新星の序曲



第1話




 新たな星の誕生を目の当たりにした。
 その星の輝きは、真っ直ぐと私の心の隙間を照らして釘付けにしていく。
 昔から私はキラキラと輝くステージの上で、楽しそうに生きている悦びを身体全体を使って輝いている姿を見るのが好きだった。テレビの前で、または同じ箱の中にあるステージで見るそれに憧れたから同じ世界に飛び込むことに疑問は無かった。
 強いられてきたわけではない。両親は昔から活躍する俳優ではあるけれど、「同じ世界に来なさい」と命令されたことはない。私が望んで連れてきてもらった世界だ。
 そんなに綺麗な事ばかりではない世界だけれど、強く願った世界に飛び込んでいこうとする彼らを私は応援しようと思った。
 純粋に人を笑顔にしたい、幸せになりたい、楽しい事を目一杯やっていきたい。同じ世界に飛び込んで、共有したい。芸能界は、そういう場所でもあるから。

🎼

 『IDOLiSH7』──駅の出口付近で配っていたチラシを、スーツを着た可愛らしい女性から受け取った。そのチラシを明音は好奇心で確認してみると、そこには七人のアイドルの顔写真が載せてあり、見覚えのある人たちがいて驚いた。
 和泉一織と、和泉三月。
 知り合いと言うほどでもないが、彼らのご両親が経営しているパティスリーには何度か行っているので見かけたことがある、ということだけだけれど。あの店のチョコレートケーキは絶品で、よく自分へのご褒美に買っている。
 閑話休題。この日の夜はオフになっていた気がするので、確認のためマネージャーに伝えておく。
 たまに使う電車は人が多くてあまり慣れない。毎日のように使っているのなら、こんなに疲弊することはないだろう。マネージャーに持たされたチャージ式のカードを使うのには楽しくなるくらいには慣れてきたけれど。
 手渡されたチラシを鞄の中に仕舞って、現場へと向かう。今度の休みは久しぶりに『force chocolat』のケーキをご褒美で買いに行こうと予定を立てながら。



 最近はよく彼らとの縁があるのかもしれない、と思うくらいに明音はIDOLiSH7のメンバーとの接触が続いた。明音の通う七星学園に和泉一織と四葉環が転校してきたのだ。
「──から転校しました、和泉一織です」
「四葉環でーす」
 近々、台場野外音楽堂でライブをする予定のアイドルの卵がこの学校に来た。明音と同じく芸能活動に身を置きながら通うのだろう…ということを知るのはこのクラスでもしかしたら彼女しか知らないかもしれない。
 涼しい顔をして自分の席へと歩く一織は、ちらりと明音を見たかと思うと着席してしまった。環もその隣に腰を下ろした。相手が芸能人だと知りながら声をかけることのできないファンの気持ちを何故か今ここで体験してしまったかのような気分だ。
「(和泉くんと目が合ったような気がした…)」
 横を通り過ぎて後ろの席の彼らをじっと見つめるわけにもいかなかった。ただでさえ明音は目立つ容姿をしているのだ、迂闊に振り向けないと自覚している。
「(ライブ行くよ…なんて言うと驚かせちゃうかな…でも見に来て欲しいよね、折角あの大きな舞台でやるんだし……)」
 悶々と一人問答をしたが初対面からいきなりそういう話をされても困るかもしれないと結論付けると、ホームルームの先生の話を聞くことに専念することにした。
 今日も授業を二時間したあと、昼ご飯休憩中に早退させてもらい仕事に行くことになっている。昼休みは彼らと交流するチャンスではあったが、仕方がない。

「明音ちゃん、二年生になってどう?」
「いつもと変わらないかな」
「今年こそは恋人ができたりして?」
「んー、どうかなぁ」
「兄さんも陽万里さんも明音ちゃんのこと大好きだから、きっと意地を張るでしょうね〜」
「お母さんは気にしないと思うけど…」
 父親の妹である叔母──麻美子は明音のマネージャーで、学校の送迎もしてくれている。
 昔から忙しい両親の代わりに行事に来ては、動画や写真を撮って鑑賞会をしていると聞いた明音だったが、知りたくなかった。恥ずかしいからせめて写真だけにしてほしいと抗議したのも随分昔の話だ。
「それより、今日はRe:valeとの共演がある。近いうちに千くんとはドラマでも一緒になるから、挨拶しておいてね」
「分かってます。千さんと撮影、楽しみだなぁ」

 『Re:vale』──今をときめくトップアイドル。百さんと千さんには、いつもテレビ番組でお世話になっている機会が多い。明るくひょうきんに私を笑わせてくれる百さん、優しく包み込んでくれるような雰囲気をもつ千さんにはいつも頼らせてもらっている。
 テレビ局に向かう車のBGMは、Re:valeの最新アルバム曲が流れていた。



 小鳥遊寮、一織の部屋。
 彼は一人とあるドラマの録画を見ていた。数十年前から続いているシリーズもので、名だたる有名俳優の出演する学園ドラマがある。そんなドラマで、ひとりの生徒役をしている自分と同い年の女優が出演していた。
「(主役ではないのに、目を奪われてしまう──)」
 つい最近同じクラスになった彼女──星上明音があの学校にいるとは知らなかった。彼女は巷では天才と謳われているが、一織自身も納得の技術で大袈裟に言われているだけではないと分かる。
 今はあまり話せてはいないが、いつか彼女の魅力を知るためにお近づきになってみたい。同じグループの大和の表現力よりも更に洗練された技術は、今後自分にも演技の仕事が入った時に役立つだろう。そんな邪な考えだけで近づくのは気が引けるけれど、折角手の届く距離にいるのだから甘えさせてもらおうじゃないか、と一織は拳を固めた。
 それよりもまず、IDOLiSH7の今後について考えなければいけないことを思い出した一織は早速マネージャーに提出するための資料作成に取り掛かる。
 そもそも一織の目的は兄である三月が夢見たアイドルになる手助けをすることだ。



「星上さんお休みなんですか」
「そうらしいよ。なんかクラスメイトの奴らが言ってた」
「ご多忙の彼女が毎日来てるわけがないか…」
「いおりん、あーちゃんのファンなん?」
「……『あーちゃん』?」
「名前が明音だから、あーちゃん。だめだった?」
「それ本人の前でも呼んだんですか」
「こないだ話した時にな」
 環が自分よりも早く明音と接触していたことにも驚いたが、馴れ馴れしくも自分と同じように勝手にあだ名を作って呼んでいたことにも衝撃を受けた一織は一瞬フリーズしてしまった。
 昔からコミュニケーションをとるのが苦手だったし、誰が誰と話をしていても、仲良くなっていても気にも留めなかった。なのに今回は少しショックを受けてしまっている。
「…まー、次会った時いおりんのこと紹介してやるから落ち込むなって」
「落ち込んでませんけど!?」
 別にそういうのではない。ミーハー心の好奇心でもない。そんな一織の胸の内は本人でもよくわかっていないけれど。

 一織から見た明音の印象は、“しっかりとしている同い年”というシンプルなものだった。年上ばかりの作品でも引けを取らない巧みな演技力は、誰の目をも引き寄せてしまうのだろう。両親譲りの整った容姿も一因となっているのは間違いない。
 学校で見かけても、その印象は変わらなかった。背筋の伸びた立ち姿は凛として美しく、表情豊かにクラスに溶け込んでいるコミュニケーションも流石のものだ。
「(何か、きっかけさえあれば…)」
 仕事では、まだ到底一緒になることはないだろう。明音は俳優業で以外、あまり番組で見たことがない。極たまにバラエティに出ているが、自身が出ているドラマなどの番宣にくる時のみ。イメージを重視しているのか、単にバラエティが苦手なのか定かではないけれどいつか仕事でも会えることを願うばかりだ。

🎼

 それからあっという間に台場野外音楽堂でのIDOLiSH7初のライブが敢行される日となった。先程彼らはマネージャーである小鳥遊紡から観にきたお客さんが九人であることを知らされた。
 デビューもしていないアイドルの卵なのだから、その人数は妥当だけれど大きすぎる舞台には寂しすぎる。たったの九人、されど九人。一人ひとりをこれからも離さずファンとして応援してもらうために精一杯歌とダンスを届けるだけ。
 彼らの気持ちはひとつになった。

「(お客さん…指で数えられる人数しかいない…)」
 こんなに紛れこめない会場があるものなのか、そもそもアマチュアアイドルが借りる会場の大きさではない。そんなことは分かっていたので、ちゃんと変装してきた明音は一人で来ていても誰にも気付かれていない様子だった。
 会場には一人で来ているOL、学生の友達同士のお客さんがちらほらといた。そして隣には小鳥遊事務所の社長さんと若く髪の長い男性がいる。
「あの〜おひとりで来たんですか?」
「はい…えっと、たまたま予定が空いていて。気になってたグループだったので、来てみたんです」
 一人で来ていた女性が明音に話しかけた。ライブが始まるまで待っている間の、少人数のファン同士の戯れを試したくなったかのようなおずおずとした寄り添い方で。
「一緒です〜!IDOLiSH7、すごく応援したいなって思ってて!あ、私が今のところ推してるのは陸くんなんですけど!」
「おし……あぁ!推し!」
「貴女は決めてるんですか?」
「私は……」
 見知った顔がいたから、推しは決めていなくて。と言うのは少し躊躇った。知り合いなのかと聞かれるとそこまでの関係でもないし、たまたま同じクラスになって、また知り合いが増えたと言えるような微妙な関係性でもある。
 気になっているメンバーの名前を言うより前にステージが暗転し、辺りは夕陽も沈んでおり真っ暗になった。女性はそれではまた、と自分の元いた位置に戻っていく。
「(また、はあるのかな…?)」
 今をときめく女優を相手に女性はIDOLiSH7のライブでまた会おうと言ってくれている。新鮮な体験だった。いつか私の推しアイドルを伝えられる日は来るのだろうか、存在するのかも分からない未来に少しの期待を抱いて明音は7人の立つステージに目を向けた。すでにその場所は煌びやかで、夜空に流れる星のように目が眩むような輝きを放っていた。
「こんばんは!俺たちIDOLiSH7です!」
 彼らの始まりのライブ。初々しくも、元気に溢れたパフォーマンスに心が躍った。つい踊り出してしまいそうになるリズム、明るい曲調、歌声──すべてに明音は今夢中になっていた。青と水色のペンライトを光らせて、出会ったばかりのクラスメイトを応援した。

「こんばんはー!アンコールありがとう!IDOLiSH7です!」
 9人の声が響く。その声は流星に願う懇願の声のように思えた。奇跡の輝きを再び目撃するために。
 そんな懇願の声に応えるように再び登場したIDOLiSH7に歓声を上げた。
「3000人分盛り上がってくれてありがとう!みんな、疲れてない!?」
 七瀬陸の労いの声に「大丈夫ー!」と一人一人が答えて、返事をしてのワンオペ状態になった。
「ありがとうー!」
「……あっ」
「(また和泉くんと目が合った…気がする)」
 明音が周りに倣って叫んだ時に、一織がその声のした方を向いた。
「あはは、それでは聴いてください!オレたちのオリジナル曲!『MONSTER GENERATiON』!」

私はこの光景を忘れる事はないだろう。
初めてメジャーデビューもしていないアイドルのパフォーマンスを見た。
その7人があまりにも楽しそうに嬉しそうにステージで歌って踊っているから、自分の初心を思い出すようだった。

『褪せない GENERATiONを君と』





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