誘拐を阻止せよ
02

「背たっか!顔ちっさ!なんてかっこいいの…信じられない。この世のものとは思えない…」

友はわなわなと打ち震え、目に涙を浮かべている。
コートの裾を華麗に揺らしながら移動する2人は、友の言うとおり3次元の領域を飛び越えていた。
腰の位置はどこにあるの。どうしてそんなに足が長いの。だてメガネだとか、黒のタートルネックだとか、ありふれたアイテムの1つ1つが彼らを着飾るラグジュアリーに見える。
ステージで見るプロの表情とは違い、完全に素の姿だというのに、これほどまでに差があるものなのか。
あんまり凝視しては怪しまれる。
そう思いながらもこの目は2人を追い続けた。

「友達に報告しなきゃ!あ、SNSにも。写真はやっぱり駄目だよね?でもツイッターにあげなきゃ平気かな?」

ぶつぶつ独り言を並べる友の声にはほとんど反応できない。
そのうちチャンミンが1人だけ輪から外れ、別の方向へと歩き出した。

「チャンミンがどこか行く…」
「え?」

ユノペンである友には、ユノの動向しか目に入っていないようだった。
余裕がなくなると視野が狭くなるから無理もない。
チャンミンはトイレへ向かっているようだった。

「…ちょっと、トイレ行ってくる」
「え、今?!なんで今なの。我慢しなよ!」

友の非難を浴びながら腰を上げる。
ふら〜っと引き寄せられるようにトイレへ足が向いてしまう。これはアイザックニュートンが発見した引力。りんごは落ちたら地面に落ちる。それと同じようなことが起こっている。
もちろんそのまま男子トイレに入るような真似はしなかったけれど、チャンミンが歩いた場所を歩いているという事実だけで、頭が爆発しそうだった。
なんだか心なしか、良い匂いが漂っている気もする。
頭がぼんやりとして、今が夢なのか現実なのかわからない曖昧な境界線で、私の耳は妙な物音を拾った。

何かが揉み合う音と、意味の分からない言葉が、男子トイレの奥から聞こえてくる。
なになに?もしかしてトイレでファンと遭遇した?
只ならぬ不穏な空気に耳を澄ませた瞬間、

「ヤァ!ヌグチ!」

彼の恫喝が聞こえ、いてもたってもいられなくなった。