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青春バタフライ
みずいろ
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 偶然、そこを通った時、バシャッと水が跳ねる音がした。時間はそろそろ部活動が終わって撤収するような時間帯で、どのクラブも撤収作業に追われていた。
 辺りはすっかり暗闇に包まれ、空にはきらきら満天の星。いつもは気にせず通り過ぎているのだが、何故だかその時はとても気になった。

「え……」

 部室に戻る途中にあるその場所は、俺を含め、多くの生徒にとっては未踏の場所だ。うちの学校には有り難いことに水泳の授業はなく、暗黙の了解で関係者以外立入禁止のその場所は、文字通り関係者である水泳部員以外は足を踏み入れない。

「さかな……、だ」

 そんな聖地の鉄門を初めて抜け、初めて足を踏み入れたプール。その日は目が覚めるような晴天の一日で、どうやら久しぶりに開閉式の屋根が開いていたらしい。おまけに窓も開いていたから、偶然、水音が耳に届いたのだろう。
 プールサイドの隅っこからこっそりプールのほうを見てみると、一人の生徒がプールに飛び込み、しばらく魚のように水中に潜った後、がばっと水面に顔を出した。

「……飛び魚!いや、イルカか?」

 それからその生徒は物凄い力強さで水を掻き、物凄いスピードで泳ぎ始める。初めて間近で見たその泳ぎ方は所謂、バタフライと言うやつで、俺には蝶々と言うより、飛び魚やイルカのように見えた。
 水の上を滑るように悠々と進むその姿はイルカそのもので、金づちの俺にはその姿は神々しくもあり。

「……水谷!」

 その生徒の正体が隣のクラスの水谷だとわかった時、俺は驚きが隠せなかった。


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