episode2:敵国に保護されてしまった


ふわふわと意識が浮上してくる。
それと同時に、クルトにはまだ目を開かなくても理解できたことがあった。

一つは、自分が生きていることだ。
きちんと、一定のリズムを心音が刻んでいるのだ。
よく助かったものだ、と不思議に思った。

もう一つは、自分は今並大抵の身分の人間がいるような場所にいるというわけではない、ということだ。
恐らくクルトが横たえられている場所はベッドだろうが、平民が横たわるようなそれとは遥かに質が違う。
上位の聖職者、貴族等が使っているようなものではないのだろうか。

そう考え始めた途端に、例えようのない不安に襲われた。
意識を失い、平民のボロ屋にて看病された、というのなら随分と気が楽だったのかもしれない。
自分を助けたであろう相手が身分の高い人間ならば、一体自分はどうすればいいのだろうか。

相手がまだ人の良い人間ならまだしも、中には性根の腐ったとんでもない人間もいる。最初に優しく接しておいて、後からたんまりと金を搾り取ろうとする悪党のような奴もいるというのだ。

そうウダウダ考えても何も始まらない。ここは腹をくくって、自分の目で確認しなければならない。
そう決心をし、クルトはゆっくりと瞼を開いた。

視界に広がったのは、シミ一つない綺麗な天井だった。顔を横に動かせば、恐らく上位の人間のものだとわかる雰囲気の、だがどこか質素な部屋が確認できた。

その時、部屋の外から二人分の話し声が聞こえてきた。
上手く聞き取ることはできないものの、それが段々と近づいてきていることだけはわかった。

「………と思ってるんですか」
「すまんすまん。だが……………ら、大雨に流されて………」

男二人分の声だ。上下関係にあるのか、若干砕けているものの、片方の男の口調は目上の者に対するそれであった。

やがて声の主達がこの部屋の扉の前で歩みを止める。

こうして起きているのに寝たままというのも失礼だと思い、クルトは上半身を起こそうとした。
しかし、思うように体が上手く動かない。その上脇腹と右腕がやけに痛むのだ。

結局扉が開かれるのと同時に、緩慢な動きで上半身を起こすところを見せつける形となってしまった。

「お、おお。起きたんだな。よしよし。…あ、体は無理に起こす必要はないからな」

大型犬のような雰囲気の麻色の髪の男がそう声をかける。それに続くように、三白眼が特徴的な、金色の髪の男もクルトに声をかけた。

「医者も、しばらくは安静にしてろと言っていたしな。…どうだ、気分は」

三白眼の男と目が合った。
その瞬間に、例えようのない衝撃がクルトの体中を駆け抜けた。

自分は、この男を知っている。
正しくは、この男と戦ったことがある、と言った方が正しいだろう。

不敗の将軍、ラドリアム。彼が出陣した戦において、彼は一度も敗走することなく、常に勝利を納めてきた。
敵国の将軍、なのである。

何度かクルトの国とラドリアムの国が衝突したことがあったが、ラドリアムが関わった戦争は全てクルト側の国の敗戦で終わらせられてきた。

その男が、クルトの目の前にいる。
そのことが、クルトに悟らせてしまった。

恐らく、いや、絶対に、自分は敵国に保護されてしまった、ということを。

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