「はい。」




「すみません、今お電話大丈夫でしょうか?」




「大丈夫です、何かご用でしょうか?」




「・・・泣いてます?」




「泣いてないです。」




「嘘は良くありません、赤井に何かされたのですか?」




「何も・・・。」




何もないですと言おうとして言葉を濁した自分になぜかまた涙が出てきた。赤井さんをかばうつもりはないけれどもなぜかこの男にはそれを察して欲しいような。藁にもすがる思いとはまさにこのことなのだろう。いけ好かない男の声になぜだか安堵感を感じる。




「今すぐにでもあなたのところに言って抱きしめて差し上げたいのですが。」




「結構です。」




「生憎これから会議が入ってしまっていまして。」




「それは良かった。」




「また今度、あなたに会いに行きますから。それまではおとなしくしていてくださいね。」




「それで、要件は?」




「いや、不意にあなたの声が聞きたくなって。」




「・・・気持ち悪いです。」




「これは手厳しい。」




「用がないなら切ります。」




「はい、失礼致しました。また連絡を入れます。」




「遠慮します。」




電話が切られた携帯からは悲しきかなプーップーッと電子音が鳴り響いているだけだった。会いに行きたいと言ってはいたが私の家の住所なんて彼に話しただろうか、いや、話し手などいるわけがないではないか。なぜなら私は安易に家の住所を教えないし、基本的には家は一人でホッとくつろぐ空間なのである。なのにあの赤井さんしかり、コナンくんしかり、今度は安室透までこの家を知っている始末。どうしてくれようか。




「引っ越そうかな。」




そうだ、引越しをして仕舞えばいいではないか。




でも、ここで一つの問題点に遭遇した。引越しときたらこの大量の本を持っていかなくてはいけない、そうなると引越し業者に是が非でも頼まざるを得ない、そうなると私がここに住んでいると知っている赤井秀一はその異変を察し必ずここにやってくる。




夜間の引越しに考えを移そう。今のご時世昼間の引越しができない人のためと夜間に引越しをしてくれる便利な業者様がいらっしゃるのだ。しかしこの案も当然のようにもろくも崩れ去っていく、なぜならみなさんもご存知であろう彼の目の下の隈を。彼はあまり眠らず仕事をしている。ということは彼の行動時間なんて誰にも予測できないのである。そうなるといつ引越しをしようが彼に捕まる可能性がある以上私は今まで通りこの部屋に籠城を決め込むしかないのである。悲しいサガである。


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