『障子、握力540kg!』
「負けねぇ…!」
「タコってエロイよな」
彼らは講堂…ではなく、グラウンドにてボールを投げたり計測器を握り込んだりしていた。とどのつまり、俗にいう体力測定テストである。
この時、なまえは50m走を5.54秒で走り切って、バイクを創造した女子の隣に立っていた。
「げえ!万力!」
創造の女子は万力を使って馬鹿みてえな記録を出していた。この女子の隣で計測されるなまえの身にもなってほしい。なんなの?ほんと。
「むん…」
なまえは半ギレで計測器をぎゅっとした。彼は蛇であるからして、結構締め付けることに関しては大得意だったりする。
「みょうじ、握力385s!」
「クゥ!」
とはいえ、全身を使った締め付けと、手だけの締め付けではどうも違いが出てしまう。彼が全身を使って計測器を締め付けていたのなら1tくらい余裕で出るが、手だけだとどうもこれが限界であった。
チェーっという気持ちで、隣の女子から回収した計測器をロボに渡す。もちろん自分が使ったやつも一緒に渡した。なまえは名簿番で最後なので、使った道具を全部片づけなければいけないのだ。なんで?ロボットが片付けろよ。お掃除ロボットくらいいるんだろ。チョチョイのチョイでやれって。
そのまま、なまえの中では特に良い成績を残せることなく進んでいった。
ム…!と彼は不機嫌だった。なまえというのはしかし、負けん気が強くって勝ちたがりのきらいがあった。でもどうしたって、個性というのはその名の通り人それぞれ違う。どういうことに対してどの個性が優れているか、なんて気が遠くなるほどの組み合わせが存在するのだ。
この体力測定で、なまえが個性を存分に使えるものと言ったら先ほどの握力計測くらいしかない。代わりに、すべての成績は全国男子高校生の平均値を大きく超える成績を残せていた。これは、彼の純粋たる運動神経に加え、蛇個性のお陰でマッタキ良質かつ豊満な筋肉のお陰であった。
「ね、ね」
「ン」
ブー垂れているなまえに話しかけたのは、人懐っこそうな女子だった。ピンクの髪と肌が大変かわいらしい、触覚のようなものが特徴的の。
「みょうじだよね?なのに何で名簿番、最後なん?そのみょうじならもうチョイ前だよね」
「ああ、僕コネ入学だから。入学が一番最後に決まったから、必然的に最後なんだな。」
「エッ…」
そう。何を隠そう、この男っつーのは後ろ盾があった。名前を聞けばアッ!と思う機関が後ろ盾にあるのだ。どうだ、まいったか?
マ、その機関で教育を受けていればどこの人間よりもトントンでこの男はヒーローになれていたはずなのだ。それこそ、かの速すぎる男と同等くらいで。
がしかし、しかしである。このなまえというガキンチョ、人間性とかが著しく低かった。低すぎてもはやなかった。彼は本能のままに生き、欲望のまま行動した。それは簡単に、彼の生まれた環境が原因である。
彼の生まれた環境は肥溜めよりもずっと酷い所だった。目を向けることも憚られるような、聞くことすら吐き気を催すような邪悪な場所だった。世界の悪意を凝縮しても、そんな環境が生まれるか分からないほどだ。
だから彼は生きるために本能的に行動しなきゃあいけねえのだ。生きるために他の生物を殴り、カツアゲをし、盗みを行い、愛を以って抱き、時に人を殺しかねない暴挙にでた。何もかも、彼を生かすために必要であった。
彼が保護された時、後ろ盾の機関は頭を抱えっちまった。この男を保護したのは、彼の個性が欲しいからで、別に個性が悪けりゃ孤児院に預けるはずだったので、そんなジレンマに苛まれながらこの男を育てたのだ。
そして、話し合いに至ったのである。こいつ、人間性が全くねえ。協調性の”き”の字もねエ、羞恥心もなけりゃあ罪悪感もねえのだ。どうすりゃいいんだと思った。終わりだと思ったのだ。
で、その機関の疲れ切った男が言った。
「なんか学校とか行かせればどうでしょう。たとえば、ヒーロー科のある士傑高校とか、ああ…雄英もいいですね。あそこらの教師なら、この子を止めようと思えば止めれますし、同年代の子と触れ合える環境ならば、きっと人間性も育んでくれます。多分。ええ、たぶん。」
こんな具合に。疲れ切った男を、機関の皆は胴上げした。テメエは天才だ、一休さんの再来だと。誰が屁理屈野郎だと、疲れ切った男は大変疲れていたので心のうちで思うだけに留めて終わった。
となれば話は早い。あれよあれよと話が進み、ヒーロー科のある高校にコンタクトを取り、その時点ですべての入試は終わっていたため、だいぶ無理を言って面接だけでもと。取り合ってくれた高校に片っ端にこの蛇畜生を連れて回ったのだ。
そして付き添いの大人がペコペコ頭を下げる中、面接が行われた。厳しい面持ちで面接官が質問を投げかけ、蛇畜生が確りと受け答えをした。ここまでは練習通り、特に蛇野郎は天才肌であるためどんなことでもきれいにサッパリ応えることができた。しかし、
「将来の夢は何ですか?」
「エ〜!将来の夢すかぁ?チョ〜チルなヒ〜ロ〜!」
付き添いの男は泣いた。チョ〜チルってなに?(チルというのはまったり、とか癒し、とかの意味を持つ若者言葉らしい。うるせえばか。)お前は平和の象徴たるヒーローになるのよと耳が腐り落ちるほど聞かせただろうが。
で、士傑を始めとしたほとんどの高校は
「ちょっとこの子うちの校風にはあわないですね〜(意訳かつ大変オブラートに包んだ。10枚くらいに包んだ。)」
と言って断ってきた。当たり前である。残りの望みは雄英だった。
「なんかおもしろい子だし、貴方方にはいろいろお世話になっておりますし。ウン、ムードメーカー的になるんじゃないかしら。いいと思いますよ。彼のことは特別入学という形で受け入れます、あ、制服の採寸大変そうですが…特別料金になっちゃうかしら。ところでご存知でしょうが今年度からオールマイトがうちの教師になるんですよ〜楽しみですよね〜」
と。あのネズミがにこやかに言った。機関の疲れ切った大人たちはその夜打ち上げをした。店の酒をすべて飲み干す勢いで酒を飲み、揚げ物をかっ喰らい、若い男女社員にセクハラまがいの話を振ったりして大いに喜んだわけだ。
「なまえ、なまえ、お前ね。面接いったでしょ?あそこのね、雄英が。お前を入学させてくれるってんで、特別入学よ。だからあんた、準備して制服の採寸に行ってきなさい。」
「エ?士傑落ちたの?」
「落ちるわあんなこと言ったら」
「なーんだ。チェ!雄英の制服ダセエんだよな。田舎だし。」
「コラッ!」
そんな具合に、文句ブー垂れながらこの男は制服を採寸してもらい、入学準備を行い、静岡駅に近いけれどボロボロ尚且つ事故物件なアパートの一室を借り、一人暮らしをする前提で入学したというわけだ。
「コネなんだ〜やばいね!」
「まーね」
そんな蛇畜生は、目の前で指を骨折した、ついさっきお友達になった緑谷出久を見ていた。ボール投げの順番が、近づいていた。