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納得できない、と怪訝な表情を浮かべるエディルの後ろを指し、美女は「リドは『彼』よ」と言った。
恐る恐る振り返ると、エディルの背後には、いつの間にか先程の男が立っていた。
人を殺しそうな程の鋭い気迫に押され、情けない悲鳴が喉から漏れてしまった。が、そんな恐怖で彼はガタガタと体を震わせるようなことはしなかった。
「えっと…リ、リド…なの?」
「そうだが」
さも当然そうに、肯定する男。
納得云々の前に、そもそもリドが成長した姿がこの男だ、ということが理解できず、段々と頭がこんがらかる。
「見た目麗しき女神じゃないけど」
「俺は男だ」
「昔のリドは超可愛い女の子だったはずだけど」
「見た目は肯定するとしても、性別は違う。最初から男だ」
記憶の中の線の細い天使のような少女と、妄想の世界の美女がガラガラと音を立てて、呆気なく崩れていく。
困惑のあまりにうろたえるエディルの手から、リドだという男が指輪の入った箱を奪い取った。
取り返そうと必死に手を伸ばすが、男は上手くそれをかわしながら指輪をマジマジと見つめる。
「随分とシンプルな指輪を買ったんだな」
「そりゃあもちろん、リドに似合うと思って…あっ」
ほとんど口にしてしまったが、思わずエディルは口をつぐんでしまった。
目の前にいる男こそが、エディルが恋焦がれていたリドなのだということを、すっかり失念していたからだ。
「リドは男だから指輪なんてもらってもどうしようもないよな」と補足を加えようとしたが、その言葉は発せられることはなかった。
ほんのりと赤く染まった耳に、少し下がった眉尻と、対照的に緩くカーブを描くように端が上がった唇。
リドは、照れ臭そうに、指輪の入った箱を手で弄び始めた。
その時のリドの表情に、胸が高鳴るように感じたエディルだったが、道を踏み外してはいけない、となんとか踏み止まった。
ふと、リドが口を開いた。
「エディル」
「な、なんだよ」
「昔にお前がしてくれた約束を覚えているか?」
リドと勘違いをして求愛をした女性に対して述べた約束のことを言っているのだろう。エディルは、声も出せず、ただ小さく頷いた。
「男同士なのに、結婚しよう、と言われた時は本当に驚いた。…女と勘違いされていたことにも驚いたがな」
「うっ…すみません」
なんで謝るんだ、と柔らかい笑みと共に声をかけるリド。随分と男らしい魅力を得たかつての大好きだった人の笑顔は、どうもエディルには応えたらしい。
今まで黙っていた女性が、声を押し殺して笑っているのを感じ、一瞬だけ殺意を覚えたが、目の前の男にすぐに意識を持っていかれてしまう。
「お前がいなくなった後、本当に寂しかった。最初は、友達が一人いなくなった、て感じだったが、最後に言われた言葉と見せられた表情を思い出す度に、段々と頭の中がいっぱいになってきた」
ゆっくりと、自身の想いを伝えようと、言葉を紡いでいくリド。
そんな彼を前にして、エディルはただただ、次に紡がれていく言葉に耳を傾けることしかできなかった。
「他の友人に対しては感じたことのない気持ちも感じたり、約束を果たしに戻って来てほしいと思ったりするようになった。そこで、俺はお前のことが好きだということに気がついた」
「ちょっと待て。今、お前何て言った」
「だから、お前のことが好きだということに」
「わかってるわんなもん!」
随分と理不尽な受け答えをした、という罪悪感はあったものの、エディルの脳内はそんなことを気にしていられるほどの余裕がなかった。
目の前の男、リドが、エディルのことを好きだ、と言ったのだ。
本来なら友人間での好き、と判別できるが、雰囲気がそれを許さない。どういう意味で好きなのか、と問わなくても、わからせてしまう雰囲気だった。
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