何のために始めたことなのか。
誰のために始めたことなのか。
自分ではしっかりわかっているつもりでも、時折、ふと忘れそうになる。
自分がただ汚い人間になってしまっただけのような気もする。
いつか、僕らが日の目を浴びる時がきたら。
その時僕は、このくたびれた身体でもって、仲間と共に喜びを分かち合えるのだろうか。
向かい合えるのだろうか。
「お前、昨日の夜どこにいた」
ダンスレッスンの帰り際だった。
陣に呼び止められ、そう問い詰められ。
僕は嘘をつけずに、ただ陣の言葉を真正面から受け止めていた。それも呆然と。
(昨日の、夜、は……)
寮を抜け出して例の先生と繁華街を歩いた。
そのあと、車でいつものホテルへ連れて行かれて……。
「瑞樹……?」
亮介が心配そうに僕の名前を呼ぶ。
その声すら、僕にはひどく煩わしく思えた。
陣になんて返そうか、そのことばかりで頭がいっぱいだったから。
こんなことになったら何て言うか、なんて、何度もシュミレートしたはずなのに。
「…僕は部屋にいたよ。見間違いじゃない?」
逃げ口上にしてはレベルが低すぎる。
自分でもわかっている。あまりに見え透いていることくらい。
その横顔にまだ汗の滴らせる陣が、真っ直ぐに僕を見つめる。僕はその視線に耐え抜くその間にも、自分は部屋にいた、部屋にいたのだと、必死に言い聞かせる。
なんて馬鹿げてるんだろう。
「いや、お前だった。見間違えるわけねぇ」
「だから。僕じゃないって言ってるでしょ。僕は部屋にいて、陣が街をうろつく時間にはもう寝てるよ」
「お前が夜に出歩くなんてなー。優等生とか思ってた分マジで意外だわー」
「陣やめろ。ちょっと待て、瑞樹の話も聞いてやれ」
明らかに僕を挑発せんとしている陣に、その間に割って入ろうとする亮介。僕は陣の目をじっと見つめ返した。いや、見つめるというより、睨む、という感覚に近い。
「陣こそ、亮介の迷惑も考えないで、毎晩遊び歩いてるじゃない。そんな人間が他の人間を問い詰めるだなんて、おかしいと思わないの?」
「なんで俺の話が出てくんだよ。今関係ねぇだろうが」
「関係なくないよ。寮を抜け出して飲酒に煙草…せっかくの特待が吹き飛ぶレベルのことをしてるのは誰?僕?亮介?違うよね?」
「………」
「湊や志朗を来年この学園に呼ぶんじゃなかったの?5人でデビューするんでしょ?ていうかこんなんで本当に日本一のアイドルとやらになれると思ってる?」
……なれるわけがないよね。
陣は煩しげに小さく舌を打つなり、「そんなムキになんなよ」と一言吐き捨てると、僕を嘲笑した。
「お前…まさか売りでもやってんのかよ?」
核心をついた一言に、言葉に詰まった。
僕は目を丸くして、唖然として、陣を見つめるので精一杯だった。
「……、……」
言葉が、出てこない。
視界の端で亮介が陣の胸ぐらを掴んだのが見えた。
気がつくと僕は、そのままスタジオを飛び出して、自分の部屋へと駆け出していた。
敗走。
これほどまでに今の僕に似合う言葉はなかった。
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