わたしはつばめ
 片方の白の吐息がふわりと揺蕩えば、もう片方の白がまた、揺蕩う。ピュッと吹かれる冷たい秋風に、思わず肩をくっつけあって暖を取り合うのは、ゆきのと彼女の食霊であるたい焼きだ。
 肩を寄せあった拍子にガサリと手元で音を立てたのは、買い物袋。自然と笑い合うその二人を他の人が見たらきっと、買い物帰りの仲のいい姉妹か何かと勘違いしてしまうだろう。愛らしい笑顔とは別に、戦場で腕を奮う勇猛果敢な彼女たちの顔付きを誰が想像するだろうか。

「寒いねぇ」
「早く帰りましょ!御侍様ぁ〜!」
「今日は卵たくさん買ったもの。途中で落としたりしたら大変でしょ?だから、ダーメ」
「それは御侍さまで、あたしは落とさないわよ〜!」

 「寒い、早く、早く」と、口にするたい焼きだが、ゆきのの腕を引っ張るなり、先に行くなり手段があるのにも関わらず歩調を合わせて隣を歩いてくれている彼女の優しさに、ゆきのはひっそりと笑みをこぼした。
 また、ピュッと秋風が吹く。流石に真正面から二度も吹かれれば、身震いするしかないのだが、その北風に乗って香ったのは、香ばしくも甘い香り。
 彼女たちの目と鼻の先には『石焼き芋』の暖簾を引っ掛けた、手押し車敷式の屋台があった。

「御侍様!御侍様!」
「ふふ、皆には秘密ね?」

 ゆきのの言葉に大きく頷いて、瞳の奥を更に輝かせたたい焼きは、一目散に屋台へと駆け寄って行く。ゆきのが追いつく頃には、たい焼きの小さな片手に袋が一つだけ。「広場が近いしそこで食べましょ!」という提案に、ゆきのは二つ返事で頷いた。
  所々、鍍金やペンキが剥がれているベンチへ二人で寄り添ってゆきのは、たい焼きから受け取った袋をゆっくりと開ける――中からは、湯気とともに甘い香りが鼻腔をくすぐり、赤茶色のそれは割られることを今か今かと待ち望んでいるかの様に思ってしまうのは、きっとこちらの想いが強いからだろう。
 ぐっと、手に力を込めてゆっくりと均等になるようにそれを割る。白い湯気と一緒に現れてのは、金。見るからにホクホクと口当たり良さそうなその艶は、無意識に生唾を飲んでしまう程だ。綺麗に割られた片方をたい焼きに差し出して、二人で同時にかぶりついた。
 滑らかな柔らかさと、芋だけの上品な甘さはしつこくなく、やみつきになってしまう。

「美味しいね」
「温かいお茶もあれば最高だわ〜」
「ふふ、そうだね〜」

 何口かまた夢中で頬張っていれば、ゆきのは自分に注がれる視線に気がついた。その視線は横に座っているたい焼きからのもので、じっと眺められる理由は特段に思いつかない。

「どうしたの?」
「……秋刀魚さんと最近どう?」
「秋刀魚さんって、さんまの塩焼きさん?」

 直ぐに思い出されたのは、渦中の人物を召喚した時の光景だ――飛散してキラキラと反射する幻晶石、一閃の焔が駆け抜け、紅葉が舞い落ちる……赤に染った一面に、銀と碧を纏った彼はとても綺麗だった。

 たい焼きやどら焼きの様に、直ぐにとは言わないが打ち解けられるかと思っていたが……それは、叶わなかった。無口を極めいていたさんまの塩焼きは、ゆきのの問いかけにも何のその。一方的に、ゆきのが話しかけるばかりだった。

「……お喋りするの苦手みたいだから、仕方ないかなって」
「御侍様はそれでいいの?」
「う、ん……無理に私たちのペースに巻き込んじゃダメだよ」

 北風が、ゆきのとたい焼きの髪の毛を抱き込んで遊ばせる。ゆきのは、こちらを不安げに見つめるたい焼きの乱れた髪を優しく撫で付けて「焼き芋、冷めちゃうね」と、微笑みをひとつ零した。
 その笑顔が、ゆきのと初めて行った戦場の後を思い出す。自分のせいで守れなかったのに、ゆきのはたい焼きに怪我が無かったことに安堵して涙を流したのだ。

 ――優しい、優しい御侍様。あたしは貴女の力になりたいの。

「――あたしとの出会いは幸運の証!」

 真っ直ぐに前を見つめ、立ち上がり、声高らかに紡いだのは、彼女と最初にあった時の言葉。
 状況を把握していないゆきのに、たい焼きは振り返って、口端を上げ明朗に笑う。

「あたしが居るんだから!御侍様の進む未来は素敵なのよ」

 彼女が太陽を背にしているからか、それとも朗らかな笑顔が眩しいのか、ゆきのはゆっくりと目を細め小さく綻んだ。

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