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世間を大きくー、特に警察関係者と麻薬取締局、薬品製造会社を特にーー、揺るがした事件がある。否、あった。
桧山は新聞を捲る。今日はは12月1日だが、事件があるのは未来に当たる31日。

土地の名を付けたその事件は20xx年最大の事件として一部だけ情報を意図的に隠した上で大々的に報道された。

概要はこうだ。

薬に対し免疫を持つ薬効体質なるものがあるらしい。それは噂程度だったが本当にその体質を持つものが現れた。そして薬効体質の彼女、泉怜は、麻薬取締局に引き取られる形となりそして元々の知略を生かしマトリとなる。
そしてその彼女の存在が裏社会や警察関係者にも知れ渡った。その結果、人間の生命維持及び医療発達と薬品開発のためと彼女を利用しようとする人間が現れた。そしてそれを医療発展という大義名分の元、支持する政治家や国家関係者も。
正しく協力を要請するならまだしも、裏社会の人間は彼女を実験台にしようと企て更には金儲けまで考えていた。
それを知りマトリと警視庁は一斉検挙のため捜査に乗り出す。そうして決戦の日。泉怜を殺してでもその身体さえ手に入れば構わないという強硬手段で彼女を襲う犯人に対し何がなんでも泉怜を守れという命が出た。その結果、それを実行した者がいた。

「柊 葉月…」

無数の弾丸、夥しい出血量、死に際の顔は苦痛に歪められていたという。泉怜を庇って殉職した、警視庁第一課の女刑事だ。
事件は彼女の死を以って完結した。関係者らは一斉検挙され、裏社会の医療ビジネスも見直された。そして、調べていくうちに彼女、柊葉月もまた、薬効体質であったことが分かったが、それは公表されなかった。一部の者は知っていたらしいが。

「それで、これは、何回目なんだ、柊」

彼女は覚えているのか分からない。俺と同じく逆行しているのかどうかは分からない。けれど俺はお前が殉職するのを、三回は見た。

いい加減、救済方法を見つけたいところなんだが、解決策は未だ見つからない。なにせ、過去を知る仲間がいないのだから。
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