キスが一番上手い国イギリス。そう言われていることは桜も知っていた。そして恋人であるアーサーがイギリス人であることも。だがキスといえばアーサーは頬に、額に、黒髪にこそ多いが唇へのそれは少ない。その上唇に触れたとて一瞬の不意打ちで終わってしまうものだった。だから桜は「キスが一番上手い国イギリス」という実感がなかった。

今日は2月11日。桜の誕生日でもある。そんなわけでアーサーと前から行きたがっていたレストランでディナーを楽しんだ後に帰宅、以前何気なく言った一言を覚えていたらしいアーサーからのプレゼントに桜は胸が温かくなりそして締め付けられる甘さを感じた。

だからアーサーがふと優しく笑ったその時に、つい口から出てしまったのだ。

「…アーサーさん」
「ん?」
「……大好きです」
「さ、桜っ…!?」

そして、今までは絶対にしたことがなかった桜からのキスを一つ、頬に落とす。途端に真っ赤に染まりわなわなと震えるアーサーは片手で顔を覆って俯いてしまった。

「ふふ、アーサーさん耳まで真っ赤です」
「ばっ…おま、言うな!バカ!」
「だって、可愛らしいんですもの」

なんてクスクスと小さく笑う桜に、このままじゃ終われないと英国紳士の血が疼く。可愛らしいなんてそんな言葉で片付けられては堪らないとアーサーは一呼吸置くと目の色を変えた。

「桜」
「はい」
「お前の方が可愛いって、教えてやるよ」
「…え、?」

アーサーは座っていたソファーから背を浮かすと振り向くようにして隣に座る桜を見つめる。やがて右手は背もたれに着き左手で桜の顎を持つと上向きにさせた。

「ア、アーサー、さ…!」
「ばーか、今更慌てたところで遅いぜ」
「っ、ん、んっ!」

確かに触れられた唇。それも不意打ちなんかではなくしっかりと目と目を合わせながら。触れた唇が一気に熱を持ち、桜は今までとは違うそれに固く目を瞑ればすぐ近くで笑う気配がした。

「耳まで真っ赤だし、可愛い」
「なっ、…」

仕返しと言わんばかりに意地悪くそう言われた桜は益々赤面するしかなく。しかし抗議しようと開きかけた唇はアーサーによって塞がれる。ソファーからずり落ちていく桜を追っていくアーサーに押し倒される形になった途端、彼の舌が桜のそれに触れた。

「っ!」

右手を絡めてはソファーに押さえつけ、もう片方の手は桜の髪を梳きながらもキスは止まらない。熱を送り込まれアーサーをより近く深く感じ桜は思考が溶けていく感覚を覚える。

「っ、ん、ぅ」
「大丈夫だから、俺に身を任せろ」
「っふ、…ん、ん」

上唇を吸われ下唇を甘噛みされ桜はもはや何も考えられないままアーサーに全てを預けるしかなく。呼吸する毎に聞こえるアーサーの甘い吐息が更に桜を追い詰める。

「バカ、息を吸え」
「っ、は、…っぁ、」
「そう、そのまま開けてろよ」

熱を送り込まれる度に厭らしい水音が桜の羞恥心を刺激する。薄目を開ければ視界に映るのは細められた綺麗な緑色の瞳に長く綺麗な睫毛、輝かしい金色の髪。唇が離れるとアーサーは親指で誘うように桜の唇をなぞる。

「惚けた顔しやがって、」
「は、ぁ…っ」
「そんな煽んなよ」

もっと食べたくなんだろうが、なんて舌舐めずりをするアーサーに桜は成すすべがなかった。


05.唇から伝染する