夢伽莉斗-公爵嬢ver.
これほど胸が高鳴ったことはかつてあるだろうか。こんなに呼吸が喘ぎ、喉が狭まっていく感覚を味わったことはあるだろうか。
数十分間、応接室では沈黙が巣食っていた。なぜって、どう切り出すべきか考えあぐねていたのだ。この 私が。
ラムズは恥ずかしげもなく額を晒し、貴族にしては露出の多い服を着て、公爵嬢の私の正面で無作法に膝を立てて座っている。手触りのよさそうな銀髪は塩梅よく跳ね、目元に数本の髪が降りている。その跳ね感や落ちた髪の本数でさえ、彼の謀なのかと訝ってしまう。
銀をまぶした白磁の肌は、傷はおろか皺も黒ずみもない。睫毛の扇は下瞼に黒を添え、等間隔で瞬くその眼の奥には無が据わっている。すらりとした首筋では不自然なほど血管が浮き彫りになり、肌蹴た胸元は扇情的で、彼が男であることを忘れさせた。
細い手首の先、滑らかな指爪がグラスを傾ける。ワインの雫がぽたりと床を鳴らすたび、責付かれている気分になった。
不機嫌そうに眼を眇めたのも、やはり私の話を待っているからだろうか。胸が深い靄に絞まっていく。指先が忙しく震え、瞼がぴくぴくと揺れた。
「き……」
こちらのほうが華やかで高級なドレスを着ているし、貴族として位が高いのも私のほうだ。今までもなんだって恣にしてきた。なにを恐れることがある。ひとつ命令するだけではないか。
「気に入ったわ。情夫にしてあげ、て、も……」言葉が尻切蜻蛉に縮んでいく。彼の眼が怖い。「いえ、その……。なんでもするので……」
我勢はみるみる冷たい双眸に殺された。
もう嫌。恥ずかしい。耳を塞いでこの場を立ち去ってしまいたい。
彼の顔が淡い笑みを帯びる。こつんとグラスを机に置くと、ひそやかに身を乗りだした。私の肩を掴み、耳元にその美しい顔を近づける。
やめて。死んでしまうから。そんなことされたら、今まで必死に抑えていた心悸が、心臓が、ねぇ、
「じゃあ、死んで?」
甘く滲む耳語が鼓膜に届くころ、本当に心臓が止まった。
@Rito_mythA