手術中、と点灯する赤いランプを前に立ち尽くしているのは、湊だけではなかった。

志朗も、亮介も、瑞樹も。

ただそのランプが消える瞬間を待っていた。


マネージャーの夏は四人から少し離れた場所で、少し控えめな声色で電話をしている。通話の相手は事務所社長の榊だろうと、全員が察していた。






陣が救急車で運び込まれた後、病院から事務所経由で夏に一報が入った。それからすぐに、全員で病院に向かった。



陣は。


バイクでスリップした際に肋骨を二本折っており、さらにその先端の一部が肺に刺さっている、らしく。

現在、緊急の外科手術中である。






陣の状態について夏から説明を受けたメンバー全員が、この状況に言葉を失っていた。


オペ室を前にひとり肩を震わせている瑞樹。

亮介がそれに気付きそっと肩を抱くと、瑞樹がぽつりと呟いた。



「陣が死んだら…BUCKSはどうなるの…?」



ぽろり、と。

その言葉とともに、瑞樹は涙をこぼした。


「大丈夫だ、きっと……心配いらない……」


亮介の言葉が、静まり返った病院の廊下に響く。

この慰めが何の意味も持たない事を、瑞樹も亮介も、分かりきっていた。



亮介に肩を抱かれた瑞樹以外に、湊も志朗も、それぞれ込み上げる不安と戦っていた。



陣が死ぬなんて、信じられない。
あり得ない。
そんなこと、あっちゃいけない。



きっと陣は助かる。


(きっと……)


湊はその心の中で、何度も何度もそう繰り返していた。

直前まで感じていたわだかまりすら、今はどうでもいい。
ただ、陣が生きてくれるなら。

そう祈るだけだった。








ふと、遠くから足音が聞こえてきて。

湊が伏せていた顔を上げると、そこに立っていたのは榊だった。

出先から着の身着のまま駆けつけたのか、ネクタイが少し乱れている。


「社長…!」

「陣は。どうなってる」


マネージャーの夏が榊に駆け寄る。榊の視線は、夏を通り越して、手術室に注がれる。


全員の注意が榊に向けられたとほぼ同時だった。


突然、オペ室の扉が開いた。


何事かと固まる6人を前に、オペ室から出てきた看護師が声をかける。


「陣さんに輸血する血液が足りなくなる可能性があり、至急血液の確保が必要なのですが…!どなたかご協力いただける方はいらっしゃいませんか…!?」

「協力って…?ストックされてる血じゃ間に合わないんですか!?」

「陣さんの血液型は、OのRHマイナスという稀な血液型です!現在こちらのストック分で間に合わない可能性がでてきていて…最寄りの血液センターに問い合わせたところ、血液が届くまで最低でも1時間はかかるとのことで…!」

「そんな……!!」


慌てふためいた様子の看護師に煽られるように、夏の顔がひきつる。

まさか陣の血液型がここにきて問題になるとは誰も思わなかった。

血液型が稀だなんて、長年一緒にいた仲間でさえ、誰一人その事実を知らなかった。


「血液が…間に合わないって、そんな……」


絶望に全員目の前が暗くなる思いだったが、しかし、それに対して冷静に一言を発したのは、榊だった。


「湊。お前が確か陣と同じ血液型だ。行きなさい」

「え…、俺……?」

「湊も……RHマイナス……?」


突然名指しされた湊が驚く中、面食らったのは瑞樹だった。

そもそも陣がO型のRHマイナスだったことも驚きだったが、しかしそれ以前に、湊もそれに該当していただなんて。


寝耳に水もいいところだ。


湊自身も、それを知らずにいたらしく。動揺している。


「湊さん、ご協力いただけますか…!こちらお願いします!」

「え、は、はい…!」


看護師と共にオペ室隣の処置室へ入っていく湊の後ろ姿を、残されたメンバーは黙って見送る。









……おかしい。


榊が湊の血液型のことを知っていなければ、血液センターからの供給を待つしかなかった。


だが、榊は看護師の話を聞くや否や、すぐさま湊を指名した。何の迷いも躊躇もなく、だ。



(不自然だ………)



榊が間髪入れずに湊を推薦した不気味さに、瑞樹は眉をひそめた。

そしてふと生まれる、ひとつの疑惑。



(まさか……陣と……湊は……?)


『国民的アイドルBUCKS神名陣、その出生に迫る!』


瞬間頭の中をよぎったのは、昨晩見かけたゴシップ誌の見出し。そして駆け巡る、ひとつの疑念。


だがそれをここで口にするのは憚られる。


(…あとで秋さんに連絡を取ってみよう)


湊と陣の出自に関して、芸能ライターである秋に頼んで独自に調査をすれば、事の真相は少しはつまびらかになるかもしれない。



それは開けてはいけない、パンドラの箱なのかもしれないが。




……榊真哉。




その口から語られていない真実は、殊の外多いのかもしれない。


亮介に肩を抱かれながら、瑞樹はオペ室前に佇む榊の背中を、鋭い視線で見つめていたのだった。


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