むぎ

 船体が海を裂いて進む音。帆が風を孕んではためく音。船員たちの威勢のいい声。それらを遠くに聞きながら、船長室に据えたベルベット張りの椅子にゆったりと座ったラムズはチェスの駒を手の中で弄んだ。

 美しい青年である。宝石でできた駒を繊細に扱う手は間違いなく男のものでありながら、華奢で優雅な造作だ。膝下まで覆う折り返しのある長ブーツも、裏地を鮮やかな青に染めたコートも金と宝石で彩られた、およそ海賊船の年若い船長には不釣り合いな豪奢なもの。しかし、それらに彼──ラムズ・シャークは全く見劣りしない。

 窓の外は明るい太陽の光に溢れているにも関わらず、船長室の中はまるでラムズが収集した宝石たちが陽の光まで取り込んで己の煌めきに変えてしまっているように、ひっそりと薄暗い。

 煌びやかな仄暗さで満ちたこの空間と対照をなして、血液の循環すら感じさせない白い肌が浮いている。三角帽子から零れる銀髪は最上級の絹のように滑らかで、左目を眼帯で隠す武骨さまで優雅に覆っていた。

 しなやかな長身は細身だが、頼りなさは感じさせない。何か奇妙な万能感が、彼の内側から漂ってくるようだ。それを最も強く表しているのは瞳だ。下品ではない絶妙さで大きく肌蹴た胸元に輝く、見事なサファイアの首飾りに勝るとも劣らない青さの瞳。

 生気らしいものを全く感じさせないその瞳に澱んだ感情は、どんな使族でもきっと正確に読み取れはしない。まるで液体と化したあらゆる青い宝石がぬらりと眼球の内側で流動しているように、彼が視線を移動するたび青の濃淡が変化する。

 陶器肌の人形のように冷たく整った美貌に蠱惑的な笑みを浮かべて、ラムズは手の中の駒をチェス盤の上へ配置した。

 すべての駒は在るべき場所へ。ラムズの興じるゲームにおいて、番狂わせも奇跡も起こり得ない。

 或る角度において、神はどうせなにも見ていやしないのだ。


@mugikomugi_0531


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