活動休止。



たった4文字のその言葉。



その言葉に含まれる重み。



その4文字を背負った5人を、今や日本中が注目していた。



激しいフラッシュの嵐に襲われる。



記者会見が、開かれようとしていた。












『本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございますー…』


進行役の男性が、記者で溢れかえる会場にアナウンスをする。


陣、瑞樹、亮介、志朗、湊。


それぞれが、壇上の裏で、神妙な面持ちでアナウンスを聞いていた。


スーツ姿の五人。


静かに待機をしている最中、口を開いたのは湊だった。


湊が陣の袖を引く。


「ねぇ、陣……」

「…なんだよ。こんな時に」

「俺……俺さ……」

「まさか元組長の本当の息子は俺だ、とか言おうとしてる?」

「っ……」


陣と湊の間に割って入った瑞樹の一言が的中したのか、湊の表情が固まる。

それを察した瑞樹と陣が、首を横に振る。


「ダメだ。黙ってろ」

「どうして……!言わなきゃ、陣がずっと山ノ井拓馬って人の息子だって思われちゃうよ…!!」

「声抑えて、湊。落ち着いて」


荒ぶる感情を制御できないのか、湊は陣の手をとって、必死に訴える。

けれど、陣は湊の手をすっと退かせると、まっすぐその目を見た。

陣の眼差しに、びくり、と湊の肩が揺れる。


「お前が俺の弟なら、尚更だ。あんな目に遭うのは俺だけで十分…身代わり上等だ」


そう言って腕を組むと、陣は肩を竦めて湊に笑ってみせた。なんてことない、と言わんばかりに。

瑞樹は湊の肩を抱くと、ゆっくりと、言い聞かせるように語りかける。


「僕らは湊の味方だよ。何があっても。だから何も心配することはないよ。山ノ井組のことは、黙っているんだ。…いいね?」

「それじゃ……陣が……誤解されたままになっちゃう……」

「かまわねぇよ。俺が山ノ井の息子ってことで今回の事故が仕組まれたんなら、それでもうチャラだ。…お前が襲われることもねぇ」

「………」


湊はグッと言葉を飲み込むと、そのまま俯いた。

陣が、自分の身代わりとしてその役目をまっとうしようとしている。

傷だらけになりながら、自分を庇おうとしてくれている。

…かける言葉も見つからなかった。


湊が押し黙ったのを見て、陣と瑞樹は視線をかわしあった。



『それでは、記者会見を始めさせていただきます』


進行役の男性の声が聞こえた。

陣は襟を正すと、壇上へと足を進めた。

湊、瑞樹、亮介、志朗が、その後に続く。









白い長テーブルが置かれた壇上へと上がったのは、陣を先頭にしたBUCKSの5人。


5人が壇上に上がると同時に、一斉にフラッシュが焚かれる。


目を細めたのは、眩しさと煩わしさ。


こんなにも居心地の悪いフラッシュは初めてだった。


5人が席に着くと、記者団は静まり返った。


(原稿通り…………)


陣の頭の中によぎったのは、事務所が用意した質疑応答のシナリオ。


記者団の質問内容は事前に事務所によって吟味され、その答えも全て用意されたものである。


言ってみればこれはテレビ向けの茶番なのだ。


フラッシュを焚かれたところで、その写真写りが一番いいものを事務所が掲載許可をするだけ。


何もかも。


何もかもが、用意された茶番。



(…馬鹿馬鹿しい)



事務所が用意したシナリオは頭に入ってる。全員そうだ。

隣をちらりと見てみると、湊を始め、瑞樹も亮介も、志朗も。どこか俯き加減で。



(なんて顔してんだお前ら……)



陣は記者団へ向かって顔を上げると、スッと息を吸い込んだ。


そうして、進行役の男性を制する。


「すみません、僕からちょっと…話させてください」



予定外のことに、会場がざわつく。



「(陣)」

「(道連れだ。付き合え)」



瑞樹の声に、陣が囁き返す。

フッと笑った陣の顔を見つめた湊の瞳が、不安そうに揺れる。

それを見て取った陣だが、何も応えず、手元のマイクに手を伸ばした。



「今日、この場で僕らBUCKSの活動休止をお話しさせていただく予定でしたが…」


《………》


「活動休止はしません。このまま、BUCKSとして、5人で活動を続けます」



シナリオとは全く違う陣のコメントに、会場が一気にどよめく。


それに追い打ちをかけるかのように、突然、湊が目の前のマイクを持って立ち上がった。



「(湊!!)」

「(ごめん、やっぱり俺、黙ってられない…!)」



瑞樹の制止を振り切り立ち上がった湊が、フラッシュを浴びる。


そうして、陣に続いて、話し始めた。



「今回の……山ノ井組、元組長の息子が神名陣である、という報道は……偽の情報によるものです。本当は……山ノ井拓馬の、息子は……俺です……」


湊の突然の宣言に、会場から驚きのどよめきが上がった。


フラッシュを浴びる湊は、マイクを握りしめたまま、強張った顔つきで言葉を紡ぐ。


「それでも、俺も陣も、BUCKSも…。反社会的勢力とは、何の関係もありません。そこだけは、皆さんに分かってもらえたらって……俺は、そう思います。そう、願っています」

「………」



湊の言葉に、陣が顔を上げる。


マネージャーの夏が会見を強制的に終わらせようとするだろうと予想した陣は、間髪入れず、そのままマイクを持って立ち上がる。


そして深々と頭を下げる。


もう一度、一斉にフラッシュが焚かれる。


「今回、僕の事故の件でご心配おかけしたこと。スポンサー等関連会社の皆様にご迷惑をおかけしたこと。出自の件で世間をお騒がせしたこと。まずはお詫びします。…申し訳ありませんでした」



深く頭を下げると、パシャパシャとフラッシュの音が響く。




立ち上がった陣と湊の隣。
瑞樹も、亮介も、志朗も。

二人に呼応するかのように立ち上がり、やおら深々と頭を下げた。


握りしめた湊の手が震えていることを、湊の隣である瑞樹も、陣も、気づいていた。


陣は顔を上げると、ぎゅっとマイクを握りしめ。


そして記者団の方をしっかりと見つめ、語りかける。



「これだけ世間を騒がせておきながら、変わらず僕らに声援を送り続けてくださったファンの皆様。僕らを支えてくださった関係者の皆様。本当に感謝しています。ありがとうございます」


《………》


「僕らの出自がどうであれ、これからもどうか、僕らを信じ、そして見守っていてください。どうか…これからもBUCKSを、よろしくお願いします」


《………》



深々と、もう一度頭を下げた5人に。


再度、激しいフラッシュが焚かれる。


会見場の空気は、もはやどよめきも何も無く。シャッター音が響くだけ。ピリッとした静寂に包まれていた。



『恐れ入りますが、本日予定されておりました質疑応答は、中止とさせていただきます…誠に申し訳ございませんが、ご理解のほどー…』



陣と湊の突然の宣言に戸惑っているのだろう。

司会進行の男性の袖を引いた夏のその表情は固かった。














「全く…何を言いだすかと思ってヒヤヒヤしたよ、陣……」

「俺がヘマやらかすとでも思ってたのかよ。残念だったな」

「よかったぁ、活休にならなくて…!」

「とりあえずは、な。これを榊さんが受け入れてくれればの話だが…」

「………」


どこか安堵した表情で会見場を後にするメンバーだが、そこでニコリとも笑わないのは湊だ。

会見場であるホテルの地下駐車場に用意されたマイクロバスに乗り込むメンバーの中で、一人だけ、複雑な表情を浮かべている。


そんな湊の様子に気づいた陣が、肩を叩いた。湊は明るい表情の陣とは対照的に、暗い表情を浮かべる。


「陣、俺……このままBUCKSにいてもいいのかな……」

「何言ってんだ、いいに決まってんだろ。今まで通り、俺たちはアイドルを続ける。今の俺たちにできることをやりゃいい」

「………」

「お前が誰の息子だろうが、俺たちが兄弟だろうが何だろうが、今は立ち止まってるより動くべきだ。いい加減、ファンを放置しておけねぇしな。…そう気負うな」



湊の肩をぽん、と叩くと、陣はマイクロバスに乗り込む。



「けど……だけどさ……」



(俺のせいで、陣は傷ついたんだよ…)



俯いた湊も、バスへと乗り込む。陣に続いたその表情からは、拭いきれない苦悩が滲んでいた。








こうして、記者会見は異様な雰囲気のまま幕を閉じ、世間はBUCKS追放論から、擁護論へ一気に傾く。



BUCKSは少しづつ、普段の平穏を取り戻していくかのようだった。







だがしかし、湊の突然の告白が、BUCKSに更なる波乱を招く。




−−−招かれざる客。



その足音が、もうすぐそこまで迫っていた。



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