「フォロワー増やしたいなぁ…」
「………」
「フォロワー、増やしたい、なぁ…」
「………」
「フォロワー!!増やしたい!!なぁ!!」
「ぅうるっさいなっ!!聞いてる!!聞いてるよ!!」
「え、ほんとー?湊ガン無視するから、オレ全然聞こえてないんだと思ってー」


スタジオの壁にもたれて休憩していた俺の耳元で思いきり叫んだのは志朗。俺は自分の耳元にかかった志朗の唾をタオルで拭った。

もう!汚い!

ダンスレッスンの直後でお互い汗だくだくで疲れてるはず、なのに、なぜか志朗はスマホ片手にうーん、と難しい顔。

俺が首をかしげると、志朗は肩をすくめてオーバーにため息をつく。


「オレ、なっちゃんにメンバー絡みの投稿しちゃダメって言われてるんだよ。でもそれだとフォロワにしたらつまんないっていうか…要するにそれだとフォロワ増えないんだよね!っていう」
「うん…フォロワって何?」
「フォロワーだよ、フォロワー!ツイッターの!」
「あぁ、ツイッターの」
「そう。でさー、もうすぐハロウィンじゃん?」
「うん」
「なのにさー、うちのメンバーときたら、仮装する!とか、そういう流れって全然ないじゃん!?」
「仮装」
「うん、仮装!なんかこう、布一枚被って穴開けて、おばけー!とか、そういうレベルじゃダメだよ?もっとこう…メイクとかしてさー。本格的なやつ」
「うん」
「そういうのやりたいんだよね?…オレじゃなくてさ。他のメンバーで」


んんん??

え、でも今、「他のメンバー絡みの投稿禁止されてる」みたいなこと言ってなかった?


「え、でも俺たちがなんかやったら、なっちゃんに怒られるよ。志朗がやればいいじゃん。自分のツイッターだし…」
「え!?何まともなこと言ってんの湊!!それじゃつまんないじゃん!!」
「…そうなの?」
「そうだよ!こういうのはさ!メンバーがやるのを側から撮ってるっていうのがオイシイの!ね!?だから……」
「うん」
「お願い湊!!!なんか仮装して!!!」
「うん……うん!?」










と、いう事で。



makkoっていうダンスの先生に、相談してみた。

すると、makkoはオカマなだけあって、メイクならしてあげられるって事で。


メイクは、意外とすぐに完成した。



「ありがとう、makko…って、これ、俺完全に女子だよねmakko…」
「アラァ!いいじゃないの、ハロウィンなんでしょ〜?これを機に新しい自分の扉、開いちゃえばいいじゃないのよ〜!」
「す、すげぇ……湊スッゲェ可愛い…なにこれ怖い……メイクって怖い…」
「まだよ!ウィッグもつけて、ちゃんと女のコにならないと!ちょっと待ってなさいよ!衣装やってるアタシの友達、呼んできてあげるわ!…アロー、もしもし!?アタシよ!!やーーもーー久しぶり〜元気〜〜!?」



メイキャップルームに連れて行かれた俺は、あっという間に女子に早変わり。makkoはスマホ片手に衣装の知り合いと話をしてる。

案外見た目も悪くなかったりする。ていうか自分で言うのもなんだけど、俺、可愛い!!


ただ……これに何を着るかってことだよね。


「志朗。メイクだけじゃダメなの?」
「ダメだよ!!ちゃんと服もこだわらないと!!でも…女の子のメイクでしょ?これ…うーん」
「ここまで可愛くメイクしといて、今更魔女とかはちょっとやだな…」
「よしっ!!女子高生の格好してみよっか!!」
「女子高生!?makkoにメイクしてもらって、女子高生!?それって結構普通じゃない!?」
「大丈夫!顔が意外と高いクオリティだから、あとはちゃんとしたウィッグとかつければそれなりに」
「意外と!?意外とってなに!?」
「makko!!ウィッグも任せていいの?」
「いいわよ〜。なんなら女子高生なんてありきたりなテーマはやめて…そうねぇ、プリンセスなんてどう?」
「プリンセス!!いいね!!」
「プリンセス!?プリンセス!?」



混沌がさらなる混沌を呼ぶ!!

どうなるの、俺!?









「完成したわ…」
「ヤバイね…衣装さん呼んでウィッグやドレスまで用意してもらって…ここまでしてくれてありがとう、makko…」
「いいのよシロ…アタシはただ、湊の新しい扉を開いてあげただけ…湊…感想は…?」
「スゴイね…ヤバイよこれ…誰かわかんない……」



鏡の前。

カツン、と鳴ったのは、俺が履いてるヒール。足元がふらつきそうになるのを、必死に堪える。女の人って、こんなに踵高い靴で歩いてるんだ…。

わさわさと音がするのは、俺が着ているドレス。なんていうかこれ…見たことある。シンデレラ…そう!!見たことある!!



「俺これ見たことある!!シンデレラ!!シンデレラだよね!?」
「oui〜〜!!そうよ!!アンタは今シンデレラよ、湊!!」
「これツイッターにあげていいよね!?あげてもいいクオリティだよね!?ねぇmakko!!」
「bien sur!勿論よ!!いいわぁ湊…アンタそっちの才能あるかもしれないわ…」
「そ、そうかな…う、うふふ……」
「よし!!湊!!はい、こっち見てこっち見て〜!!写真撮るよ〜!!」







結果。


シンデレラみたいな綺麗なドレスを着て、ウィッグもして、ばっちりメイクもした俺の写真をGETした志朗は、ご満悦でツイッターに写真をアップロード。


「ビビディバビディブー!ってコメント付けたよ」
「そう…よかったわね…」
「え、何その口調」
「だって俺今シンデレラだから」


最初はどうなることかと思ったけど、結果オーライっていうか、意外と楽しかったから、まぁよし。

で、志朗。


フォロワーは増えた?



「うん!!バッチリ!!サンキュー湊!!愛してる!!」
「うふふ。よくってよ」
「ありがとうございます!!」




ツイッターフォロワー日本一も大変だ。







「んで?あんたは湊にコスプレさせて写真アップロードしてフォロワー増えてホクホクってこと?」
「ホントすんませんでしたなっちゃんすんませんでした」


リツイート?とかいうのをされまくって、俺の画像は世の中に出回りまくったらしい。


結局、ツイッターを見たなっちゃんが激怒。社長の榊さんは「そこらのホステスより綺麗だぞ」って言ってくれたけど!


以後、あまりに美し過ぎるコスプレは禁止となりましたとさ。



めでたし、めでたし…??






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