本を読んでいればいいのに、今日に限ってそれをしない。若干居心地が悪くてティーカップに口を付けるけれどずっと見られている。
甘いアイスココア。真正面にあるカップには苦いコーヒー。用意したのは彼だから、子ども扱いされているような気がしないでもない。そしてわかりやすく見せつけてきているような気が、しないでもない。
「何かな」
「いえ、可愛いなと思って」
「ぶっ..っげ、っほ!!げほ」
「噎せないでください」
見られている。というより観察されていると表したほうが正しい。端正な顔に品の良い笑みをたたえてゴヨウさんは淡々と喋る。
「そんなに難しい顔をしなくてもいいじゃないですか」
「うーん....」
「せっかく二人きりだというの」
黒髪を通り越した向こうに置いてある観葉植物を眺めた。詩人の言葉というのは逐一気恥ずかしい。顔に熱が集まっていくのを感じて頬を手で押さえようとして、しかしこれでは恥じていることがばれそうなので、ココアのカップで顔を隠した。カラリ、と氷の音が響く。
「そう見られては飲みずらいんだが」
「へぇ」
「いや、へぇ、じゃなくてな」
「どうしてです?私を気にしながら時折コップで目元まで隠すようにしてココアを飲む姿は可愛らしいですよ、今キスをしたらココア味がするのでしょうね。美味しそうです、ココアも貴方の唇も。」
「っげ、ほ、... ごほっ!!」
「なに噎せているのですか」
彼はは目を閉じて静かにコーヒーを口にした。
「ところで」
「はい」
「あなたのうのうと誘いに乗りましたけれど意味はわかっていますか?」
「…へ?」
「もう手遅れかもしれません。私は欲しいものは欲しいんです、何があっても」
彼が少し身を乗り出すとシワの無い潔癖なスーツが歪んだ。実に危険だ。がた、と私が椅子を鳴らしても眉一つ動かさない。
「帰ろうかな」
「帰れるのですか?」
「……何故私の車が爆破されているのかな」
「おや、事故ですかねぇ」
勢い良く立ち上がったのに行き場をなくして(というより脱力して)また椅子に腰を落とすことになった。彼の言う通り、私の傍らで羽根を休めていたボーマンダは眠りこけていた。どうしてこんなタイミングで…疑念の片隅で、視界の端に捉えたフーディン。両手にはスプーンがきらりと光っていて十中八九、いや、十。
「ゴヨウさん....やってくれましたね」
「何をです?」
「…ゴヨウさんのそういうとこ、嫌」
エスパー使いは性格悪いんだ。やっとわかりました。憤慨してみせたら突然目が回った、ような気がした。瞬きをしてみたけど遠近感がおかしい。間もなくソファーに倒れこむ。あれ?
伏した私をすぐ真上から覗き込むように接近した彼がゆっくり囁く。
「私は好きですよ、貴方のこと、とても」
触れた唇は苦い珈琲の味がする。ココアではなかった。間もなく舌先でちろりと唇を舐められた後、顎をクイと持ち上げられた。
「貴方も私を好きでしょう」
「.....好き、だけど、ちょ、と、まっ!」
「待ちません抱かれてください」
ーーー
「はぁぁ〜〜先輩ほんとむかつく。抱いてぐちゃぐちゃにしたい、泣き顔見たい」
「うるせぇよ変態」
「君に何を言われても今の僕は無視できる自信があるよ先輩抱き殺したい」
「だめだなこりゃ」
「あーーーーなんで先輩はいつもいつも私の頭の中に私の意思とは関係なく浮上してくるんだい?背中で語ると思えば勝気な顔で振り向いたり遠くを見ていたり何故私が脳裏の先輩ごときに翻弄されなきゃならないんだい解せないね全く解せない。しかも現実の先輩は油断も隙もなさすぎてこの前なんてハニートラップも効かなかったよ私に好意を1ミリも寄せないなんて女性としてどうかと思うよ。色仕掛けしてもふぅん、で流されたんだよそんなことある?ないよホント意味わかんないぐちゃぐちゃにしたい」
「お前の脳味噌がわかんないわ」
「誘惑できないなら無理やり抱けば先輩泣いてくれるかな」
「知るかよ、と言いたいが無反応かもしれないぞ」
「........................................... ちゅーや?もしかして先輩とヤッたの?殺すよ?」
「ちっげーよ!!!!この前、その手の話を姉さんとしているのを偶然見かけたんだがな"快楽も羞恥心もなんなら記憶も奪う"って言ってたぞあの人」
「は????そんなの無効化すればいいだけじゃん」
「いや、お前の能力と先輩の能力は矛盾してんだよ。何でも盗める能力と何でも無効化できる能力ときた、どっちが強いかなんて分からねぇ。お前の無効化自体を奪っちまう可能性もあんだろ」
「は????なにそれ??もしそうだとしたら先輩ほんっっっっっっっとむかつくんだけど」
「私の異能はこのためにあったのか!!!!!」
「いやちげーだろ」
不感症というのも辛いが敏感すぎるというのもまた辛いものだ。
最初は「へー... 」と適当に聞き流していたが、いざ自分がそういう場面に遭遇し、そして実感すると想像以上に苦しいものだった。恋人から絶え間なく与えられる快楽に溶けていく思考。溺れていく身体。敏感な身体には些細な刺激ですら息を殺すほど甘い毒になる。それを知ってしまってからは崩れていく理性を守ろうと歯を食いしばり目を瞑りながら何とか逃げようとすることに常に必死であった。
しかし、問題はそれだけではなかった。私には誰にも言えない悩みがあった。その瞳で直に見詰められると全てを見透かされているようで、いつもより感覚が研ぎ澄まされる。要するに、あらゆる感度が増すのだ。
例えば自身の内側から甘やかな熱が、胸を焦がすような頭を麻痺させるような感覚が、じりじりと広がっていく。
例えば敏感な場所に触れられれば、彼に求められて暴かれていることを意識してしまい腹部に力が入る。そうすれば燻った熱が全身を深く支配するように広がっていく。
怖くはない。ただ、毒が染み渡るようにじっとりと惑溺される感覚に慣れないのだ。そういうわけで、どうにかその感覚を耐え抜くか圧し殺そうとすることに必死であった。
そしてフョードルは実は愛妻家であった。そういうわけで今日も、尚溺れさせようとするフョードルの攻防戦が繰り広げられている。
「イってごらんよ先輩」
「い、かない...!」
「だぁめ、イって」
「だざ、い、く」
「........先輩、自覚してよ。イきそうなの我慢してふにゃふにゃなのさぁ、困るくらいかわいいんだけど」
「!?!?!?」
必死に我慢して、能力もろくに使えてない先輩。」
フョードルは、そんな必死な恋人を更にどろどろに溶かすのが好きで、そして得意だった。顔を赤らめながら必死に目を瞑り唇を噛み締める仕草が、余計にフョードルを煽ることに全く付くわけもなく。
「.....」
もうずっと、体中を甘い刺激が駆け巡っていて、じっとしていられないほどの快感が続いていた。腰が溶けそうなほどの快感に爪先が伸びて、震えるように息を吐く。深く呼吸をしたいのに、息をしようとするだけで口からは嬌声が漏れてしまい、それが更に自分自身を追い詰めた。こんなんで、彼の目を見てしまったら。
「あ、ぁぁ..も、むり....!」
「もっと」
「ひぁうっ、んっ! ぁあっ!!」
無理と言いたかったのにぐっしょりと濡れた入り口を掻き回されて、掬い上げたどろどろの液体を敏感な突起に擦り付けられれば、抵抗の言葉は全て意味をなさない。何度もイかされた敏感な身体はすぐに火が灯り、奥の方から熱が湧き上がってくる。その熱をどうにか逃がしたくて腰を捻り足でベッドシーツを蹴った。
「暴れない」
「もっ、ゆるし、てぇ、!」
「やぁだ....だって無効化してないとセンパイ、自分の感覚とか記憶とか奪うでしょ、そんなの絶対だめ、許さない」
「だざい、く...、」
「ねぇキスしようか、酸素を奪ってあげる」
これ以上達したら身体が壊れてしまいそうだ。ふと、ベッドに沈んでいた身体を起される。力の入らない身体ではそのまま逃げることができず足を跨がせてゴヨウの膝に座るような形になった。足が、閉じられない。
「ねぇセンパイ、今日くらい、わたしに、捕まって」
「や、まって、ゴヨーーーーッ!」
「」
首筋に歯を立てられ甘く噛まれながら、胸の先端は爪で引っ掻くように刺激される。同時にぐちゅりと大きな水音を鳴らして指が中に入り、中で一番感じやすかった部分を擦り上げられる。逃げようにも逃げられず、胸を突き出す形になれば歩は先端を嬲るように責め立てる。それに耐えられなくて無意識に腰を引けば、それを追うように歩の指が中で奥を擦りつける。
「あ゛ッ ん、 ぐぅ…………イっく、」
「かわいい、こっち見て」
執拗な愛撫が訳が分からないほど気持ち良くて苦しい。それに加え、「可愛い」と言われるとどうしようもなく切なくなって頭が焼けるように熱くなる。単に快楽というには重すぎる何か未知の感覚が、奥底から広がって、どこかに逃げたいのに逃げられない。
「や、ぁぁ、いま、イッて、る...から」
「ええ、知っています...っ」
「フョード、 ..っあ、アアァ、ン、もぉ、や、」
「泣いている貴方は普段の姿からは想像がつかないほど扇情的で愛らしいくて、そそられます」
イっている最中にも敏感な部分を指の腹で擦られたり、ぐるぐると掻き回されたり、とんとんと小刻みに叩かれる。それだけじゃない、掠れた声を塞ぐように口を塞がれる。呼吸ができない。
やがて唇を離した歩はそのまま胸やへそをたどり、太腿を押し上げて濡れた蜜穴を舌先でなぞった。ゆっくりと花弁を割くように上へと舐めあげ、深く口付けるように唇を押し当てる。それに耐えられず腰を揺らせば太股を固定されたまま執拗に膨らんだそこを思い切り吸われた。
「あっ、んんんんっ!!」
「暴れないでください」
「ま、まって、おね、が、ぁぁっ」
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