向かい合う、ということが苦手だ。
相手と向かい合って話し合うなんて事は、実は一番苦手だったりする。
自分が相手と向き合うと同時に、相手も自分をまっすぐ見つめるからだ。
全て見透かされるとは思わないが、それでも、心地よくはない。
それでも、そろそろ、あの二人とは向かい合わないといけない。
それは陣も、いい加減わかりきっていた事だった。
「おかえり」
深夜。
ラジオの収録を終えてバイクでキューブへ帰ると、リビングで瑞樹に声を掛けられた。
ダイニングキッチンには亮介も立っていて。
陣にとっては、あまり好ましくない状況だった。
「……おー」
二人とは、ホテルでの一件以来、距離を置いていた。
ぶっきらぼうに返事をすると、陣はなるべく亮介や瑞樹と目を合わせないように、二階へと逃げるように駆け上がろうとした。
が、それは瑞樹の一言によって阻まれる。
「待って、陣」
(…んだよ……)
面倒ごとは嫌いだと顔に書いてある筈だが。それでも、瑞樹は臆するどころか、ソファへと陣を手招く。
「ホテルで話し合って以来全然話してないでしょ。ちょっと話そう」
『男と女だろうが男同士だろうが、行為自体に大した意味なんてねぇんだよ』
瞬間、辰巳の言葉が頭をよぎる。
「……待ってろ。着替えてから戻る」
「わかった」
ダイニングテーブルにいた瑞樹が椅子を引き、リビングのソファをそっと撫でる。
亮介もその場に居合わせるのだろうと思いつつ、陣は自室のドアノブに手をかけた。
『問題は中身だ、中身』
辰巳の台詞が、陣の頭の中にリフレインしていた。
「俺が聞きてぇのはひとつ。お前らが本気なのかってことだ」
一人がけのソファに背を預けることなく、少し前のめりに、自分の膝に右の肘を立て、口元を隠す。
視線だけで瑞樹と亮介、二人を窺う。
仲間に向けるそれにしては鋭いそれだが、3人がけのソファに腰掛ける亮介は怯むことはない。少しだけ目を逸らしたのは、隣の瑞樹だった。
亮介はそんな瑞樹の様子に気が付きつつも、しかし、陣にハッキリと答える。
「俺はこの間言った通りだ」
その言葉に、弾かれたように顔を上げた瑞樹を、陣は黙って見つめる。お前はどうなんだ、と問いかけるかのように。
そしてその視線に答えるかのように、瑞樹はきゅっと一瞬下唇を噛むと。
ハッと息を吸った。
「…僕も……」
「………」
「真剣だよ、亮介のこと……」
告白は為された。
『問題は中身だ、中身』
辰巳の言葉を借りるなら、つまりそういうことなんだろうと。
陣の中で、ようやく結論が出た。
「はぁぁぁ………」
わざとらしく大きくため息をつく。
これでもう、認めないわけにいかなくなった。
パッと顔をあげる。
そして、固まったままの亮介と瑞樹の顔を交互に見遣って、陣は笑った。
「降参。もういい。わかった」
意地を張って口をきこうとさえしなかったのは、二人に置いていかれたと、どこかで思うところがあったからなのかもしれない。心細かったし、どこか裏切られたような。そんな子供じみた気持ちもあったせいなのかもしれない。
しかし何れにせよ、だ。
陣はソファから少し身を前に乗り出すと、真剣な表情で二人を見つめた。
これからが、肝心なところだ。
「別れろとは言わねぇ。だが俺みたいに周囲にバレるようなことがあっちゃ困る。グループのダメージになるようなことはすんな。それは守れ」
「勿論だ」
「分かってるよ」
亮介と瑞樹は、互いに目を配ると、陣の言葉に力強く頷く。
だが、話はこれで終わらない。
今から告げる、これも肝要だ。
「あと………体調に支障が出るようなことはツアー中はやめろ」
「……どういう意味だ?」
「ツアー中はヤんなって意味だよ!!言わせんな!!」
「あぁ…そういうことか」
「亮介……」
ため息をつく瑞樹に、納得したように頷く亮介。呆れ返った陣は、ようやくソファに背中を預けた。
短いようで長かったわだかまりが解けた瞬間だった。
「よし…これで解決。…こうなった以上簡単に別れんなよ、お前ら」
そう言って、二人を交互に見つめ、陣は深いため息をつく。
酷く疲れた。
いや、それよりも何よりも。
まず感じたことがある。
これだけは言っておきたい。
「ホテル暮らしもいいけど、やっぱここが一番落ち着くわ…」
「陣、珈琲淹れるか?」
「肩でも揉もうか?」
「やめろ気持ちわりぃ!」
久々に。
一緒に笑う三人。
陣も、瑞樹も、亮介も。
何も新しいスタートを切ったつもりはない。
ただ、そこに新しい絆が生まれただけ。
そしてそれを認めただけ。
最初からあった三人の絆と、亮介と瑞樹の間にある『特別』な絆。
久方ぶりの三人組。
笑い合う三人は、しばらくリビングを賑わせていた。
(よかった…殴り合いになったらオレどうしようかと思った…あーよかったーっ!!)
その様子を二階からこっそり見守っていた志朗が、そっと自室の部屋の扉を閉める。
キューブの天窓からは、優しい月の光が差し込んでいる。
久しぶりに、キューブに穏やかな夜が訪れた。
だが。
一難去ってまた一難。
次なる災難が、BUCKSに忍び寄っていたのだった。
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