「ここだ。着いたぞ」
榊に促され、5人は足を止めた。
閑静な住宅地の一角に、その一軒家はあった。
コンクリートの高い外壁が、外からの視線を完全にシャットアウトしている。
その外観を見て陣は思わず声を漏らした。
「何だこの家……」
コンクリートの壁に囲われた白い立方体が、そこにあった。
榊が鍵を開けると、胸の下ほどまである格子の門が無機質な音を立てて開いた。
「来なさい」
オートロックのそれを少し押して、榊は5人を玄関の前へと手招く。
玄関からリビングへと案内されると、とても隔離場所とは思えないその広さに、まず驚かされる。
立方体の真ん中はリビングで、吹き抜けになっていた。
天井の中央には、正方形の天窓がひとつ。柔らかな日の光が降り注ぐ。
リビングの中央には段差があり、その段差の下のフロアには、布張りの大きなソファセット。
そしてその奥の壁には、大きなテレビが掛けてある。
二階の廊下がグルッと半分程、リビングの上を取り囲み、二階には5つ扉が見える。
それぞれに割り当てられた部屋なのだろうか。
リビングの右手奥には、カウンターキッチンとダイニングテーブルのセット。
左手奥には、まだ部屋があるようだ。扉の向こうに廊下が続くのがうかがえる。
全く予想もしていなかった綺麗な一軒家に、5人は所在なくリビングの入り口に棒立ちになる。
「キューブ、とでも呼ぶか。隔離場所にしては中々洒落てるだろう?」
「榊さん…これは…」
「とても隔離場所とは言えないぞ……」
あまりの快適さに、瑞樹と亮介が戸惑いながら周囲を見回す。
「左の奥の扉には、バスルームとトイレがある。後で見るといい」
「これじゃまるで…」
「特別扱いしているみたいか?」
陣の独り言に、榊が肩を竦める。
無理もない。
隔離処分と聞いて、どんなところに連れて行かれるかと思いきや。
学園から歩いて15分もしない場所にある、真新しい一軒家に連れてこられたのだから。
特別扱いをこれほどまでに感じた事などない。
だが、榊は頷く。
「そうだ。特別扱いしているんだよ。お前たちを」
「………」
少しだけその顔に笑みを浮かべる榊に、瑞樹は警戒も顕わに眉間に皺を寄せる。
『特別扱い』
その先にある意味を推し量って。
「これだけの施設を僕たちに宛がうってことは…これは僕たちへの投資ってことですか?」
瑞樹の言葉に、榊はおかしそうに鼻を鳴らした。
「ま…そうでもあり、他の凡庸たちからの保護でもあり…他の商品を腐らせないための措置でもあるな……」
ダイニングテーブルに手をつくと、榊はぐるっと辺りを見回した。
そうして、5人を手招く。
居心地悪そうに、不安げに表情を曇らせる湊の肩に、榊はぽん、と手を置く。
そして、ぐっと掴んで。その顔を覗きこんだ。
まるで安心しろと言うように。
「お前たちが騒ぎを起こしたのは予想外だったが…こうしてここで共同生活をさせることは、既定路線だった」
「決まってたことだったの…?」
「話題性と…そうだなぁ、BUCKSとしてのお前たちの繋がりをより深いものにするため、かな」
5人で騒動を起こして。
隔離処分と言われ。
連れてこられた先がこの立方体の家、キューブだ。
これで「既定路線だった」と言われ、不気味に思わないほうがおかしい。
瑞樹と陣、そして亮介は、それぞれに視線を交わした。
榊真哉という人物は、得体が知れない。
「とにかくだ。今日からここで暮らしなさい。これは学園の経営者である私からの命令と思ってくれていい」
「こ、ここで5人で…今日から!?」
「あー、まぁ、必要なものは大体整えたつもりだが、まだ足りないものがあったら、それはまた夏に言うといい。いいね」
「マジかよ…」
リビングのソファに腰を下ろすと、陣は辺りを見回した。
手持ち無沙汰に立っていた志朗も、陣がソファに座ったのを見て気を許したのか、二階への階段の手すりに手をかけ、その先を覗き込むように首を伸ばす。
「ねぇねぇ!部屋ってさ!もしかして、一人一部屋!?」
「え!マジ!?やった!!!」
志朗につられるように、湊も階段を上がっていく。
寮では相部屋が基本だったことから、一人部屋となると、それは否応なくテンションもあがるというもの。
志朗と湊の様子を見届けると、榊がその顔に笑みを浮かべながら、玄関へと踵を返す。
「真哉さん。送ります」
キッチンやダイニングを見学している瑞樹と亮介に声をかけて、陣は榊の後を追った。
「真哉さん」
「んー?」
「なんで俺たちにここまでしてくれるんスか」
直球で突っ込んできた陣に構うことなく、榊は胸元のポケットから煙草を取り出し、それを口に咥える。
そうして、玄関の前に立つ陣たち3人に向かって、にやりと笑った。
「言っただろ?…ただの投資さ」
「一軒家建ててまで?」
「空き家をちょっと改築しただけだ。お前たちが思ってるほど、カネはかかってない。…あぁ、そういえば」
「なんスか」
「お前たちがキズモノにした生徒。相手が悪かったな。一応カネを積んでウチの学園に入ってきた類の人間でな。親がお前たちに処分を下せと喧しい」
「………」
「停学3日間。これも追加だ。…戻ったら湊と志朗に伝えておけ、体に痣をつける様な素人めいたことは二度としてくれるなと」
「商品だから、ですか?」
「そうだ。お前たちもマイクを持つ手が腫れ上がるようなことは今後二度とするなよ。…いいな」
「…わかりました」
「スンマセンでした…」
3人で頭を下げる。
それを横目に、榊は咥えていたタバコを指に持ち替え、携帯電話を取り出した。
そうして、「中へ戻れ」と合図を送るように、3人に手を振った。
電話の相手は夏だろう。
志朗と湊のインタビューを延期してもらうよう先方に頭を下げろと、電話で指示を出す榊を見送りながら、3人はキューブの中へ戻った。
リビングへ戻ると、3人はほぼ同時にため息をついた。
暴力沙汰から、学園を追い出されると思いきや。
とんだ展開になってしまった。
「これからどうなんだよ…」
「さぁ…。とりあえず、首の皮一枚どころか、まだ百枚はありそうだね。僕ら」
「これだけ厚遇されてると気持ち悪いな……何か裏がありそうで」
「まぁな……」
「ねぇー!すごいよー!3人も二階おいでよーっ!」
「部屋割り決めよーぜーっ!」
二階の廊下の手すりから身体を乗り出したのは、満面の笑みの志朗と湊。
事の発端を作った張本人にもかかわらず、このテンション。
「…ま…とりあえずは…」
「こうなった以上、もうしばらくは榊さんの船に乗るしかないね……」
「もし奴隷船だったらどうする?」
「そんときゃそん時だ。3人揃えばなんとやらだろ。待て!一番奥の部屋は俺の部屋にすっからな!!湊!!」
はしゃぐ湊と志朗の後を追って、3人も二階へ上がる。
四角い箱の中に部屋決めをする5人のじゃんけんの掛け声が響き渡ったのは、このすぐ後のことだ。
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