『今日もお洗濯がよく乾く、お散歩が気持ちの良い一日になるでしょう。ヒノキの花粉が厳しい日なので、目薬とマスクをカバンに入れて、今日もいってらっしゃい!』
安い、ノイズが入りやすいテレビでにこやかに笑っているのは、なまえのお気に入りのお天気お姉さんだった。このお天気お姉さん、ヒヨリお姉さんというのだが、なんてったって声と笑顔が超かわゆいのだ。
このお姉さんの「いってらっしゃい」を聞くためだけに、なまえはたいして面白くもないニュース番組を見ている。すぐに耳がデカいおじさんがうつったので、もう用があるわけでなし、リモコンでテレビを消した。
すっからかんの冷蔵庫からモンスターを取り出して、ボケーっと時計を見る。家を出る時間は、あと二時間半後だ。彼は家に帰ったらすぐに飯をたらふく食い、泥のように眠り、朝の目覚めた後すぐにシャワーを浴びるという生活リズムであるため、毎日4時や5時に起きる生活をしていた。
時間割表をジロジロ見て、午後に2コマぶっ続けにある『ヒーロー基礎学』ってものを見てハァやれやれと息をつく。
何をやるのかしら。今年はあのオールマイトがこの基礎学ってやつを担当するとか聞いた。見た感じ暑っ苦しいものな、走り込みとかさせられるのかしら。いやだなあ…
実はなまえ、昨日の体力測定で結構疲れていた。楽しくもないので、疲ればかりが溜っているのだ。ちろりとモンスターを舐める。ピンクのものなので、パッションな甘ったるいフルーツが香った。
可愛がっている金魚に餌をパラパラやり、寝転び、モンスターを舐め、ピアスを弄り、インナーウェアを着て、さて残りあと一時間となった。ハアまったくと洗面台に立つ。
この男、お洒落さんなのだ。お洒落好きさんなのだ。おませなのだ。
今日は運動するからメガネはしない。コイツと言ったら、目が特別悪いわけでもないのにオシャレな伊達メガネを付けたりしちゃうのだ。
艶々とした黒髪。コイツの髪や肌は光に当たると虹色に反射するので、マァそらまったく美しいのだが、この黒髪をこれからもっと芸術的にしてゆくのだ。
ヘアーアイロンに電源を入れる。スマホからお気に入りのラッパーが異形の個性をディスっている。長い前髪を霧吹きで濡らして、古ぼけた音のうるさいドライヤーで後ろに乾かす。今日はオールバックにするらしかった。
このドライヤーったら!古いもんだから乾くのもおせえったらありゃしねえ。お小遣いを貰ったら新しいのを買おうと思った。
前髪が終わったらアイロンが丁度温まる。後ろ髪を適当に挟んで外ハネにして、なまえは後頭部がぺったんこであるためボリュームを出した。これは幼少期、母ちゃんや父ちゃんが彼を寝かせたままほったらかしにしていたからぺったんこなのだ。
横も外ハネにして、うーんと悩んで片方だけ耳に掛けた。耳に大量についたジャラジャラのピアスが良く見えたが、雄英は自由がウリなのでピアスもオッケーだ。ありがたい。
ヨシと思って、お気に入りのヘアースプレーをエイエイと振りかける。幾らお気に入りつっても、まあやっぱり息苦しいんだな。ウーンと息を止めて、まんべんなく振った後にぷはあと息を吐いた。鏡をみて、完璧!と満足気に笑う。笑顔は、くしゃりとした幼くっておぼこい笑顔だった。
残り三十分。…少し早く行こうかな。うん、それがいいや。
もはや腰に引っかかっているだけの、黒い着流しをスルスル脱ぐ。彼は寝るとき、肌触りの大変良い着流しを好んで着た。
いつも着ているスポーツウェア。野球部の小僧が着ている、あのぴっちりした奴だ。蛇は狭いところが好きだし、触覚が鋭いので布が擦れたりするぶかぶかの服は好まない。しかし、制服は成長を見越していくらかサイズが大きいのでどうにもならず、仕方なくインナーで壁を作っているのだ。理由はその他に3つほどあるが、ここでは省略しよう。
その上からブラウスを着て、ネクタイをキュッとしてからぐい〜といい具合にだらけさせて。スラックスに少しごついベルトを合わせて。ジャケットの色合い、本当に気に入らない。ジャケットは着ないことに決めた。…ジャケットって持ってかないと帰らされるんかな。どうなんだろう、着ない物持っていきたくないんだけれど。
朝からいろいろ考えなきゃいけないんだから、学校ってやつはマァ面倒だ。なんだって学校いかなきゃいかなきゃいけないんだろう。