施設の中央にある、食堂で。

3人は無言でテーブルについていた。

夕飯後はそれぞれの部屋へ帰るのが通例だが、しかし、今夜だけは特別だと、監督者の青葉から許可をもらって、雁首をそろえていた。

陣と亮介、そして瑞樹の間に流れる沈黙の理由は、たった一つ。


榊真哉の申し出を、受けるか否か――…


「…ここまで俺らを追いかけてきたんだ。マジで喉から手が出るほどほしい人材ってヤツなのかもしんねぇぞ?」

「でもたかだか施設出身のガキ相手に、やり方が派手だ。…あやしい」

「確かに。……でも、どうする?」


このまま黙っていても、里親も後見人も見つからないだろう。

それは三人とも分かっていた。

18になれば、強制的にここから旅立ちを余儀なくされるのだ。勿論、職業は斡旋されるが。


行くのか、退くのか。


…だが、退いたところで。


行く先などたかが知れている。


「…高校ってのは?誠真学園…とか言ってたか」

「青葉さんに頼んで調べてもらったけど、確かに、芸能科っていうのはあるみたい。それと、寮に入れるのは、その芸能科の生徒だけみたいだね」

「榊真哉ってヤツは、そこの校長なのか?」

「校長ではなかったよ。少なくとも、ホームページにそれらしい名前はなかった。ただ…」

そこまで話して、榊が置いていった名刺を、瑞樹がそっと机の上に差し出す。


『プロダクション・アース代表 榊真哉』


「確かに、この会社の名前は、卒業生のタレントの在籍先にあった…」

「ふぅん……」


テーブルの上の名刺を手に取り、その裏表を見ると、陣は再びそれをテーブルに戻した。


とんでもない賭けを強いられているかのような気分だと、瑞樹はため息をついた。瑞樹の気持ちを理解している陣と亮介は、そのため息に続きたい気持ちをぐっと堪えながら、名刺に視線を落とした。


決めなければならない。


次世代の『アイドル』として、榊真哉に身を委ねるのか。


それとも、施設に残り、静かに生きていくのか。


だが、一つ確かなことは。


「…でも…一人じゃねぇからな」


陣の言葉に、瑞樹と亮介がその顔を上げた。

その二人の顔を交互に見比べて、陣は笑う。なんてことない、というように。


「瑞樹もいるし、亮介もいる」

「陣……」

「まぁ…そうだな…」


少なくとも、3人揃っていることが、それぞれに安心感をもたらしていた。

唯一懸念するといえば、2つ下のあの二人の事。

それに思い至ったのか、すぐに瑞樹が肩を竦める。


「湊と志朗は悲しむだろうね。僕らがここを出るとなったら…」

「あー…そう、だな……」


参ったなと頭を掻く陣に、亮介が苦笑いする。


「いっそ条件に加えたらどうだ?契約する代わりに、俺達の働き次第で、二年後に湊と志朗も迎えてもらうって」


その亮介の言葉を聞くや否や、曇っていた陣の顔が、ぱっと明るくなる。それだ、といわんばかりの陣に、亮介はしたり顔で笑う。


「我ながら名案だな」

「でも…その条件、飲んでくれるかは分からないよね」

「だから言ったろ!!俺らの働き次第って!!だったら…やるしかねぇだろ!!」

「じゃあ……」


――ここで退くわけにはいかない理由が出来た。


「僕らの後に続く、湊と志朗の為に」

「簡単にはいかないと思うけどな」

「兄ちゃんたちに任せとけってハナシだ!……よし。決めた」

「あぁ。俺もだ」

「うん。…僕も付き合うよ」


3人は、テーブルの上で拳をつき合わせる。



……決意は固まった。




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