"冬の繭”
そう呼ばれる北領は、四季があるわけではないけど「寒さが和らぐ期間」とか「一番寒い期間」とかはある。
一応、今は「一番寒い期間」

北領は確かに寒冷地だが、今年は異常だ。
騎士団本部に帰ってきた実働部隊を見ていると解る。去年の今頃はしてなかったような装備を着けていた。

「今月ヤバいなぁ、どう思う?ライル」
「どうと申されましても」
………ルネに昨年から付いた副官は生意気な、まだ14才の子供だ。ほんと、気温も低けりゃ副官も冷たいしムカつく。

暖炉の火が暖かい領長室から覗く限り、中庭に着いたばかりの団員の約半数は寒さにやられてる。
到着した途端にリムノスキア───人が乗れる程の大きなトナカイのような獣───から倒れ落ちた、恐らく南領出身の団員が運ばれていくのを見ながら待っていれば、部屋の主が戻ってきた。

「待たせたね」
重く硬い木で作られた扉を開けて、ゆっくりルネが入って来る。
待たせたね、だなんて言っているが、この男は実際待たせて悪いだなんて思っていない。ただの社交辞令だ。
まぁ、物腰が柔らかいだけマシだな。
「いーや?急に来て悪かったな、予定がどうしても上手く組めなかったんだ。悪いついでにマグ借りてるぞ」
領線からこの北領本部まで、リムノスキアで30分の間にすっかり身体が冷え込んでしまった。
「何飲んでるんだい?ホットミルク?」
「おー、甘くしてもらった」
「僕ももらおうかな。ごめんね、ライル、お願いできる?」
「はい、ルネさん」
副官の小さな背中を見送って、ふかふかのソファに沈み混むルネに向き直った。

「それより、新人は不運だな、いきなりこんな寒波だとか」
「全く気の毒だよ。1回は寒波を経験しておかなければいけないから、これを期に連れて行ったけど、北領出身の子ですら倒れてしまったから他の子なんて2日は戻れないな」

北領出身の新人はある程度寒さに慣れてる。
だが、この騎士団には“外に出ない方が良い”だなんてほぼ通じない訳だから、新人は今までなら家の中で過ごしていた日も出なければいけない。そこに不慣れだ。

“こんな日は暖炉の前で飼い犬と過ごしていたのに”

きっとこんなことを思うだろう。
平均年齢15歳の新人団員の不安は、体調を大きく左右する。俺達もそう変わらないかもしれないが、まぁ一応場数が違う。
この男が平気な顔でここに戻って来られるのは、冬の神に仕える神官でもあるからだ。
北領の筆頭神官は代々灰色がかった焦げ茶色の髪と緑の瞳を持っている。ルネも違わず、その色を生まれながらに持っていた。
極寒でも聳え立つ、針葉樹のような色がこちらを覗き込む。




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