしく。
俺の事は善逸って呼んでよ。」
「はい、それでは私のことも紅梅でいいですよ。
それではまた任務で会えたらよろしくお願いします。」
「う、うん。
い、生きてたらね…。」
お互いに別れを告げる。
さて、師匠の元へと晴れ晴れとした青空を見ながら家路へとつく。
【つづく】
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