『BUCKS』の売りは何だ、と聞かれたら。

それは『チームワーク』だと、陣はかつて答えたことがある。

誰かがミスをしたら、誰かがそれをフォローする。五人でひとつの生き物のように。個性を活かしながらも、そうやって生き抜いてきた。


けれど、それが今、初めて崩壊しようとしている。


瑞樹と亮介のキスを目撃して以来。

陣がキューブに戻ることはなかった。

グループでの収録やリハーサルのない日は、メンバーと顔を合わせることもない。ようやく顔をつきあわせたとしても、陣と瑞樹、そして亮介の間に、不穏な空気が漂っていて。それが湊や志朗にも伝染してしまい。


陣、瑞樹、亮介。3人の不協和音が、BUCKS全体の連携に、影を落とし始めていた。



「ノンノンノン!!ぜんっぜんダメよ!!動きがバラバラ!!」

スタジオに響いた怒声の主は、BUCKSのダンスマスター、makko。新曲の振り付けをしていたところだったが、五人の動きはあまりに精彩に欠けていた。

目の前にいるのは本当にあのBUCKSなのかと疑うほどに。





「……もういいわ。今日はここまでにしておきましょう」


パン、と手を叩き、肩を竦めるmakko。

新曲の振り付けは一通り終わったので、あとは個人でブラッシュアップするだけ。いつもなら、ここで粘り強く全員スタジオに残るところだが。

今回ばかりはそんな空気ではないことを、makkoもどこかで感じ取っていた。



『いつもと違う』



スタジオにいる全員が感じている違和感。

けれど、どうしようもない。


「………」


陣は腰に両手を当てて、スタジオの床に視線を落とした。どうしようもないその違和感の正体を、自分は知っている。


ちらりと、前に立つ瑞樹に視線を送る。

すると、スタジオの壁に張られた鏡越しに、瑞樹と視線がかち合った。


本当に、どうしようもない。というか、どうしようにもどうにも出来ない。


スッと視線を逸らすと、陣はスタジオの扉に向かって歩き出した。


「…先上がるわ。お疲れ」

「陣待って!!」


スタジオを後にしようとする陣の手を掴んだのは、湊だった。

湊は驚いたように振り向いた陣の顔を、じっと見つめる。
湊の大きな瞳の中で、一瞬だけ戸惑う。


それでも、隠さなければならない。
この違和感の正体について、口にしてはならない。


それを知らず、湊は純な瞳で、陣を見つめ続ける。


「ねぇ。なんで帰ってこないの?」


自身の手首を掴んだ湊から発せられたのは、素直すぎる疑問だった。


「………」


陣が湊から一瞬だけ視線を逸らしたその先には、不安そうな志朗と、そして俯く瑞樹がいた。亮介は、そんな瑞樹の隣で、じっと湊と陣を見つめている。

そんな状況に思わず舌打ちをしたのは、陣だった。


「……ただの気まぐれだ」


そう口にして、自身の手を掴む湊の手を振りほどく。


「気まぐれって…!もう一週間経つじゃん!」

「まぁな」

「まぁなって…、ねぇ!!陣!!」




スタジオを閉ざす冷たい鉄の扉を押して、陣がスタジオを出て行く。

瑞樹は陣を呼び止めることも、追いかけることもせず。ただ、俯くしか出来ずにいた。

スタジオを去った陣の後ろ姿を見送った湊は、ギィ、と軋んだ音を立てて閉じた扉に、少しだけ目を細める。


突き放されたようではなく、突き放された、と。


湊の心もまた、微かに軋んでいた。






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