《昨日、山ノ井組六代目組長山ノ井拓馬氏に代わりまして山ノ井組七代目組長を襲名した斎木征爾氏が、東京刑務所から仮釈放されました。斎木氏は、六代目組長刺殺の嫌疑もかけられており、今回の仮釈放でー…》

「ねぇー。他にニュースないの?ニュース」

《次はエンタメニュースです。今最もホットな男性アイドルグループといえば、BUCKS!先週リリースしたシングルも、ミリオン達成で、勢いに乗っています!》

「やけに持ち上げるね」

「気持ち悪いくらいだな」

《昨日発売された4大ドームツアーのライブチケットも即完売!プラチナチケットになってしまったようです!》

「ワォ、マジ?」

「やった!ソールドアウト!」

《飛ぶ鳥を落とす勢いのBUCKS!今後が楽しみですね!では、次のニュースです!》

「………」

だが、そのニュースが終わると、俺たち5人の間に沈黙が流れる。

それもそうだろ。

その天下のBUCKS様は。

今現在、冬の北国、夜景が綺麗な小高い丘の上。ロケバスで5人雁首そろえて、冷たいロケ弁食ってんだから。

「…現実は世知辛いね…」

人気絶頂のアイドルグループBUCKSは、ただいま北国からのメドレーライブ生中継に向けて全力待機中。

ため息をつく瑞樹の隣で、全身をガタガタと震わせているのは志朗。

こいつは寒がりだからな。寒冷地のロケバス長時間待機なんて、耐えられるわけがねぇ。

そもそも夜だぞ、夜。

気温マイナス何度だよ!!

「寒い!寒いよなっちゃん!お願い!車の暖房もうちょっと強くして!」

「はぁ!?そんな寒がりあんたくらいよ志朗!他の4人を見習いなさい!黙ってロケ弁食べて…これが新人タレントとしては普通なのよ!」

「寒い」

「風邪引いちゃうよ…!」

「ドームツアーめんどくせぇよぉ…」

「なつさん、本当、ちょっと寒いんですけど」

「それより今ドームツアーめんどくさいって言ったやつ誰」

マネージャーである夏が、ジロリと後部座席を振り返る。

静まり返る後部座席の俺たち5人は、顔を俯かせながら、黙々とロケ弁当を食べている…フリをしている。

その様子を見て呆れかえる俺たちのマネージャー、安藤夏は、1番近い席に座っている俺の頭を、勢い無言で叩いた。

突然頭を叩かれて、口にごはん粒をつけながら夏に声を荒げる。

「イッテーな!!何すんだよナツ!!」

「何すんだよじゃないわよ!あんたでしょ!?さっきドームツアーめんどくさいって言ったの!!」

バ、バレてる!!

「お、俺じゃね」

「陣だよ」

「陣だ」

「陣くんでーす」

「陣です」

他の4人が口を揃えて俺の名前を口にした。

(お前らっ…!!薄情過ぎだろ!!)

完全に売られた。

この状況では、申し開きもできない。
俺は一瞬グッと押し黙ると、直ぐ様誤魔化すように笑った。

「ア、アハハハハ…ッテェ!!」

もう一撃、夏の平手が俺の頭を叩く。

ちょ、マジでいてぇんだけど。


「さ、そろそろスタンバイよ。歯に海苔がついてないか、せいぜい確認しておきなさい!!」

「はーい!志朗ー、俺の歯に海苔ついてるか見てー!はい、イーー」

「うん、付いてるね!」

「うっそマジ!?どこ!?」

「よりによって前歯!」

「ぷっ!!サイアク!!」

湊と志朗がいつも通りふざけ合っている中、俺と亮介と瑞樹は、段取りを確認し合う。

「曲はメドレーだったよな?曲順大丈夫か?」

「さっきのリハと変わりはないから問題ない。ただちょっと、もう少し本番は」

「愛想良く、だろ?瑞樹」

「…そうだね。笑顔で、ね」

肩を竦めて笑った俺に、瑞樹がニヤリと笑った。

おーおー、悪い顔してやがる。
こいつがクールビューティだなんて言ってる女どもに見せてやりたいぜ。

「BUCKSの皆さんそろそろスタンバイです!お願いしますー!」

車の外から、ADの声がした。

「さ、仕事よ!いくわよ、あんたたち!」

ロケバスの助手席を降りた夏が、後部座席のドアを開ける。

車から次々に降りると、衣装の上に着ていたダウンジャケットを脱いで、照明に照らされた特設ステージへと向かう。

「さむ!アーッ!寒い!こんな寒いのにノースリーブの衣装とか信じられない!」

「アイドルの宿命!?寒いーーっ!!!!」

「心頭滅却すればダメだ逆だ!寒いよ亮介!」

「心頭滅却すれば余計涼しくなるだけだからな」

「さみぃーーっ!!!マジさみぃーーっ!!!」

ギャーギャーと喚きながら、5人でステージに立つ。

それでも、それぞれその手にマイクを持つと。

顔つきはすっかりアイドルグループ「BUCKS」のそれ。

俺たちはお互いの顔を見合わすと、正面のカメラを向いた。

その顔に、自信に満ちた笑みを浮かべて。

「スタジオから中継入りまーす!5!4!3!……」

どんな状況だろうが、どんな状態だろうが。

これだけは忘れちゃいけねぇ。


俺たちは。


プロフェッショナルのアイドル!!


《こんばんはー!!BUCKSでーーすっ!!!》


やるときゃやるんだってこと!!


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