2:生きて行く為の力


目がさめると森の中に倒れていた。ここはどこだろう。なんとなくだけれど周りが騒がしいのがわかる。慣れない明るさに目を細めながら開けると私の周りは今までに見た事もないくらいの大きな炎に包まれていた。



「なにこれ。」



周りが騒がしい、遠くから聞こえる声も何重にも重なっていてわかりにくい「火事だ。」「水を早く。」「助けて。」助けたいのは山々なのだけれど、いかんせん私もなにがなんだか状況が読み込めない、どうなっているんだ。
起き上がろうと倒れていた体を起こして地面に手をつく




「え?」炎が、私から出てる?




「なにこれ、止まって・・・止まってよ。」



明らかに炎は私から出ていた、なのに不思議と熱くはない。体を見るに火傷をしているあともない、この炎が私の力なの?なんで、こんな変な力を・・・。



「お願いだから、止まってよ。」



このままではみんなん燃えてしまう、人が住んでいるといことは近くに家があるといこと、住人が慌てているという事は、もう家の近くにまで炎が迫っているという事、どうしよう。全く止まる気配がない炎がまた大きな木を焼き倒していく。



「・・・なっ。」



不意に大きな衝撃が走ったとともに、私は意識を手放した。それと同時に見えたものは今までの勢いが嘘のように消えていく炎、あぁやっぱり、私のせいなんじゃない。










それから長い年月が経った。
本当に長い年月だったの、私が森とか、家を焼いた事件は5年前、私は今たぶん15歳ぐらいだと思う。本当の世界で死んだのが20歳を過ぎていたから10歳も若返ったなんてびっくり。



そりゃ、若返りたいとか思ったりもしていたけど、あのころは。今はこの年齢がとても難い、なにもできないじゃない、15歳とか。中学生よ中学生。



あの時気を失ったのは薬、たぶん麻酔関係だと思うのだけれどそれを打ち込まれたからによるものだった、それからずっとこのなにもない、コンクリートのようなもので囲われた四畳半にも満たない世界が私の暮らしているところ。そう、私はこの5年間ずっと監禁生活を送っていた。
この世界では常人では持たない力を持っているものを《悪魔の実の能力者》というらしい。《悪魔の実》とは《海の悪魔の化身》と呼ばれていて果物の形をしているらしい、その身を一口でも口にすれば常人離れした能力が手に入る。その能力者をこの世界では《悪魔の実の能力者》と呼んでいる。《悪魔の実》はその力と引き換えに食べてしまうと海から嫌われ、一生泳ぐことのできない体になってしまう、ようはカナヅチ人間、この世界にはカナヅチ人間がたくさんいるわけだ。



私がいるのはその《悪魔の実》の研究を行っているところで、初めに私を見た時《悪魔の実》を口にしてしまってその能力を制御できずにいるのだと、思われていたそう。だが、何度海に落としても私は自分の力で泳いで帰ってきた、その実の能力者ならありえないこと。ではこの力はどこからきているのか、はたまたそういう力のある《悪魔の実》が新しく発見されたということなのだろうか。研究者たちは私を実験台にすることにした。運の良いことにこの世界に私の身元を知っている人間はいない。好都合。実験をしている間に私が死んでも、誰からも訴えられることもない。安心して実験が行える。



私は5年間もの間、このクソのような実験施設で自分の力について嫌という程、苦痛とともに理解を深めた。私の力は発火に近い力、炎を操れる、どこからでも炎を出せる。その炎によって私が傷つくことは絶対にない。もう一つ、最近私の周りに奇妙な犬、いや、狼のような動物が現れた。「名前は?」と聞くと答えない。あたりまえか。私は



その狼に緋一と名前をつけて呼んでいる。



緋一のことは研究者たちも気がついていない、やつらが私の部屋に来ると緋一は姿を消す、これは推測だけれど、多重人格者のような感じだと思う。一人でいること、この実験施設での苦痛などが合わさって生まれた存在、私の妄想でしかない。だから都合の良い時に現れて、消えていく。



私の最初の友達。



本日の実験も苦痛とともに終わりを告げた、ボロボロの身体で充てがわれた部屋に戻る。もちろん研究者付きで。私を部屋に打ち込んで鍵を閉める。それがこの研究者の仕事。その日は雲一つない綺麗な夜空だった。



「この施設から逃げだしたいとは思わないのか?」



「え?」



鉄格子のかかる窓から漏れる月明かりが言葉を発したそれを後ろから照らしている。



「緋一って、話せるの?」



「あぁ。」



「私の妄想じゃないの?」



「妄想であり、妄想ではない、お前が一人は寂しい、ここから逃げるための力が欲しいと願っているから生まれてきた。」
なんだこのご都合主義な展開は。



「どういう意味?」



「願っても、生まれてこれないものがいる。どの世界にも、もちろんこの世界にも。俺はそういう存在で、その存在は本当に必要としているものの為にしか生まれてくることはできない。」



「多重人格説は?」



「当たらずも、遠からず。」



なんだそれは、でも好都合。



「ここから出たい、実験されるのはもう沢山。私自身の力もわかったから。もう大丈夫。」



「その言葉を待っていた、俺はお前の力の象徴。」



「うん、わかってる。」



その夜、私は緋一とともに5年間過ごした思い入れも微塵もない研究施設を出た。
自分自身の部屋の壁を壊し外に出ると、目の前には長い坂が見えた。ここは山頂。実験施設は人目につかない所に建てるのが一般的だと思うが、まぁ、木に囲まれているから隠れているようにはなっているのだろうか。
久しぶりに吸った外の空気は、実験施設から出る煙やらなんやらで少し濁っていたけれど、とても新鮮で、涙が出た。



部屋を壊した爆音を聞いて研究者たちが血相を変えて私を探している、もう絶対にあそこへは戻らない、緋一と一緒に長い坂を下る。海に出れば使われていない船が一艘ぐらいあるだろう。しかし、長い間あの限られた空間にいたせいか、目に見えるほど体力がなくなっている。足も手も、何もかもが細い、こんな体で生きていけるのだろうか。



坂を猛スピードで降って茂みに隠れる。上がった息を静かに整える。



心臓はバクバクいっているし、手と足が震えているのがわかる。元の世界で死んでしまってから新しい世界に来て、初めての外の世界。自然と胸が高まった。月も綺麗で、空気も下に来れば綺麗だった、逃げる為に走っている時に擦りむいてできた傷さえも嬉しい。本当にあの空間から出ることができたのか、と。本当に嬉しくてたまらない。
そんな思いとは裏腹に近ずいてくる影が見えた。緋一が私の前に立ってくれる、心強い。元はと言えば私の妄想、幻覚から生まれたような存在だけれども、今はこんなに心強い存在はない。



影はだんだんと大きくなって。




「子供が一人で何やってるんだよい。」




パイナップルの形をしていた。


- 2 -

*前次#


ページ:



ALICE+