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リドが箱から指輪を一つ取り出す。それは、エディルが自分の指に合わせて作ってもらったものだった。

やや強引にエディルの腕を掴んで引き寄せ、ゴツゴツとした左手の薬指に、その指輪をゆっくりと通した。

「ピッタリだな」
「当たり前だろ、自分用に調整したやつなんだから…」
「結構、似合ってる」
「…はぁ」

適当に受け流し、どこか明後日の方向を見始めるエディル。だが、そんな彼の視線は、すぐさまリドの元へと戻された。

リドが、エディルのものよりも一回りも小さな指輪を取り出した。エディルが、妄想の中のリドのために、と用意したものであるため、当然、現実のリドの指に通ることなど不可能である。

それを一体どうするのか、と見ていると、リドはそれを箱に戻し、なんと自身の懐へと箱ごと仕舞ってしまった。

「あ、おい!何仕舞ってるんだ、返せ!」
「なんだ、俺にくれるためのものじゃないのか?」
「確かに、リド用に作ったやつだけど…男にあげるために作ったわけじゃないし、そもそも女性用のサイズだからもらっても仕方がないだろ」

そう反論すると、リドは不思議そうな表情を浮かべたが、すぐさま言い返してきた。

「サイズは別にどうでもいいだろう。後ででも調整できるだろうし」
「いや、だからお前は男だから…」
「俺が男だから、昔は女と勘違いしていたから、約束をなかったことにするのかお前は」

そう言われ、エディルは言葉を詰まらせる。

いくら性別を勘違いしていたとはいえ、一方的ではあるものの、将来を誓う約束をしてしまったのだ。
しかも、約束をされた相手はエディルに惚れてしまい、約束に本気になっていたのだ。

最早何も言うことができないエディルの前に跪き、リドはエディルの左手をとった。

「ずっと昔から好きだった。この指輪に誓う。俺と結婚しよう、エディル」

そう述べ、薬指に嵌められた銀色の指輪に唇を寄せる。

面白いものが見れた、といわんばかりに声を殺して肩を揺らす女性も、ましてや、この広場に徐々に集まりつつあった野次馬さえも、彼ら二人は気づかなかった。
リドは気づいていたが気にしない姿勢をとっていて、求愛をされたエディルは野次馬達に意識をやる程の余裕がなかった、と言う方が正しいだろうが。

困惑と、それよりも強い羞恥が、エディルを混乱させる。
彼はリドのために、と人一倍努力をするような人間ではあったが、同時にリド以外の人間に興味を持ったことがなかったため、こういったことには不慣れであった。

「エディル、返事をくれ」

少し顔の赤いリドが、自分以上に顔を赤く染める男に優しく催促する。
リドには申し訳ないが、越えてはいけない一線というものを感じ、エディルは承諾しようとする意志を押し込めて必死に断ろうとした。

「じ、冗談じゃない!」
「なんでだ」
「おおお男同士とか、非生産的だろ!」
「お前の口から地味に難しそうな言葉が出るとは」
「うるせぇな!これでも学者とかやってるんだよ!」

そう口汚く罵るものの、リドは段々と笑顔になっていく。
自身の背中に変な汗が流れるのを感じた。
これはヤバい、と頭の中で警鐘が鳴らされるものの、体が動かない。
硬直した体と危険を知らせる頭とが格闘している内に、リドがエディルを横抱きにして抱えてしまった。

「何すんだ」と抗議をしようとしたエディルよりも、今まで見たことのないような嬉しそうな笑顔と共に、リドが先制して言い放った。

「もっと、この十数年間の話を聞かせてほしい。俺の家に行こう」
「はぁ!?」

ふざけるな、とバタバタ手足を動かして抵抗する。
その度に少しバランスを崩しかけるが、リドはすぐに体勢を立て直してしまう。

そして、いつまでも抵抗をやめようとしないエディルの、軽く前髪がかかったままの額に唇を落とした


ほんの一瞬だけ、広場に静寂が訪れるが、最初からニヤニヤとして彼らを見ていた女性が豪快に口笛を吹いた途端、周りの野次馬達もまた騒ぎ始めた。

恥ずかしさで赤く染まった顔を隠すように縮こまったエディルを優しく抱え直し、再び歩き始めるリド。

おそらく、遅くとも次の日の朝には、彼ら二人の話はすでに町中に広まってしまっているだろう。大方、この野次馬達と、面白い話が大好きな外見詐欺の女によって。

半分諦め、半分こそばゆい感覚を覚え、エディルはもう自分を抱える男に抵抗をすることはなかった。

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