○○しないと出られない部屋 その1
「いやいやいやいや、待て、待って!!!」
「でも、ハルくん。このお題に答えないとお外に出れないみたいだよ?」
「それにしたって、その持ってるものは可笑しいって!」
「え、でも、歯磨きチェックしないと……」
「はっ!?ん?え〜〜〜〜??」

 ゆきのの手には青の歯ブラシが握られていて、ブラシの上には歯磨き粉がちょこりと乗っている。そこだけ見てしまえば、朝の支度をするルーティーンの一つとして見慣れて、すんなりと受け入れられるのだ。が、問題は他にある。
 一つは、この部屋。友人同士である、ゆきのといつもの様に数日前から遊ぶ約束をして二人で買い物に出かけていたのだが、気が付けば、椅子と机、小さな洗面台、そして紙切れと歯磨きセットが二つ分。二人で部屋の中をくまなく見て回ったが、脱出出来そうな所はシンプルなドア一つのみで、二人で押しても引いてもドアノブは不動を貫いていた。
 もう一つの問題は、紙切れに“この部屋は、どちらかが虫歯があることを白状しないと出られません”と書かれていたことだ。脱出も出来ず、行動を制限された中で考えた結果。紙切れに書かれていたことを試そう、となったのだが……目の前にいるゆきのが歯磨きチェックをすると言い出した。

「私はこの間、歯医者さん行って問題なかったの。だから――」
「だからって、おれ!?」
「う、うん。この間、ミルフィーユくんがハルくん歯痛してたって言ってきたから……」
「ミルフィーユぅぅうううう!!!」

 今は居ない己の食霊の名を渾身の声量で叫ぶおれに対して、ゆきのは、顔を顰めることなく自分の耳を素早く手で塞いでいた……手慣れている。

「ほらほら、お姉ちゃんに任せて」
「いやいやいや!おれの方が歳う――ぅえ゛!?」
「はい、上向いて〜ちゃんとあーんして〜」

 流れる様に椅子に座らされたおれの抗議は虚しく、歯ブラシを動かす音で掻き消された。

「はい、ハルくん上手だね〜いいこ、いいこ」
「っう、るひゃ」
「あ、こらっ!喋らないの!零れちゃうでしょ!」

 自分のリズム、意思とは全く違う調子で口内を動き回る歯ブラシは違和感があり、身の毛がよだつ。終われ、終われ!と、頭の中で反復す言葉。真剣に自分の口内を見つめる異性の友人を見ていられなくて、目を力一杯に瞑ってみたが、口内の動きを過敏に感じてしまうだけだった。
 口蓋ぶたを掠めるブラシの先が、とても憎らしい。無理矢理なのにも関わらず、口内を動く歯ブラシの触れ方はとても優しくて、それがじっれったくも感じた。
 ぞわり、ぞわりと這い上がってくる――何かがクる。
 この感じに覚えがある自分が、とても恥ずかしい。じんわりと広がる末端の痺れ、頭がバカになりそうな昂揚感。頭の片隅に僅かに残る羞恥心も、どろどろと溶かされそうだ。気を紛らわそうとして、服を握りしめた手に更に力を込めた。

「あ、……みつけた」
「――っ〜〜ぉれ、あっ、りま、ふっ!」

 切羽詰まったおれの言葉はとは裏腹に、ドアの施錠音がガチャリと音を立てた。

 もう、こんなのゴメンだ!!

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