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まだ年齢が二桁にも達さない頃、エディルは家の仕事の都合で、どうしても引っ越しをしなければならなかった。
着々と荷物整理を進める両親とは対照的に、エディルはいまだに部屋の物を整理する気になれなかった。
そうしている内に、半ば強制的に荷物整理をさせられ、やっと部屋の隅に転がるゴミすらなくなり、ついに町を旅立つ日が来てしまった。
笑顔で隣近所の住民と握手を交わす両親の傍で、エディルはずっと泣きつづけていた。
別に、この町が好きだったからだとか、そういう理由があるわけではない。
彼には、両親よりも、誰よりも好きな相手がいたのだ。その人物と別れなければいけないという事実に、彼は涙をこらえることができなかった。
やがて、エディルの傍に、線の細い、可愛らしい顔立ちの子供がやってきた。
その姿を捉えた瞬間に、またエディルの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「リドオオオオ!!離れだぐないよおおお!!」
自分よりも華奢な体を強く抱きしめて、ひたすら別れたくない、と言いつづけるエディル。
細い腕をそっと背中に回し、抱きしめ返してリドと呼ばれた子供も別れを惜しむ。
「僕も離れたくないけど…仕方がないんだよ」
「嫌だよおおおリドオオオオ!!」
幼いながらも抱いた恋心をどうすればいいのかもわからず、エディルはずっとリドを抱きしめることしかできなかった。
やがて、リドが柔らかな笑みで、エディルにそっと囁いた。
「大丈夫だよ、別れても、また会えばいいんだから」
その言葉を聞いた時、不思議と、エディルの中の悲しみが吹き飛んでしまった。
かつて悲しみがあった場所を埋めるように、段々と大きな勇気が増えていく。
エディルの中で、ある決心が生まれたのだ。
「リド」
「どうしたの、エディル?」
一度深呼吸をし、呼吸を整える。その後で、エディルはまっすぐな眼差しでリドを見つめた。
「俺が大きくなったら、必ずこの町に戻って来るから」
「うん」
「…だから、その時は俺と結婚してほしい」
「…うん?」
「絶対に、リドを守れるぐらい強くなるから!」と言い放ち、エディルは少し離れたところで待っている両親の元へと走り去った。
ずいぶんと一方的だが、エディル少年にとっては、誰よりも愛しい存在との大切な約束であり、これを守るために、日々エディルは努力をしていた。
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