僕らが榊さんにスカウトされ誠真学園へ入学して、一年が経った。
僕らは高校二年生になった。
たまに施設の志朗と湊から手紙が届く。
さみしい、と決して綺麗な字ではないけれど、大きく書いてあるのを見ると、早く二人に会いたいと思う。


二人の入学は僕らの働き次第だと榊さんがいうから、陣と亮介と僕の3人は、モデルだのバックダンサーだの、コツコツと業界に顔を売っている。


ベネチアンマスクをしながら大物歌手の後ろでダンスした時は、あのマスクマン3人は何者だ、なんて、話題になったりもした。本当に馬鹿げてると思う。


全ては五人でデビューする為の話題作り。
世の中は仕掛けで溢れてる。
僕らは売られる為の下準備を、自分たちで繰り返している。

学園で過ごす普通の学生としての時間は、もしかしなくても、尊いものなのかもしれない。







「…夜のプールなんて初めて来た」

プールサイドに腰を下ろすと、さっきから熱心に泳いでいた亮介が、一休みするのか、ゆっくりと近づいてきた。

「最近働き過ぎだと思ったから、少しは気分転換になるかと思ったんだ」
「水泳部の助っ人なんて、よくそんな余裕あったね?泳ぎに自信があるの?」
「ないさ。あいつら、体がでかければスポーツ万能とでも思ってるんだろ」
「でも、実際に万能でしょ?」
「まぁな」


ニヤリと笑った亮介に、僕は目を伏せて笑った。


「お前も来いよ」


突然、亮介がプールサイドの縁を掴んでいた僕の手を掴むと、ぐい、と引っ張るようなそぶりをした。
慌てて手を引き、驚きつつ亮介の顔を見つめる。

「このままは無理だよ」
「脱げばいい」
「ここで?水着もないのに?」
「ならいっそそのまま泳いでみればいい」

Tシャツにハーフパンツ。
濡れても寮はすぐ隣。
どうとでもなる。

そう考えを巡らせているのを、察したのだろうか。
亮介が、もう一度僕の手を引っ張った。

「わっ…!!」

ーーバシャンッ、


招かれるまま、僕の身体はプールの中へと落ちていった。

髪を後ろに流して、目を開くと。
目の前で亮介が笑っていた。


「考えるだけ無駄だ」
「だからって引きずり込むことないでしょ」
「濡れたってどうにかなるって、お前も思ったんだろ?」
「………」


以心伝心。
憎らしいと思う。


開き直った僕は、水面に背中を浮かべた。
プールを照らす夜の月の光。
揺れる感覚。沈む感覚。
…心地よい秘密の時間。



「……瑞樹」

亮介が僕の名前を呼ぶ。

僕はプールのレーンの中央で立ち上がると、亮介に向かって返事をする。
すると、亮介が、ゆっくりと僕の方へ向かって泳いでくる。

やがて目の前に、亮介の身体が迫った。

揺れる水面。
ゆらゆら、ゆらゆらと。
僕が揺れる。
揺蕩うように。



「………」

亮介と、プールの真ん中で向かい合う。

その時だった。




……迂闊だった。




「瑞樹…なんだ、お前…首に、痣が……」
「え……?」


それは昨夜の情事の名残。


ハッとして、咄嗟に首筋を手で押さえる。

けれど、その手を亮介の力強い腕が遮った。

そして、じっと。


亮介の視線が僕の首筋に注がれる。



「……鬱血してる」
「ッ……!!」


亮介の低い声が、僕の鼓膜を震わせる。

僕は亮介の手を強引に振りほどくと、逃げ出すように亮介に背を向けて。
そうして、プールの淵を目指した。

背後から亮介が僕に声をかける。

けれど、僕は振り返ることなく、そのままプールから上がった。


「……ごめん、先に出る」


たった一言だけ残すと、僕は亮介の前から足早に逃げ出した。



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