パパラッチされると分かっていたら、あんな風に腕を組んだりしなかった。


(俺はちゃんと拒んだよ)


しなだれかかってくる女の匂いに、嫌悪感を覚えることもなかった。


(陣の匂いとは違う匂いだった)


…こんな風に、部屋で一人で、膝を抱えることも。


(なんでだろう)


(どうしてこんなことになっちゃったんだろう……?)













冠番組、収録の後。

キューブへと送り届けてくれる送迎中、話があると俺たちに声をかけたのはなっちゃんだった。

何か堪えてる時に眉山をピクリと動かす、なっちゃんの癖。

収録中から気付いていた。








−−−−バサ、


なっちゃんの手からダイニングのテーブルに乱雑に置かれたのは、一冊のゴシップ誌。

その見出しをパッと流し読みして、ハッと息を飲んだ。まさか、と。


『熱愛スクープ!BUCKS神名湊、若手女優を抱いた夜!』


えっ?


なにこれ?


嘘でしょ?


俺はテーブルからそのゴシップ誌を手に取ると、乱暴に見出しのページを探した。

そこには、真っ正面から俺と女優さんを捉えた写真が掲載されていた。目貼りも何もない。これは相手の女優さんも誰だか判別できる。


(ちょ、何これマジで……)


相手の女優さんは今頃どんな顔してこのゴシップ誌を眺めてるんだろう。
ここまで見事に撮られると、なんだか嵌められたような気持ちにさえなってしまう。

俺の複雑な心模様を察したのか、隣で黙って俺を見守っていた瑞樹の眉間に、深いシワがよる。今きっと、この報道が俺たちにとってマイナスになるかならないかを、瑞樹は考えているんだと思う。

そして同じくらいの深いシワが、正面のなっちゃんの眉間に刻まれている。


「あれだけパパラッチには気をつけろっていってんのに、どうしてあんたたちはそんなに油断できるわけ!?雑誌に載りたいなら、もっと別の方法で載って頂戴!!」

「今回のは…ターゲットは」

「湊よ。くっきりフォーカスされてるでしょ。…さすがに揉み消せなかったわ」


既に方々手を尽くした後なんだろう。腕を組んで仁王立ちするなっちゃんを前に、俺は二の句を告げることができずにいた。

ゴシップ誌を持つ手が震える。


(冗談キツイって、こんなの…本当何にもないのに、まるで……!!)


「こいつはまた…派手なゴシップデビューなこって」


陣にとっては見慣れた光景なのだろう。雑誌を横目にそう呟いて笑った。

咄嗟に、なっちゃんに向かって反論する。俺、ゴシップ誌になんて、今まで載ったこともない。どうしていいかわからない。ただ、手が震える。


「これは!!ドラマの打ち上げで!!この子が俺にもたれかかってきて!!俺この後、腕外したよ!?」

「どうだか」

「っ……!!」


陣の言葉が、グサリと心に突き刺さる。

どうだか?

どうだかって何だよ?

俺が本当にこの、ゴシップ誌の中の女の子と何かあったって、本気でそう思ってるの?


「お前、俺と辰巳さんが撮られた時、なんて言った?パパラッチされるなんて油断しすぎ、とか言ってたよな?」


そら見たことかと言わんばかりに、陣が畳み込んでくる。

俺はなにも言い返すことができずに、ただ呆然とその言葉を受け止めるしかできない。

亮介が鋭い視線を陣に送るけれど、陣はその程度じゃ止まらない。


「陣。やめろ」

「それがなんだ?数日後にはお前だって撮られてんじゃねぇか!!しかもこんな正面から!!油断しすぎなのはお前の方なんじゃねぇのかよ!!」

「陣くん!!」

「やめなさい陣っ!!」

「…っ……」



何だろう。


なんでだろう。


なんでこんなことになってんだろう?


なんか、もうさ、



(……情けなくなってくる)




「…もういい……」


なんか、もう、バカバカしい。

こんな写真一枚で、なんで俺、こんなに傷つかなきゃならないんだろう?

なんで陣に、ここまで言われなきゃいけないんだろう?

きっと俺は、陣には見られたくなかったんだと思う。俺のこんな姿を。


「……っ、……」


ぽろり、と涙が出てきてしまった。

もう本当、自分で自分が情けなくて。陣に怒った直後、自分も思わぬ形でゴシップ誌に載ってしまったことがあまりにショックで。


(何やってんだろう、俺……)


ゴシップ誌をテーブルに置くと、俺は二階へと、逃げるように階段を登った。

志朗の呼び止める声が聞こえたような気がしたけれど、とてもじゃないけどその場にいられなかった。

階段の手すりに手をかけるそのすがら、陣の顔をちらりと見たら、思いっきり目が合ってしまった。

先に目を逸らしたのは俺の方だったけれど。





自室へ駆け込んだ後、ジャケットを床に脱ぎ捨てて、ベッドの隅で膝を抱える。

ベッドの下、目の前にあるぐちゃぐちゃになったジャケットは、まるで俺の心をそのまま写したかのようだった。



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