「迎えに来た……?」
陣の問いかけに、榊は頷く。
ソファに腰掛けると、足を組んで、3人の顔をそれぞれじっと見つめながら榊が口を開いた。
「私はスカウトマンだと言っただろう?君たち3人を、スカウトしに来たんだ」
「スカウト……?」
「そう。…芸能界にね」
「なんだそれ」
芸能界という単語に反応したのか、陣が思わず吹き出す。その様子を見て、亮介も少しだけ肩を揺らした。
1人だけ榊を睨みつけているのは、瑞樹だった。
「なんで僕たち何ですか」
「君たちに価値があると踏んだからだ」
「どういう意味ですか?」
食いさがる瑞樹に、榊は肩を竦める。
「うちの事務所は常々人材を欲していてね。たまたま街で活動していたスカウトマンの目に、君たちが留まった。そしてここで暮らしていることまで突き止めた…それだけのことだよ」
「………」
納得はいっていないが、一応の説明になったからだろう。瑞樹は黙り込んで、榊を見つめ返した。
パン、と榊が手を叩いて、その両手を開いてみせる。
「さぁ、本題に入ろう。…まずは座って」
榊の言葉に3人はようやくソファへとその足を向ける。
そうして、榊の前に、並んで腰をかけた。
「この施設にいられるのは、確か18歳まで。…そうだったね?」
「……はい」
榊に言葉を促されたように、亮介が頷く。
この福祉施設にいられるのは、18歳まで。
18歳になれば、職を斡旋され、少年たちは否応無しに自立を求められる。
それを見越していることの不気味さを男から感じ取ったのか、瑞樹がそっと陣の横顔に視線を送った。
その視線に気づいた陣は、その意味を察したのか、険しい顔をして榊に視線を移す。
すると、その視線のやり取りに気づいていたのか、榊は陣に微笑みかける。
「私が探しているのは次世代のアイドルだ。それも、トップアイドルになれる人材」
「………」
……まさか。
そんな顔つきで、瑞樹は目を瞠る。
「私は君たち3人が、その次世代のアイドルにふさわしいと思っている」
その言葉に、陣、亮介、瑞樹は固まった。
この男は何を馬鹿げたことを言っているのだろうと、15歳にして大人相手に身構えていた。
騙されてなるものかと。
そう思う3人だったが。
しかし、矢継ぎ早に繰り出される榊の誘いに、その心は大きく揺らぎ始める。
「もしも私たちの会社と契約してくれれば、高校は私たちが経営する誠真学園へ特待枠で入学できる。もちろん無償だ」
「無償…?」
「タダ、というわけだ。全寮制故に、ここは出ていかなければならないがね」
「………」
「さらに、アイドルとして活動した分の報酬は、4割君たちに渡そう。タダ働きはさせない。約束しよう」
「…マジかよ…」
思わず零れた言葉に、陣はハッと口を塞ぐ。
それを見て笑った榊に、陣は慌ててその顔を俯かせる。激しく動揺していた。
「私と契約してくれれば、私が君たちの後見人となろう。社会的にも、身分は保障される。…どうだろう?」
悪い話ではない。
それは分かる。
だが、あまりのスケールの話に、すぐに返答などできるはずもない。
所詮3人は、15歳の少年に過ぎなかった。
「………」
榊は黙り込んだ3人を前にため息を吐くと、ゆっくりとソファから立ち上がった。
返事をしていないことで慌てたのか、パッとその顔を上げた陣を見て、榊は首を振った。
「すぐ決断するのは難しいだろうが、私も時間が惜しい。君たちがNOというなら、それも仕方ないと思っている」
「………」
「…明日また来るよ。返事はその時聞かせてくれればいい」
そう言って、榊はソファに座り込む3人の肩をそれぞれ触れていった。
しばらくして、ドアが閉まる音が、面会室に響いた。
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