「ただいまー…ってなんか暗くない?電気ついてない」
「たっだいまー……あれ?ホントだ。電気ついてない」
おかしいな。
今日ってオレと湊が一番遅くまで外出てるスケジュールだったから、瑞樹くんや亮介くんは、多分うちに帰ってるはずなんだけど。
家の中、真っ暗。
どうしちゃったんだろう?みんな。
とりあえず、電気だけでもつけよう。
「湊、電気つけて」
「……あれ?電気つかなくなってる」
「え?うそ、マジ?」
玄関の壁についてるスイッチを押してみても、何の反応もない。真っ暗。しかも寒い。壁、コンクリで作ってあるからかなぁ。なんか……怖い。
「え、なんで電気つかないの?なんで?」
「壊れたのかなぁ。…ダメだ、やっぱつかない。…とりあえずリビングまでいこ。誰かいるんじゃない?」
「こんな真っ暗なのに?…誰かいるかなぁ。みずきくーーん!いるーー?」
リビングに向かって、玄関から声をかけてみる。
……返事はない。
やっぱり家の中には誰もいないみたいだ。
うぅ。なんかやな感じ。この間プレイしたバイオハザード、こんな感じだった気がする。電気つかなくてさー!懐中電灯もなくてさー!怖すぎ!
てか、ホント、なんで電気つかないんだろう?
とりあえず…スマホくんを懐中電灯の代わりに使おっか。
「お、電気」
「スマホだよ、スマホ!懐中電灯のアプリ入れておいてよかった!」
湊と二人で、リビングに向かう。
足元を照らすのはスマホの光。懐中電灯のアプリ初めて使ったけど、意外と明るいんだ。すごい。
って、感心してたら。
ソファの隣の床に、なんか……え、あれ、脚!?
ちょ、何あれ!?誰か倒れてる!?
「え!?誰!?何!?」
「陣……?陣!?」
ソファの隣、床に倒れてたのは。
上半身血塗れになった、陣だった。
何が起こってるのか理解できないオレはスマホを床に落としてしまった。
スマホが床に叩きつけられた拍子に、光が陣の顔を照らす。顔まで血塗れだった。
固まるオレをよそに陣に駆け寄ったのは、湊だった。
湊は陣を抱き起こすと、目を閉じている陣に必死に呼びかける。
「陣!?陣!!ねぇ!!ちょ、なにこの血…!!ヤバイよこれ…!!どうしよう……シロ!?」
「え、あ、えっ、えっと…!!きゅ、救急車!救急車呼ぶ!?」
「う……うぅ……」
「陣!!気付いた!?大丈夫!?…陣!!陣!?」
湊の腕の中で、陣くんが呻き声をあげる。何かを訴えている。
オレの方を指差す。
陣くんの指先は、オレを指している…と思ったけど。
オレより先に視線でその指先を辿った湊が、ヒッ、と小さく息を飲んだ。
何?
オレの後ろ?
オレの後ろに、何かいるの?
そう思い、スマホを拾いがてら後ろを振り向くと。
「ウ……ぅ…………」
亮介くんくらいの背丈のある、ぐちゃぐちゃの顔をした化け物が、オレの背後に立っていた。
「うおあああああ!?」
慌てふためいたオレは、その場で阿波踊りみたいに両腕を動かして、仰け反って。
恐怖のあまり大声で叫んでしまった。
「何これ何これ何これなになに何!!!!!!」
湊は声が出ないのか、陣を抱きかかえたまま固まっていて。
オレは腰から力が抜けちゃって、立っていられなくなっちゃった。床にへたり込む。
血塗れの陣くんがこっちを見て笑ってる。
え?
……笑ってる?
ーーーカチ、
「はい、ここまでね。お疲れ様」
すると、突然、リビングの明かりがついて。パッと部屋が明るくなった。
何事かと呆然とするオレと湊を見て、階段の上から笑っているのは瑞樹くん。オレを見てひらひらと手を振る。
「なかなかのリアクションだったよ、志朗。面白かった」
「もう少しビビらせたかった」
「もういいだろ亮介、これ以上やったら志朗がチビるぞ。ていうかなんだあのリアクション!すげぇな!咄嗟に出た動きにしちゃ笑える!」
まだ呆然とするオレを見て、血塗れの陣くんが手を叩いて爆笑してる。すくっと立ち上がって笑っているところを見ると、これは。これは!!
ていうか、この化け物!?てかゾンビ!?よーーく見るとさ。よーーーく見るとさ!!
「ちょっとおおおおおお!!!亮介くんじゃんもおおおおおお!!!!」
「なんだ、今頃気付いたのか?」
「すげぇだろ、特殊メイクまでしたんだぜ。お前らのために」
「俺たちのために?」
陣に何事もなかったとわかるや否や力が抜けたのか、湊は床にへたり込んで、ゾンビみたいなぐちゃぐちゃの顔のメイクをした亮介くんを見上げる。
オレもへたり込んじゃって立てない。
ていうか、特殊メイクがオレたちのためって、何?
「お前ら、この間亮介の買ったバイオハザード。勝手に封切っただろ?」
「え?……そうだったっけ?あぁ!うん……切りましたねぇ」
「切りましたねぇじゃねぇよ。亮介はな、それを恨みに思ってな」
「陣、その言い方すると亮介が小さく思えるからやめて。要するにね、志朗。人の物を勝手封切るのはよくないよっていうこと」
「そういうことだ」
特殊メイクをしたゾンビが部屋の中を歩いて、ダイニングテーブルの椅子を引いて、重いため息をつく。シュールなその絵面に、思わず笑ってしまう。
「バイオハザード楽しみにしてたんだね亮介……ごめんね」
「ごめん、亮介くん。オレ、あれやって見たけど…すげぇ怖かったよ」
「当たり前だ。…やるなら俺に一声かけろ。一緒にやってやるから」
「うん、分かった…ありがとう」
「ごめんね亮介くん」
ゾンビと和解する湊とオレ。
血塗れ…もとい、血糊で顔中ベトベトになった陣くんが笑う。怖い。怖いよ陣くん。
「さ、顔洗って二人共。あとその血糊で汚れた服脱いで。それ処分ね」
「やっぱもう着れねぇか。しゃーねーな。でもま、楽しかったからな!シロのあの慌てよう!」
「ビデオに撮っておくべきだったな。惜しかった」
ニシシ、と笑いながら服を脱ぐ陣くん。っと、ちょっと待って!!!ちょっと待って!!!
「待って!!」
「なんだよ?大声出して」
オレは慌てて血塗れ陣くんと亮介くんゾンビを捕まえた。
「これ、ツイッターに載せなきゃでしょ!!!」
「あぁ、またか……」
「おう、いいぞ!俺と亮介の特殊メイクなんて、滅多に見れないしな」
「ちゃんとハロウィン満喫できてよかったね、志朗。貸して、写真撮ってあげる」
「もーうっさいなぁ瑞樹くん!オレほんと怖かったんだからね!?」
「湊も入って。…何、どうしたの湊」
「陣に何かあったんじゃなくてよかったと思ったら…動けなくなっちゃった……」
「脱力してんじゃねぇよお前は……」
「じゃあその脱力湊はソロで後から写真載せます!てことで、オレと陣くんと亮介くんで一枚お願いします!」
「いいよ。はい、いくよー」
この夜の出来事は本当にちびりそうになりました。
床照らしたら血塗れで陣くん倒れてるし。振り向いたら亮介くんゾンビだもん。
それにしても、まさかあのバイオハザードのしっぺ返しが、こんなカタチでやってくるとは。夢にも思ってませんでした。
『人の物は!勝手に!封を切らない!ハッピーハロウィン!』
特殊メイクのゾンビ亮介くんと、血塗れ陣くんと、半べそのオレでスリーショット。コメントは上の通り。
学びの多いハロウィンになりました。
お・わ・り!!!
アァーーッ!!!怖かった!!!!!
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