『BUCKSは5人でひとつ』
何かが欠ければ、誰かがそれを補う。
陣が語った言葉の通り、BUCKSはそうやって芸能界を生き抜いてきた。
そしてここにきて、それが試される時が来た。
入院中の陣を除いた、残った4人でのBUCKSとしての活動。
不安は残るものの、しかし、仕事は舞い込んでくる。
警察の事情聴取を受けている陣。そして、その帰りを待つかのように4人で活動を続けるBUCKS。
世間の目はこの時点ではまだ5人に同情的だった。
しかし、とあるニュースが報じられて以降。
BUCKSを取り巻く状況は、激変してしまう…。
『独占スクープ!暴力団に襲撃された神名陣、亡くなった国民的アイドル榊真弥と、刺殺された6代目山ノ井組組長、山ノ井拓馬の実子か!?謎に包まれたその出生の真相とは!!』
「いい加減にしろよ、クソが…!!」
雑誌の見出しに、自身の名前がセンセーショナルに報じられているのを見て。ベッドの上から週刊誌を投げ捨てた。
煩わしげに舌を打つと、陣は床に落ちた週刊誌をギロリと睨みつけた。
それをゆっくりとした動作で拾い上げたのは瑞樹だ。
壁に背中をもたれさせ、それを静観している亮介は、2人のやりとりを見守る。
「息抜きに雑誌をと思ったけど…少し冗談が過ぎたね」
「瑞樹お前、ホンット趣味悪ぃわ…そんなモンわざわざ持ってきやがって!!」
「心当たりは?」
「ねぇよ!!」
陣の怒声をさらりと聞き流し、瑞樹が手元の雑誌をパラパラとめくる。
そこには、以前ゴシップ誌で見かけた榊真弥の写真と、ライブ中の陣の写真が、並べて掲載されている。その下には、6代目山ノ井組組長、山ノ井拓馬の写真も。
よく見てみると、陣は確かに榊真弥と似ている。目元なんか特に、だ。ただ、山ノ井拓馬という人物と陣は、似ても似つかないが。
榊真弥に似ているなどと、陣本人には口が裂けても言えない。瑞樹は内心苦笑いした。
「7代目に代替わりした山ノ井組が、どうして何の関わりもないお前を狙ったのか。警察も興味津々だ。ここのところ、毎日聞き込みに来てるんだろう?」
「あぁ。ホントに毎日だ。目が覚めたら部屋の前に警官が立ってやがる。俺だって知りてぇよ…なんで極道なんぞに目ぇつけられちまったんだか…」
片手で顔を覆う陣の視線の先には、瑞樹の持つ週刊誌。憎らしいと言わんばかりにそれを見つめる。
表紙を飾っているのが自分が健在だった頃のBUCKSというのがまた、皮肉が効いている。
「山ノ井組の7代目組長は、6代目組長を刺殺した疑惑もあるそうだよ。数ヶ月前に他の事件で立件されて、今は保釈されてるらしい」
「なぁ、俺が襲撃される理由ってのはどこにあるんだ?心当たりも何もねぇんだが」
「そう、そこなんだよ。その整合性をとらせるかのように出て来たこの週刊誌の記事……僕はかなりきな臭いと思う」
「確かに。これじゃまるで、陣が極道と関係してます、と言わんばかりだな。記事のタイミングが良すぎる」
「そうでしょう?6代目の息子だから陣が襲撃されたって、まるで周囲にそう思わせたいみたいだ。情報がどこから湧いたのか気になるよ」
「……いずれにせよやりづれぇな……」
陣がドサリとベッドに背中を預ける。
ベッドサイドに立つ瑞樹が、そっと窓側のブラインドに触れてみる。
ブラインドを少しだけ下げて窓の外を見てみると、テレビクルーの乗り付けた中継バス、そしてカメラマン達が、病院前にひしめき合っていた。
警察車両と思しきセダンが病院の駐車場に入っていく、その様ですらフラッシュを焚いている。
取材陣の望遠で見つかる前にと、瑞樹は窓際から離れた。
「警察が来たみたいだ。そろそろ出ようか、亮介」
「そうだな。…悪いな、陣。湊と志朗、連れてこれなくて」
「バーカ。こんな狭ぇとこにあんなウルセェのが2人もいたら、俺が参っちまう。…仕事だろ。行けよ」
「あぁ。行こう、瑞樹」
「うん。じゃあね、陣。明日また…」
「いいって。こんだけマスコミに張られてりゃ来るのも一苦労だろ?あんま無理すんな。俺のことはいいから」
そう言って、陣はおもむろにテレビのリモコンに触れる。
すると、偶然にもそこに映し出されたのは、生放送中のワイドショー。右上のワイプには、陣の入院している病院の正門が映し出されている。
何気なくつけたテレビだが、それに気づいた瑞樹と亮介が足を止める。
スタジオでは、自分たちの写真が掲載されたパネルが画面中央に置かれていて。
評論家やタレント達が、なにやら討論をしている最中だったようだ。
《陣さんが、この週刊誌が報じている通り、死亡した暴力団組長の息子だったとしたら、ですよ。これは大問題ですよ。現役アイドルが、亡くなったとはいえ、国内最大規模の暴力団組長の血を引いている…前代未聞じゃないですか?》
《東京湾に車を沈めてまで陣さんを潰しにかかったわけですよ、山ノ井組は。そこへきて、この記事でしょう?これじゃあ陣さんが今だに反社会的勢力と関係がある、そう思われても仕方ないですよ!これが事実なら、彼は榊真弥さんだけでなく、6代目の血も受け継いでいるわけなんですし》
「ッ…!!」
「陣!!」
リモコンを画面に投げつける寸前、亮介に止められた。
瑞樹はただ、食い入るようにテレビ画面を見つめている。
芸能評論家は、BUCKS本人たちに観られているとは知らず、そのまま雄弁に語る。
《反社会的勢力と関係しているのなら、陣さんはBUCKSから即脱退すべきですよ。芸能界から去るべきだ。それが出来ないのなら、BUCKSは今すぐに解散すべきでは?》
「………」
《彼らが社会に与える多大な影響を思うと、それが賢明だと思いますがね》
そう言われたのを最後に、陣は我慢しかねたのか、テレビのスイッチを切った。
真っ暗になったテレビ画面に、眉間に皺を寄せた三人が映り込む。
「…警察が来る。行こう」
「……うん…陣…」
「やめろ。……何も言うな」
「……また今度、顔を出すよ」
そうやりとりすると、瑞樹と亮介は、陣の病室を後にした。
「大丈夫か瑞樹…」
「僕は大丈夫。…心配なのはBUCKSだ」
「………」
「こういうの…なんていうかわかる?亮介」
「…この状況を、か?」
「……窮地っていうんだよ」
マスクをし、サングラスをし。
一般人に紛れてタクシーに乗り込んだ2人。
タクシーの車内で、瑞樹はそう呟いた。
窮地。
BUCKSは、窮地へと追い込まれていた。
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