数日の籠城生活も佳境を迎えつつある。みなさんもうお気づきになられた方も多いはずだ。籠城というのはしっかりと衣食住が整った環境でのみ成立する作戦であって私のように退院してすぐ籠城を決め込むようでは食に関してのみ疎かになることなどすでに想像できた惨事である。




簡潔に言おう。




食べ物がない。




冷蔵庫には作り置きしているお茶、野菜が少々これも今夜底を尽きるであろう、そして冷凍庫には何も入っていないという惨事に直面して初めて外に出てみようかなどと思っているこの滑稽な思考はまさに凡人である。




ふとニュースをつけると先日の銀行強盗の映像が映し出されていた。犯行グループは現在も逃走中らしい。銀行員が一人拳銃で撃たれて亡くなっているらしい。なぜこのご時世拳銃を持ってうろちょろでき・・・。




拳銃持ってうろちょろしている人が一人思い浮かんで思考を止めた。




玄関先に何か不審な気配を感じる、何か言い表せないような。なんだろう。




「誄、いるなら出てきてくれ。」




「・・・赤井さん。」




チャイムを鳴らし、ドアをノックしているのは紛れもない赤井秀一である。今一番会いたくない赤井秀一である。もう一度言おう赤井秀一である。




「早く帰ってくれないかな。」




今更合わせる顔なんてないのに。
しばらくすると諦めたのか玄関の扉にあるドアポストに何かを入れて去っていった。




「なんだ?」




中には手紙にような紙切れが入っていた。
手紙にはこう書かれていた。




「お前の顔が見たい・・・。」




手紙ってもっとしっかりとした紙に書いてしっかりとした封筒に入れて送るものじゃないのか、とこんな当たり前をあの男に望んではいけないとわかっている。ドアポストから取り出した紙は今しがた手帳に急いで書き、いそいで破りとって入れたような切れ方と文字をしていた。しかし、そこからは今まで当たり前のように感じていたけど今では感じることのできなくなった彼の体温が残っていた。




「胸ポケットの手帳のページですか、赤井さん。」




その紙切れを握り目を伏せる。




「私だって、あなたの顔が見たいですよ。赤井秀一さん。」


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