仙台の某高校の百葉箱に特級呪術物が保管されているという報告を受け、呪術師二名を派遣。
二級呪術師、伏黒恵。
三級呪術師、薙原志保。
両名に両面宿儺の指の回収を命ずる。

 
 仙台に行く前、五条さんに薙原の事を聞いた。
ずっと疑問に思っていたあいつの家について。
「僕からは何とも言えない。
知りたいのならこの報告書をあげるよ。」 
そう言ってファイルを差し出した。
新幹線の中でそれに目を通す。
隣同士の席ではあるが彼女は着くまで仮眠を取るといった。
俺の肩に頭を預けてすうすう寝息を立てている。
俺は気にせず、資料に目を通す。
そこには思わず口を覆うような悍ましい儀式の報告と彼女の業の深さが記されていた。
 要約すれば彼女の家はこの世とは別の世界との交信のための触媒として薙原を産ませ呪わせた。
強い呪力を持つものの、それに引き換えとして感情に乏しく、痛覚も鈍いらしい。
呪術師の家系は何かしら逝かれた思想や習慣があるが己の孫を私利私欲の為に依り代扱いとは。
 俺もこいつも周りが悪かったと嘆くつもりはない。
だが憤りを感じてるのも事実。
資料を持っている手に力がこもる。
俺が静かに怒りに震えているともぞもぞと動く気配に思わず資料を隠す。
「…恵、何隠した?」
寝起きで機嫌が悪いのか少し眉を釣り上げて抗議する薙原。
「…なんでもねぇ。」
「なんでもなくない。
顔色悪い。」
隠すなと言わんばかりに手を伸ばす彼女を払う。
一層の事白状して同情してしまおうかとも考えた。
いや、きっとそれを彼女は望まないだろう。
考えることをやめて任務の打ち合わせを不器用に切り出す。
「…潜入捜査だから目立つことはするなよ。」
「…はーい。」
俺から聞き出すことをやめて不服そうな返事が返ってくる。
駅に着くまで特に会話もなく俺たちは気まずい空気のままぎこちなく過ごした。
 
 夜のうちに敷地内に侵入して百葉箱を確かめてみたら空だった。
俺はスマホを取り出して五条さんに報告もとい文句を言う。
「…ないですよ。」
『え?』
「百葉箱、空っぽです。」
『マジで?
ウケるね。』
ケタケタと笑う五条さんをため息混じりに怒る。
「ぶん殴りますよ。」
『それ回収するまで帰ってきちゃダメだから。』
釘を押されるように言われるとちょいちょいと肩を突かれる。
変われということなのだろうか?
薙原にスマホを寄越せば彼女は眉をひそめながら言った。
「悟、恵に意地悪しないで。」
『あっはは。
わかったよ、じゃあヒント。
志保ならその残穢くらいは辿れるよね?』
スピーカーではないがあたりは静まり返っていたため、大体のことはわかった。
要は薙原に探知をしろということだろう。
「…それがわかれば苦労しない。」
『いや、案外呪物を持ち去った犯人は案外まだ近くにいると思うよ。』
そう言って一方的に五条さんは通話を切った。
重い腰を上げ薙原は百葉箱に手を置く。
呪力の痕跡を辿る術式を発動する。

【探知・跡縫い】
 
瞬間、薙原の髪がピンっと方向を指し示しそれに着いて行く。
「あっちだって。」
しばらく敷地を歩き、校舎前まで着く。
「ここか。」
流石に校舎内には鍵がかかっており入れなかった。
薙原に術式を解けと言ってその日は終了する。
 
 
 補助監督の手配したビジネスホテルにて。
手違いで一室しか取れず、沈黙が流れる。
幸い、布団を敷くタイプの部屋なので布団を遠ざければいいだけの話である。
シャワーをし、本来使う予定のなかった第三杉沢高校の制服を枕元に置く。
明日はこれを使って情報収集に徹する予定だ。
「恵、もう寝る?」 
振り向くと生乾きの髪を揺らして部屋着姿の薙原がいた。
「髪を乾かしてこいよ。」
「…眠い。」
こっくりこっくり船を漕ぎそうになっている。
ため息をついて手を引いて洗面所まで行くとドライヤー片手に髪を乾かしてやる。
全くもってこいつは世話がやけるな。
五条さん曰く手のかかる子は可愛いとか言うが正直迷惑でしかない。
だが放っておいて良いものかとこいつから目を離せないのも事実だ。
「熱いとかないか?
あ、こら寝るな。」
「…ない。」
呼びかけつつ、うつらうつら揺れる頭を強めに固定する。
だいたい乾いたので電源を切って再び布団へと戻る。
「ありがとう、おやすみ。」
「…おやすみ。」
部屋の電気を消して俺たちは眠りについた。
 


「死体でも埋まってんのか?」 
 潜入捜査の聞き込み中、グランドに出てみれば呪霊が目につく。
服の裾を引っ張られ振り向くとやる気満々な薙原。
「…祓ってもいい?」
呪骸入りのトランクケースを開こうとする手を止める。
派手に暴れ回ったら困るためだ。
「ダメだ。それより呪物を盗んだ犯人を見つけるぞ。」
 呪力が充満し、上手く残穢を拾えない二人。
「クソッ、気配がデカすぎる。
薙原…無理すんな。」
探れるかと振り向いてみたら顔色悪く肩を抱いている。
恐らくこの膨大な呪力を感じてるためだろう。
彼女自身、身に合わない呪力を受けると体調を悪くする傾向にあり時々こうなる。
ということはすぐ近くにあるのだろう。
サッカーゴール近くが騒がしいと振り向いてみる。
生徒と先生が砲丸投げの勝負をしているらしい。
勝敗は生徒の方がサッカーゴールを凹ませて終わった。
「ああっ!もう半過ぎてんじゃん。」
そう言ってさっきまで砲丸投げをしていた生徒がこちらへ走ってくる。
チリっと不審な呪力を感知して呼び止める。
「おい、オマエ!」
制止も聞かずそいつは走り去っていく。
だが薙原は即座に反応したのかトランクを開いて呪骸を放っていた。
 
【追尾術式・密蔦】
 
「恵、行って。」
薙原は残って呪霊を祓うというので言葉に甘えて足を進めることに。
 

 
 呪骸の残穢を可視化し、その後をついていく。
行き先は大きな病院だった。
ナースステーションにて奴が何か書類にサインをしている。
看護師がヒソヒソと哀れみの言葉をかける。
志保の呪骸は役目を終えると同時に術式が途絶え、煙のように消えた。
任務だと言い聞かせ同情を抑え込み虎杖に話しかける。
「虎杖悠仁だな。」
訳を話して呪物を渡すよう交渉するが桐箱の中身は空。
中身を虎杖に詰め寄ると先輩たちが学校で開けるとのこと。
「…やばいなんてものじゃない。
そいつ死ぬぞ。」
薙原がいるとはいえ、特級呪物に惹かれた呪霊を全て相手取るとなると難しい。
彼女の階級は上の都合により下げられているが伏黒と同じくらいの場数は踏んでいる。
(無事でいてくれよ。)
踵を返し虎杖とともに高校へと急ぐ二人であった。
 

 
 一方、グラウンドの呪霊を祓っていた志保。
呪いで窓の鍵を壊し、開けて侵入する。
「せんセーサヨおナラー。」
ケタケタと無数の呪霊が廊下を走り回っている。

【術式反転・荊蔦】
 
 密蔦の応用術式で髪の毛を地面につくまで伸ばす。
そしてまるで鞭のようにしならせ、攻撃する。
これが志保の本領発揮だ。
呪霊は志保の髪に当たると霧散し、パラパラと崩れていく。
 
伸ばしっぱなしの髪を腰に隠していた呪具のハサミで適当な長さで切る。
そうしないと移動にも不便だし髪自体は呪力を込めればいつでも伸ばすことができるために気にしてない。
だが、呪いを募らせた為か彼女はふらついて壁に手を付く。
「きゃあああ!」
女子の甲高い悲鳴が聞こえ、志保はこうしては行けないと奮起し、四階まで駆け上がる。

 四階にて伏黒と合流するが呪霊が人質を取っており身動きが取れない。
「クソ!」
「恵、落ち着いて。」
焦って前に出ようとする伏黒を片手で制すと瞬間。
窓ガラスを蹴破って虎杖が人質二人を救出する。
「虎杖?!」
「…わお。」
二人の驚愕もなんのその。
標的を虎杖に変えた呪霊に隙が生まれ伏黒がそれを祓った。
 
「ふぅ、なんで来たと言いたいところだがよくやった。」
「なんで偉そうなの?」
虎杖の問いに代わりに志保がボソッと小言を漏らす。
「…恵、そんなんだから友達少ない。」
「うるせぇぞ薙原。」
「なあなあ、因みにあっちで呪いバクバク喰ってんのは?」
「俺の式神だ。見えてんだな。」
「ふーん、で、そっちの女の子もジュジュツシってやつ?」
伏黒の背に隠れた志保を目線を合わせるように首を下げる。
「ほら、薙原。」
小さい子に言い聞かせるように促すと渋々と行った感じで口を開いた。
「…呪術高専一年。薙原。」
「俺、虎杖悠仁っていうんだ。よろしくな。」
雑談を交えつつ呪いの解説をしていると天井から呪霊の手が三人を襲う!
虎杖の背を押して伏黒は庇うが自身は囚われ。
志保は消耗しており、反応に遅れ呪霊に押し潰される。
「…かは。」
苦しそうに顔を歪めつつ術式を発動しようとしたが二人とも壁を突き破り叩きつけられる。
「おい!」
息も絶え絶えで伏黒は立ち上がるが志保はぐったりした様子。
だが、彼女に気を取っている場合ではない。
(…クッソ、このままじゃ全滅か。)
回らない頭で嫌な予感を振り払う。
「大丈夫か?
薙原さん意識ある?」
「逃げろっつたろ。
奴は大丈夫だ。」
ヨタヨタと立ち上がり、志保も顔色悪く術式を練るが上手くいかないようだ。
「薙原、無理するな。」
「恵こそ…無理しないで。」
ああ言えばこう言うといった形で二人とも意地の張り合いで呪力を込める。

「なぁ、なんで呪いはあの指狙ってんだ?」
虎杖の問いに伏黒が答える。
「喰ってより強い呪力を得る為だ。」
それを聞いた虎杖は納得したようにつぶやく。
「なんだあるじゃん。
全員助かる方法。」
「あ?」
「俺にジュリョクがあればいいんだろ。」
そう言って虎杖は宿儺の指を食べた。
「なっ、バカやめろ!」
「…だめ。」
2人もの制止も聞かず彼は変貌を遂げる。
 
【続く】


オマケ解説
 
 志保の術式は基本髪が本体です。
髪を呪核として呪骸を作った為、案内役や多少の防御結界は張れますが呪骸は攻撃術式が使えないのであくまで防御or身代わり程度だと思っててください。


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