里帰りをした日の夜のこと。

施設から少し歩いた所にある公園で、里帰りの思い出にと、僕ら5人は打ち上げ花火をして遊ぶことにした。

道すがらのコンビニに立ち寄るなり、花火以外に、やれジュースだアイスクリームだと買い物カゴに突っ込む湊と志朗を、亮介が制したけれど。
それでも結局、陣が甘やかして、最後には5人分アイスクリームを買う羽目になって。


コンビニに寄るだけでも大騒ぎだ。


普段なら、こんなに賑やかに買い物することもないから、少し新鮮だとは思ったけど。


それにしても、陣は年下2人に、甘い。







「花火だけのつもりがエラい買い物になっちまった……」
「陣の財布の紐が1番緩いってこと、あいつら一瞬で嗅ぎ分けたな」
「僕と亮介にはたからず、陣にだけたかるっていうのがまた…誰がザルか見抜いてるね、志朗と湊は」
「う、うるせぇなお前ら!さっきからブツブツブツブツと!あいつら喜んでんだからそれでいーじゃねぇかよ!」


僕と亮介に財布の紐が緩いことを指摘されたのが悔しかったのか、陣は打ち上げ花火をして遊ぶ志朗と湊を指差して反論した。

視線の先では、僕ら5人の中で1番大きくなった志朗が、ロケット花火に点火をして湊とはしゃいでいる。


「ジンー!!でっかいヤツやろーぜ、でっかいヤツーっ!!」
「おー!ちょっと待て、今行くー!」


湊と志朗に手招きされた陣が、ライターを片手に2人の方へ歩いていく。

僕と亮介は、ベンチに腰掛けながら、花火を楽しむ3人を眺めていた。


「帰ってきて…よかったな」


ふと、亮介がそう呟いた。
僕は、はしゃぐ3人から視線を外し、亮介の横顔をちらりと盗み見る。

けれど亮介の視線は、湊たちに注がれたまま。

僕は再び視線を3人に戻すと、亮介と同じような、聞こえるか聞こえないかの声で、呟き返した。


「……そうだね……」









湊と志朗が学園に入学すれば、僕らはアイドルグループ『BUCKS』としてデビューが確定する。

歌にダンスに芝居にバラエティに、仕事は多岐にわたるだろう。いや、多岐に渡らなければならない。

芸能界で図太く、しぶとく生き残るためには、それぞれが個性を活かして、ガッチリと仕事を掴まなければならない。

先輩アイドルのバックで踊る事も大切だけれど、まずは業界にコネクションを築き、根を下すこと。そしてそこから、他のアイドルや俳優を、或いは先輩を蹴落とし、勝ち残っていく。生き残っていく。


僕のやっている事が…枕をして仕事を獲ってくる事が間違っているとしても、それにより、他の4人の仕事が磐石なものになるのなら。業界で生き残っていけるのなら。


僕は、汚れたってーー…



「志朗と湊が入学するまでに、俺らで基盤を作っておきたい。お前が思ってるのは…大方そんなとこか。瑞樹」
「……え……?」


心の内を見透かすような亮介の言葉に、僕は固まった。
何を言うのかと、亮介の顔を見つめると、その視線は、今度は僕に注がれていて。
僕は亮介のまっすぐな眼差しに困惑し、少しだけ狼狽えた。


まるで…見透かされているようで、怖かった。



「抱え込むなよ。……頼むから」
「………」



言葉が足りていないようで、足りている。亮介のそういうところが、僕は鋭いと思うし、ズルいと思う。


正しく生きようとする亮介と、正しさを歪めてでも生きようとする僕。


「…ありがとう、亮介…」



僕は亮介の視線から目を逸らした。



本当は。



間違っていることなんて、十分すぎるほどに、承知している。



















翌朝。

夏さんが施設へ迎えに来る、待ち合わせの時間。

施設の門の前で車を待つ僕らを、湊と志朗が見送りに来てくれた。

けれど、2人の表情は冴えない。

理由は…何となくどころか、よく分かっている。


「なんだよお前ら…なーんか暗くねぇ?」
「…そんなことない」
「いやそんなことあんだろ湊…お前明らかにヘコんでんだろ…アレか?お兄ちゃん達がいなくなんのがそんなに寂しいか!」
「……うん。寂しい」
「……そんな直球で来られると俺すげぇ困るんだけど…」


わざとらしく陣がふざけてみても、湊はふざけることもない。

年下二人は、やはり離れることが寂しいのか、いつもよりも暗い。

すると、何を感じ取ったのか、湊は俯かせていた顔を上げると、少しだけ泣きそうな顔で、僕にこう尋ねてきた。




「またすぐ…会えるよな?」




『最近ギスギスしてるって、報告上がってきてるわよ』
『君の言う通り、神名亮介をドラマにクレジットさせたよ』
『売りでもやってんのかよ』
『5人揃ってデビューするんでしょう?』
『抱え込むなよ。頼むから』
『僕以外の4人が生き残ってくれればそれでいい』


ちがう。


ちがう、違う違う違う。


本当は。


……本当は。




「え……瑞樹……?」
「瑞樹くん……?」



僕はこの『5人』で、ステージに立ちたいんだ。


この『5人』で、『BUCKS』になりたいんだ。




頬を伝ったのは、僕の涙だった。


突然涙をこぼした僕を見て、驚き慌てる弟二人に、僕は涙を拭いながら微笑む。


「大丈夫だよ。何でもない…」
「何でもないことないよ、突然泣き出して…!大丈夫?瑞樹くん」
「大丈夫、大丈夫だよ、志朗…」


僕の顔を覗き込んで心配そうな顔をする志朗。
気付くと、湊も今にも泣き出しそうな顔をしている。
陣は湊の隣で、僕の顔をじっと見つめている。きっと、涙の理由を推し量っているのだろう。


ふと、肩に手を掛けられた気がして、顔を上げた。


僕の隣に立っていたのは、亮介だった。


こぼれるように、名前を呼ぶ。



「亮介……」



すると亮介は、何も応えない代わりに、強く僕の肩を抱いた。

伝わる体温に、僕はまた、泣けてきてしまって。

うっかり溢れそうになる涙を、ぐっと堪えた。


「志朗。湊。お前らが来年学園に来れるように、俺たちが頑張るから。…もう少し、辛抱しててくれ」
「…亮介くん…」
「そーそー!まずは俺らに任せとけ。しっかり道、作っといてやるよ。……だろ?瑞樹」


湊と肩を組んで、僕に向かって親指を立てる陣。
さっきまで泣き出しそうだった湊の表情も、陣につられて、ホッとしたようなそれになる。

僕は陣の言葉に、力強く頷いた。



「そうだね。…5人でデビュー出来るよ。きっと……」



そう言って笑うと、また自然と涙がこぼれてしまって。


泣きながら「おかしいな」と笑った僕の肩を、亮介はただ、強く抱いてくれていた。










しばらくして。

夏さんが運転する車が、僕らを迎えに来た。

別れを惜しみながら施設から、志朗と湊から離れる。



寮へ帰るその間、ずっと。

僕は車中で俯き、泣いていた。


何があったのかと驚く夏さんから僕を守るように、陣は道中、ずっと喋り倒していた。


そして亮介は、僕の隣に座り。
ただ、何も言わずに。



ずっと僕の肩を、抱いてくれていた。


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