メロウはお好きですか
 港に着くなり斎の目に飛び込んで来たのは、深く降り積もった白が一面に広がる銀世界。いつもの道はすっかり雪で覆われていて、道の隅に何か所か雪が盛られおり、除雪が終わった後だと見受けられた。
 ぎゅっぎゅっと、雪を踏み鳴らしていつもとは違う町の風景を楽しみつつ、ギルバートの教会へと足を向ける――大雪だったことを知らずに、マフラーも着けずに厚手のコートだけで来てしまったのを少しだけ後悔しつつも歩く雪道の歩調は、軽やかなものだった。

「あ、来た」

 教会いると思った人物はそこではなく、教会の隣にあるカフェから現れた。きっちりとマフラーにコートといった外出するような装いのギルバートの手には、バスケットが握られている。

「お待たせ、ってどこか行くのかい?」
「まぁね。ほら、アンタも行くよ」

 着いて来て、と言わんばかりに人差し指を何度か曲げてジェスチャーをするギルバートに内心、首を傾げながらも斎は素直に従って後をついて行く。連れて来られたのは、教会横にある小さな広場だ。
 普段なら、ギルバートの食霊であるティラミスがプランターで花を育てているのだが、大雪の影響からかそのプランターはどこにもない。その代わりにあるのは、大きな白い山。その山には穴が掘られていて、大人二人は余裕で入りそうな大きさだ。これは――

「――かまくら?」
「そ。アンタこの前、教会の子供たち話してたでしょ?いくら雪が降るって言ってもナイフラストじゃ早々積もることもないし。大雪で皆はしゃいでさ、昨日と今日にかけて作ったってわけ」

 「アンタの情報と、写真だけの見よう見まねでも上手いもんだよね」と、優しくかまくらを叩いたギルバートの表情はどこか誇らしげだ。

「ほら、入ろうよ」
「ええ?」

 大の大人がこの中に入るのか、と尻すぼみになる斎の感情とは裏腹に、ギルバートは斎の腕を引く。「童心に戻るのも一興じゃない?」年不相応に幼げに笑う恋人に、斎はつられて困ったように笑みを浮かべてしまう。
 見た通り大人二人が入っても申し分ない大きさで、教会の子供たちのアクティブさに斎は感心しつつ、かまくらないの内装を見渡すのだが――足元の濡れ防止の為に敷かれているアーガイル柄のレジャーシートに、背の低いテーブル。その上にはガスランプが置かれ、寄り添うようにスノードームが隣席されている。壁には電飾やツリーモーメント、ヤドリギのブーケ、どれもこれも外が和風なのにも関わらず、内装がクリスマス使用なのには少しだけ笑ってしまった。

「好きに内装させたら見事にクリスマスカラーで笑ったよ」
「みんなクリスマスが待ち遠しいんだねぇ」

 手渡されたブランケットを座布団代わりに腰を落ち着けた斎は、ちょうど近くに飾られているヤドリギのブーケを指先で弄りつつ、クリスマス当日に教会の子供たちにお菓子を沢山配るのもいいかもしれない。と、近い未来に思いを馳せていれば自分を呼ぶ声がひとつ。それは隣にいるギルバートで、斎はなんとも思わずにそちらへ顔を向けた。
 項にあたるのは柔らかな感触と、暖かさ。そして、唇には冷たく微かに湿ったまた別の柔らかさだ。首にマフラーを引っ掛けられそのまま引き寄せられたと自覚したのは、唇同士が離れた後だった。

「マヌケな顔」

 くつりと口端を上げて、したり顔で言ったギルバートは何ともなしに斎の首へマフラーを巻いていく――

「――ヤドリギの意味なんて、博学なアンタなら知ってるでしょ」

 満足げに弧を描く口元をそのままに、若緑の瞳がゆっくりと細められた。



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