昔の漫画でさぁ。
「君は日本一の高校生になりなさい」って諭されるやつ、あったじゃん。
なんだったっけ?
えーと、そう、それそれ。
それと同じことをさぁ、どうやらオレも目指さなきゃいけなくなっちゃったっぽいんだよね?うん。
「志朗、あんた……わたしになんか言うことあるんじゃないの……?」
「ヒッ……!」
たった今、マネージャーのなっちゃんに、オレは締め上げられてる。
何故って?
「BUCKSの神名志朗が事務所に黙って勝手にTwitter開設してるってタレコミきてるけど……それホント……?」
「ふぉ……!!」
あ、ヤベ。変な声出た。
狭いロケバスの中でオレにジリジリと迫ってくるなっちゃん。そしてオレの隣の席に座って寝てる湊。昨日はアルバムのレコーディングでずっと歌い詰めだったもんね…そりゃ疲れて寝るよね……っていや何寝てんの!?ちょっと!!オレ今マジでヤバイんですけど!!湊!!ヤバイよマジ起きて!!助けて!!!
「で、どうなの…?開設してるの…?」
「か、開設は、いや、あの、」
「してるの……?」
なっちゃんの問いかけに、オレはiphoneを握りしめた。
ふと画面を見ると、そこには、見慣れたTwitterの画面。
オレはとっさにフリック入力する。
『あんどーなつに ころされる』
オレの指が動いたのが見えたのだろう、なっちゃんは強引にオレの手からiphoneを奪う。
突然のことに抵抗もできず、手からiphoneがすり抜けていった。
あぁっ!!!返して!!!オレのヒミツがーーっ!!!
「あん、どーなつ………」
「……えへ」
怒りにプルプルと震えている、安藤夏さん。
オレが禁句中の禁句を唱えたことで、ついにその怒りは頂点に達したようだ。
なっちゃんはオレの胸ぐらを掴むと、前後に激しく揺すった。
「あんたね!!!いい加減にしなさいよ志朗!!!事務所に黙ってこーいうことすんなって、何回言わせるの!!!」
「ヒィッ!!!スンマセン!!!スンマセン!!!」
「スンマセンですむかこのクソガキ!!!誰があんドーナツだ!!!言ってみ!?誰があんドーナツか言ってみ!?」
「プッ」
そのタイミングで、隣で寝ている湊が吹いた。
ちょ、ちょっとぉ!!!狸寝入りしてたのこの人っ!!!???
「あんたら………!!」
湊が吹き出したのがいけなかった。
ワナワナと拳を震わせるなっちゃん。
オレは湊の頬を叩いて、慌てて頭を下げた。
「寝たフリするなんて卑怯だぞ湊!!一緒に謝ってよ!!ご、ごめんなさいなっちゃん!!スンマセンでした!!!」
「なんで俺まで謝らないといけないんだよ!志朗がいけないんじゃん!……ふふっ」
「思い出し笑いしてんじゃないわよ!!!」
安藤女史の力強いコブシが頭に直撃する。
オレだけでなく、隣で湊も頭を押さえて恐怖に震える。怖い。なっちゃん怒らせるとマジでヤバイ。
「Twitterはもう神名志朗がやってるってほぼバレてんのよね?」
「ハイ…バレてます…」
「じゃあ、そのTwitterとかいうので、あんた天下取りなさい。そしたら許してあげるわ」
「て、天下って……」
ため息まじりに乱れた髪を治すなっちゃんにそう言われ、オレは戸惑いながらも頷くしかなかった。
とりあえず、手っ取り早くTwitterで何か日本一になれば、なっちゃんも事務所も許してくれる…ってこと?
よし、じゃあ……。
「湊。こっち向いて」
ーーパシャ、
iphoneのカメラで、半べそをかいている湊の写真を撮った。
それをすぐさまTwitterにUPする。
仲間の写真使いまくって、フォロワー数稼げばなんとかなるっしょ!!
え?ゲスい?
やだなぁ、芸能人なんてみんなこんなもんだよ!!草不可避?うん、オレも!!!
『ドーナツ爆発 巻き添え一名 かみなみなとくん』
この後、このツイートを知ったなっちゃんに、オレはiphoneを取り上げられ、ロケバスの床に叩きつけられて画面をブチ割られるんだけど、それはまた今後話すね。
ちなみにオレはこののち、フォロワー数日本一を記録して、芸能人公式アカウント第一号になることができましたとさ。
めでたしめでたし!!!
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