「里帰り?」
僕が陣と言い争ってから少し経った、或る日のことだった。
寮にマネージャーの夏さんが現れて、僕、陣、亮介の3人を寮の食堂に集めた。
そこで突然言い渡されたのは、「里帰り」の提案。僕は首を傾げた。
ついで陣と亮介の顔をチラッと見てみると、2人もその提案が意外だったのか、目を丸くしている。
それもそうだ。
盆でも正月でもないのに、突然里帰りを命じられれば、誰だって不審に思う。
けれど、夏さんはそんな僕らにお構いなしで、いつものように話をどんどん進めていく。
「あんたたち、ウチの学園に来てから一度も施設に帰ってないでしょ?社長がそれを心配して、今度の週末を完全オフにしたの」
「榊さんが心配してた?」
「そうよ。たまにはリフレッシュしないとってね」
「リフレッシュねぇ…」
肩をすくめて笑った夏さんに、陣がため息でもって返す。
リフレッシュが必要だと上に判断されたことに対して、陣なりに何か思うところがあるのだろう。
僕と亮介を交互に見ると、陣は何か言いたげな表情をしたあとで、席を立った。
それを見た亮介も、無言で陣の後に続く。
テーブルを離れた2人の背中に、夏さんが声をかける。
「今度の週末は施設で宿泊よ。先方にはこちらからもう連絡入れてるから。わかったわね!勝手に予定いれるんじゃないわよ!」
「おー」
「………」
食堂から姿を消した陣と亮介を見送ると、今度は夏さんがため息をついた。そして、何かを案じるような表情で僕の目を見つめると、首を横に振る。
「最近ギスギスしてるって講師陣から報告が上がってるわよ、あんたたち。何があったの?」
「ギスギスって……」
夏さんの言葉に、言葉尻を濁す。
まさか、言えるわけがない。
『売りでもやってんのかよ』
深夜の無断外出がバレて、それがキッカケで陣と揉めただなんて。
それにあれ以来、亮介も僕に対して距離を置いているように感じていて。
(…いや、実際2人と距離を置いてるのは、僕の方か)
仕事の為に脚本家や演出家、プロデューサーと寝ているだなんて、夏さんが知ったら…社長の榊さんが知ったら。
どうなるんだろう。
ちゃんと僕だけの問題で済むだろうか。
僕を除く4人が成功してくれるなら、僕はそれでいいと、最近はそう思い始めている。
誰かが泥水を啜らなければならないのなら、僕だけが啜ればいい。
地べたを這いずりまわるのは、僕だけでいい。
「……失礼します」
目の前の夏さんに真実を伝えることもなく、僕も席を立った。
そして、週末。
夏さんの運転する車に乗って、僕らは、初めての里帰りをする。
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