いつでも味方だと言われた。




安心しろと言われた。




けれど、安心なんてできない。味方がいたとしても。




陣は俺の代わりに襲われたんだ。





俺の、代わりに。










その日は雨が降っていた。


曇天の下、叩きつけるような雨。



そんな中で外でロケをしているんだから笑える。



「湊さん、すみません、雨で機材のセッティングが長引いちゃって。少し待ち時間長めに取らせてください」

「ハイ。分かりました、大丈夫です」



銀座の雑踏の中。


ロケ班から少し離れたところで、俺は傘をさしてロケの準備が終わるのを待機していた。


なっちゃんも今日は俺に同伴している。俺から離れたところで、今は誰かと電話している。


その様子をぼんやりと眺めながら、振り返る。









あの記者会見以降、BUCKSの冠番組に陣が復帰。その回は、周囲の予想どおり高視聴率を叩き出した。


俺の出自の事でワイドショーやゴシップ誌が一時賑わったけれど、会見の効果もあったのか、そこまで騒ぎ立てられずに、事態は沈静化。


今やメディアはそのことに触れようともしない。きっと事務所から圧力があったのだと思う。




…何もかも。




何もかもが元の軌道に戻り始めていた。




けれど、俺の気持ちは全く晴れない。



陣が事故に見せかけて襲われた事。



陣と俺が、腹を同じくした兄弟だった事。



俺が、日本で1番の勢力を持つ暴力団の、元組長の息子だという事。



これら全てが本当だったとして。



自分に罪を感じないわけがなかった。




陣とこんな形で繋がりたくなかった。

陣をあんな風に傷つけたくなかった。

陣を身代わりなんかにしたくなかった。



いくら後悔してもしたりない。


打ちつけるような雨の下、俺の心は空と同じく、迫る雲に押しつぶされそうだった。




「神名湊さん」





(………?)



街角でぼんやりと佇んでいると、写真を求められたり、声を掛けられたり。


どこか虚しい気持ちでそれらに答えている最中、誰かが俺の名前を呼んだ。


雨の音に紛れて消えてしまいそうだったけれど、でも、俺にはしっかり聞こえた。



(誰……?)



ファンの人ではないような気がして。


俺は辺りを注意深く見回した。



すると、視線のその先に、傘をさした一人の男性が現れた。


スーツ姿のその人は、俺をじっと見て。



「お迎えにあがりました」




そう言って、俺を見据える。


その瞬間、その男が誰をどこに迎えに来たのか分かった。



「………」


「七代目がお待ちです」




男の口がかたどる。



七代目が待っている、と。



振り返ってなっちゃんの様子を窺うと、なっちゃんは俺に背を向けてまだ電話をしていた。俺から完全に気をそらしている。



「………」



一歩、また一歩と。


俺は男の方へと足を進める。



傘が手から落ちる。



頭から雨に濡れる。



ザアアアアア、と、雨音が激しさを増す。



踵を返したスーツ姿の男の後を追う。



その先に、黒塗りのセダンが停まっているのが見えた。



男がその車に乗り込む。



俺はなっちゃんやスタッフに何も告げず、その場から離れた。













「……湊?湊はどこ?」

「湊さんですか?えっと、さっきまでそこに……あれ?いない……?」



事務所との電話を終えた夏が気づいた時には、待機していたはずの湊の姿は既にそこにはなく。


湊がさしていた傘だけが、路上に取り残されていた。


「ったく、あの子は!!どこ行ったのよ!?」


夏がスマートフォンを耳にあてる。しかし、呼び出し音は鳴るが、一向に湊は出ない。


それどころか、途中から呼び出し音も鳴らなくなり、一切電話も通じなくなる始末。







…湊の行方が知れなくなったと夏が青ざめるまで、そう時間はかからなかった。


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